エンドレスエンドに喝采を
コノビーライター、かねもとさんの書籍『伝説のお母さん』が今月発売になった。
私はこの書籍に、特別な思い入れがある。
(※出版、連載には一切関わっておりません、個人的な想いです。)
かねもとさんにコノビーで執筆していただいた、書籍とは別の2つの連載担当者は、私が最も親しくしている編集者だった。
真面目で折り目正しい彼女は、私よりずっと有能な編集者なのだが、小まめに連載の進捗や悩みを共有してくれたので、駆け出しマーケターとして、大きく気にしていたライターさんだったのだ。
かねもとさんの作品は、何といっても豊かな発想力とファンタジーでありながら、「育児のリアル」をふんだんに盛り込んだ読みごたえが魅力だ。
ギャグ作品でありながら確信をついてくるトリッキーさも心地よい。
絵もお上手である。
コノビーでの連載作品も大好きだったが、本書を拝読し、その構成やメッセージの届け方に勝手に感銘を受けたので、勝手にこのような記事を書いてみる。
とにかく「粋」で本質的なテーマ性
かねもと作品に私が強く受ける印象は「粋」である。
コノビー連載の第一弾は「ママは眠り姫」という作品で、眠れる森の美女がめでたしめでたしの後、王子との子を育児するが、育児知識が100年前の状態なので、アナログな育児スタイルにこだわってしまい自分のクビをしめる…というストーリー。
作中では語られないが、
これはねむり姫が「魔女の呪いから目覚める」と「育児の呪いから目覚める」という要素がかけられている。
他の作品にもこうしたオシャレなメッセージが隠されており、描く力がありながら、あえて「描き切らない」という選択のできる方なのだ。
このような作風の中にも、かねもとさんの「お母さん」としてのスタンスが想像でき、より作品の魅力を高めていると私は感じる。
きっと、お子さんが自分の力で考え、想像することでちょうどゴールにたどりつけるような、絶妙で粋な声かけをされるような気がしている。
ゲームの世界に見出したマザーストーリー
本作の世界観はドラ〇エのようなRPGで、主人公はかつて魔王を倒した伝説の「魔法使い」だ。
魔王が復活したので再び冒険の旅に出かけたいが、待機児童を抱えており身動きが取れない。
かつての仲間である神官に「専業主婦は無職です」といわれて傷ついたり、夫の育児協力をうまく得られなかったり、後輩の魔法使いにお役御免扱いされて悩む姿は、現代のママが抱える問題そのもので、ファンタジー作品を透かして、杓子定規な保育課の対応や同僚たちの不満に自分を重ねてしまう。
終始引き込まれる本作の中で特に印象的だったのは、第1話の冒頭で赤ちゃんの世話に明け暮れる魔法使いが、王からの遣いに「杖のメンテナンスはしていた」と告げるシーン。
子どもを産んで家庭に入っていても、いつかまた冒険の旅に出たい、その日のためにいまできることを小さいけれどしておこう…そんな主人公の内なる願いが読み取れる1コマであり、これは「絵を描くこと」をずっと諦めたくなかった、かねもとさん自身の姿なのかもしれない、と素晴らしいあとがきを読んでジーンとしてしまった。
RPGすらも越えたエンディング
かねもとさんはご自身もRPGゲームが大好きだと明言されているが、私が思う本書最大の「粋」はあえてRPGゲームとは一線を画したエンディングにあると感じている。
一般的なRPGゲームは、ラスボスを倒し世界に平和が訪れ、主人公たちが安息の日々を手にいれるカタチで収束する。
いわゆる大団円である。
しかしながら、本作のラストに、主人公は専業主婦に戻らない。
絆を強めた仲間たちと再び冒険の旅に出かけ、それをやはり「仲間」になった夫が支える。
冒険は終わらない、エンドレスエンドの幕引きになっている。
私はこのラストに「女性の人生に終わりはない」というかねもとさんの力強いメッセージが託されているように思えてならない。
家で子どもを育てることも、外に仕事にいくことも、等しい価値であり、優劣などない。
大切なのは「自分がやりたいこと」と「自分にできること」に正直になって、ともに人生というダンジョンを進んでくれる「仲間」を増やしていくこと。
そして、「お母さん」でありながら、冒険を続けることはとても素敵でカッコいいのだと、魔法使いの最後の笑顔は物語っていないだろうか。
単純なハッピーエンドではなく、終わらない物語にこそ、この作品の本質がある。
私はその選択に全力で拍手と歓声を送りつつ、自分の仲間を集めたい。
かねもとさんもまた、「描く」という冒険の旅を続けてくれる、そんな心強さを胸に感じて。
記:瀧波和賀
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(編集を担当しました)
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