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なぜ芸能人の育児論は炎上してしまうのか

お笑い芸人、品川庄司の庄司智春さんの育児に関するインタビュー記事を読んだ。

記事の中で庄司さんは以下のように語っている。

「本当に父親になった、俺も子育てしているぞと自覚したのは、息子が2〜3歳になるくらいかなぁ。息子は俺そっくりだし、生まれたばかりのときからかわいい。でも、生後すぐから2歳くらいまでの育児って、何をしてもママには絶対に勝てないんですよ」

この部分が「結局2歳くらいまでは母親には勝てないから、父親の出番はこないよ。言われたサポートだけしてりゃいい。子供が話すようになってからが、父親の本番なんだよ」と意訳解釈された結果、育児にフルコミットしているパパや、低月齢ワンオペがしんどいママから、アンチ意見が出ている。

それは主に「ママに敵わない」で済む人はいいですね、母親だって手探りですけど?という怒りや、母親神話撲滅がトレンドである最近の育児市場で「やっぱり母親にはかなわない」と文字に起こしてしまうバランス感覚のなさへの非難だったりする。

庄司さんのお子さん2人はすでに3歳以降であり、現在の育児の取り組みを等身大で語っている部分が大半なのだが、そこをかすめるほどにこの冒頭部分のインパクトが勝ってしまっている。

記事中では言語コミュニケーションがとれる2歳~3歳頃からが遊ぶのも楽しいし、育児している実感がもてました、とあるのだが、言葉が通じたほうが一緒にいて楽しいのは母親も同じである。

低月齢育児の孤独がこれだけ世に叫ばれている中で、「そこはママにお任せでいいよ」としてしまい、さらにそのスタンスを後輩芸人にもアドバイスしたと書いてあるため、ちょ、そんな啓もうしないでよ!と反発感情がわくのだろう。

この記事を一読したときに「これはたたかれてしまうだろうな」と感じたし、アンチ意見をTwitterに書いている方の主張も、おおむね理解できるものばかりだった。

しかしながら、「芸能人が育児を語ると高確率で炎上する」という近年の流れをみていて、思うところもある。

芸能人パパ・ママは育児専門家ではない

今回の庄司さんに限らず、芸能人が育児に関して発信したり持論を展開すると、高確率でアンチ意見がまき起こる。

その大多数は「パパ・ママ、ミルク育児、帝王切開などの特定の立場の人への配慮が欠ける」という指摘や「影響力があるのだから、個人の体験や考えを一般論ぽく話さないでほしい」という苦言だ。

要は「誰が読んでも不快な気持ちを感じない記事になっていない」と怒っているのだ。

いっけん正論のようにも聞こえるのだが、これは当たり前の現象である。
庄司さんは芸人だし、妻の藤本さんはタレントであって、育児評論家や発達専門家ではない。記事を書いているのも、メディアとなんらかの関係があるライターさんだ。

「どんな立場の人が読んでも心地よく納得感のある記事」に仕上がるわけはないのだ。というか、そんな目的で記事を制作していない。

タレントさんが育児を語るのは、ご自身のブランディングや金銭のためであって、育児界の発展のためではないし、掲載する側のメディアも、無名な専門家の話よりも、有名人のエピソードの方が多くの人の関心を集めるので、企画が実現する。

庄司さんの記事も、ひとりの父親の、ひとつの育児の話をしているにすぎないので、家庭ごとの教育方針や夫婦のバランスがそれぞれちがうように、賛同できない人がいるのは当然だ。育児とはそうゆうジャンルなのだ。

なのにこの手の記事がすぐさま叩かれるのは、読み手の期待値コントロールに一因がある。

現在育児をしているアラサー~アラフォーの親たちは、幼少期からテレビ放送に親しんだ世代だ。
少し上の世代よりもラジオや本を趣味にする人が減り、若い頃にはテレビ番組の視聴を通じてコミュニケーションを成立させてきた。

そんな私たちはテレビでおなじみの芸能人に対して、清廉潔白にして中立であれ、という期待値が高い。
どこかで不躾に信じているのだ。
「どうかうなるような、真っ当な育児論をもっていてくれ」と。

しかしその裏側では「芸能人の育児なんて、どうせシッターサービスに頼りきりで、ろくに自分でみてないんじゃないの?ポーズだけのイクメンならすぐ見抜いてやる」と粗をさがすような気持ちももっており、少しでもツッコミどころのある記載をみつけると、ホラ~~!!と突撃してしまうのだ。

完璧であってほしい一方で、至らなさを見つけてしまいたくもある。
そんな入り組んだ心理が、まいどまいどのタレント育児論炎上の根ではないだろうか。

庄司さんの伝えたかったこと

ここまで読み手側が手厳しいかもね、という意見を書いてきたが、もちろん、記事の見せ方にも問題はある。

タレントインタビューやホットトピックでは、web記事の中でも特にスパイシーなタイトルがつけられることが多く、本文を読む前から、読者に引っ掛かりをつけにいく手法が頻繁にとられる。

特にくだんの記事は、内容の大半は好感の持てる、ごく一般的な生活としての育児話なので、そちらにフォーカスさせた「普通すぎてすんません、でもこれが我が家の毎日育児なんです」などの方面のタイトルであったら、主題はそっちね、とわかるので、ここまでやんや言われることはなかったはずだ。

サムネイルの写真もあいまって、「全国のパパに2歳までは頑張らなくていいよ、とママを無視して断言しちゃってる」っぽい印象があくまでいけなかっただけではないだろうか。

記事にいちいち「あくまで個人の意見です」「全員がそうじゃないですけど」などの配慮分を入れてしまうとリズムが悪く弁明くさくなるので、編集で落とすことも多い。ここも誤解される要因だが、読み物の宿命でもある。

庄司さんは記事へのアンチ引用に対して、謝罪と弁明をされており、あくまで自分の家庭の例を話したこと、2歳までの育児もまるきりやらなかったということはないこと、をコメントされている。

これらを読んでいても、育児という正解はないが不正解は満ち満ちているテーマに言及したことに、ご本人も慎重な態度であることが伝わる。

推測だが、庄司さんはお子さんが赤ちゃんの頃も育児を頑張ってみたが、期待したような手ごたえを感じることができず、同じように苦しんでいるパパに向けて、その努力は報われる瞬間はくるよ!俺はきた!と励ますつもりでお話されたのではないだろうか。

「母親にはかなわない」も奥様への尊敬や、自分自身の不甲斐なさからの発信であって、母親とはそうゆう風にできています、あの人たちは努力しなくても自然と育児できます、という意味あいではなかったように感じる。

むしろ、母親だけに育児を背負わせず、出番がきたらめっちゃ頑張ろう!それまでめげるなよ、パパたち!のエールも読み取れる。

仮に庄司さんが2歳までまったく育児をしていなかったとしても、家庭の中で折り合いがついているのならなんら問題はないはずで、他人がとやかく言うことではない気がしてる。

お金がもらえるわけでもない、ただでさえ批判されやすい芸能人としての育児に、向き合ってきたからこそのメッセージだと思うと、お疲れ様の気持ちを、私は大いに感じるのだ。

これからも芸能人に育児論を発信してほしい

私は育児論を語り、子育てエピソードを露出させる芸能人の方を応援している。
なぜなら、彼らの声は「当事者以外」にも届く可能性が高いからだ。

育児も障害支援も、ずっと前からツラサがあるのに、なかなか改善しない業界というのは共通の問題がある。
「仲間」が増えていかないのだ。

毎年多くの子供が生まれ、新しく育児をする人は増えていて、何なら人間の数だけ親がいて、育児経験者で世の中は溢れているはずなのに、育児政策はいつも後まわしで、いつでも周囲の無理解に苦しんでいる。

自分の子供が大きくなり、時代が変わると、育児をしたことのある人が、その瞬間の当事者を否定し、敵にまわってしまう。
あのしんどさを「だから助けなきゃ」という粒度で持ち続けられる人が、本当に少ないのだ。

当事者だった時間を忘れて、自分には関係ないと決め込んでいる人には、一般人の育児の嘆きは届かない。響かない。
ただ、名前も顔も知っている芸能人の発言ならば、おもしろがって目にとめる可能性がある。

ひと昔前の芸能人は、メディアで家族の話などしなかった。
生活感を消すことが、スターの標準的な生き方だったからだ。
それが今では、「一般の人と同じように育児も生活もしてます」という身近さが武器になる。

この流れを最大に利用して、育児問題と自分は無関係だと思っている層にも、少しずつでいいので、現代の子育ての在り方や困難を発信してほしい。

今回の庄司さんの件で、「男性がここまで子供の成長に頭をつかって関わるようになったのか」とカルチャーショックを感じた方も、一定いたはずなのだ。

子育てメディアで働いているとマヒしがちだが、世間の育児へのイメージはまだまだそんなもので、熱量の高い当事者だけで語り続けても、なんら変化はやってこない。

ファーストペンギンとして風穴をあけるべく、意思をもって発信してくれる芸能人の方は、決して敵ではなく、同じように育児をし、同じように幸福でグッタリな、我々の仲間にちがいない。

意義を唱えることは悪いことではないが、「そうゆう家庭もあるよね、こんな考えもあるのか~」と友人にするように受け入れることで、より本質的な発信もうまれ、5年後10年後の育児を、いまよりハッピーなものにするかもしれない。

私は応援していきたい。勇気ある、一生懸命なパパやママを。


記:瀧波 和賀

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cakesで育児コラム連載中です^^

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