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前田裕二×野呂エイシロウ×尾原和啓鼎談① コロナ以降加速するコミュニティのあり方とは?

拙著「あえて数字からおりる働き方」の出版記念として、「鉄腕DASH」などの人気番組を手掛けられてきた放送作家の野呂エイシロウさんと、ベストセラー「メモの魔力」でおなじみSHOWROOM・前田裕二さんとともに、本書をテーマにした鼎談をお送りします。

求められているのは、人を応援するコンテンツ
尾原:お二人は、時代の変化に併走しつつ、個人が繋がりながら、新しいことに挑戦していく場を作られています。まずはこの本を読んだ率直な感想をお伺いできますか。

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野呂 :コロナでみんなの価値観が変わって、著書で書かれてたような時代になってきたなと痛感しました。
これまで、映画ならアメリカで全米825館の映画が大ヒットとか、ミュージシャンなら東京ドームに何万人動員とか、とにかく数を追ってきた。
しかしコロナ以降は、大箱のお店が大苦戦する一方で、大事なお客さん100人とか、数は少なくても濃厚なつながりを持つ人たちが持ち堪えている。つまり、誰と繋がっているかという質が問われていると感じます。

尾原 :ありがとうございます!嬉しいお言葉です。前田さんはどうですか?

前田:さすがの標語力というか、言語化力だなと、僕も感銘を受けました。「数からおりる」って、尾原さんがいうからこそ、意味のあるタイトルだなと思うんです。

ふつう、マッキンゼーとかGoogleを渡り歩いてきたと聞いたら、いかにも数字の人、ってイメージを受けるじゃないですか。もちろん、尾原さんの人となりを知る身内の間では、肩の力を抜いてギブの世界を生きている方だと知っているんですけど。

その人が「数字からおりる」と言っていることに意味がある。そこが1番応援したくなるポイントです。

例えば本書では、ギブの構造をわかりやすく整理しているんですけど、実際に尾原さんって僕にもおいしいチーズケーキをいつも買ってきてくれるし(笑)。

尾原 : そこかい(笑)。

前田 : あれも本の中で語られている、「2種類あるギブ」の後者だと思うんですよね。

尾原 : そうですね。補足すると、ギブには2種類あって、一つは自分の得意なものを相手に渡すからありがとうと言ってもらえるにギブ。

もう一つは、自分は得意じゃなくても、相手を見て、相手が好きそうなものを渡すことで、相手の“好き”を理解して自分に取り込んでいくギブですね。

前田 :僕がもらってうれしいのは、ひとえに、そこにどれだけ心が割かれたかということ。経済的な価値でもないし、物理的な役に立つという価値でもなくて。尾原さん忙しいのに…あの時買ってくれたチーズケーキってなかなか手に入らないものじゃないですか。

しかも、僕がストーリーのある商品が好きってことを知っててやってくれる。あのケーキ、好きな仲間たちとみんなでいただいたんですよ。

つまり僕の好みや生活を想像して、「少し安らぐ時間を作ってほしいな」っていうことを考えてくれたことに1番の価値があって。うれしかったです。本で書かれていることを体現してる。

尾原 : いやいや。僕、日本語で1番好きなのが「おすそわけ」って言葉で。

例えばスーパーの卵って、1個7円とかで買えるじゃないですか。でも楽天の店舗さんだと1個60円のたまごが飛ぶように売れてて。

しかも、1番売れるパックのサイズが240個入りなんですよ。なんでかというと、4個パックごとに別れるようになってて、周りにおすそわけできるようになっているんです。つまり、商品に物語がある。

それって、野呂さんが手掛けてこられたコンテンツにも近いものがあると思っていて。例えば、「鉄腕DASH」は、頑張る人の姿が周りの人を元気にさせているところに価値があるんじゃないか。その結果が視聴率に結びついているようにも見えます。

あの番組の構成って、人との繋がりの中で何かに挑戦していく人を、視聴者が応援するようになっていますよね。

野呂 : 僕は離れてだいぶ時間が経っちゃったんですけど、立ち上げのときに「みんな元気になるといいな」って話してました。日曜日にご飯食べた後って、ちょっと憂鬱になるじゃないですか。鉄腕ダッシュは当初、日曜深夜の番組だったんです。

それで元気といえば、「鉄腕アトム」。アトムを見るとみんな元気になる。そこから鉄腕DASHというコンセプトを考えたんです。今シェアって言葉もあるけど、ギブでみんなに元気をおすそわけする感じですね。

尾原 : いま野呂さんがおっしゃったことって、まさに前田さんのSHOWROOMでやられていることでもある。「この人を応援したい」という繋がりがどんどん生まれるプラットフォームとしてやられています。コロナで何か変化ってありました?

前田 : ありがたいことにサービスが過去最大に伸びています。やっぱりおもしろいのは「ギフティング」というギフトを飛ばすユーザー数が伸びていることです。あとはライブコマースといって、リアルタイムで商品を紹介して買ってくれた人がライブ配信中に可視化される仕組みがあって、お礼ができたりするのですが、これもかなり流通額が伸びています。

これらのことからわかるのは、自分自身が苦しいはずの時にもかかわらず、利他的な行動をすることに関心が向いた人が増えたということです。SHOWROOMで100円のギフトを飛ばしても、別に自分に返ってくるわけじゃない。なのに、ギフトをするユーザーが増えるのは面白いことだなと思いました。

ライブコマースも同じで、インタラクションが跳ね返ってくる、人と人との心の繋がりを感じられるということにみんながお金や時間を使い始めている印象を受けましたね。

野呂 : ライブコマースってすごいなと思っていて。確かに、いいものを買ったら、売ってる人、作った人にもっと感謝したくなるじゃないですか。

日本はあまりしないけど、海外だと荷物を持ってくれたり、丁寧に接客してくれたらチップを渡すじゃない? そういう文化が日本にはないわけで。それが急に、SHOWROOMさんみたいに、PC画面で一対一になった瞬間、買い手が売り手に感謝を形にして渡せる。これは新しい文化だなと思います。

うちの親、ジャパネットたかたさんの通販番組を観てると、かわいそうだからって買っちゃうんですよ(笑)。「これなんで買ったの?」って言ったら、「たかたさん、一生懸命説明してるから、買わないとかわいそうじゃん」って。

尾原 : 前田さんは、いま野呂さんがおっしゃったような感謝の設計を意識してるところはあるんですか? ものを買うんじゃなくて、ありがとうを買うというか、気持ちのいい利他を引き出すような。

永続性のあるコミュニティとは

前田 : 利他を引き出す、つまり人の「利他の発足」を考えたときに、いくつかのステップがあると思っています。1つ目のステップはインタラクションのフェーズ。

これはよく尾原さんとも議論することなんですけど、SHOWROOMの価値は、演者とお客さんがインタラクションを通じて絆を得たり、深めたりするところにある。

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尾原 : インタラクションの中に繋がりを感じるという。

前田 : そう、繋がりを感じる。それこそ、一生懸命ものを説明して売っている人に何かやってあげたい気持ちや、買ってくれた人への感謝が生まれたりして、ギブとギブによる感謝の応酬、つまり温かなインタラクションのステップがまず最初にある。まずこの入り口をきちんと通過することが大事。

そして、次のステップ。僕は、この次のステップにいっているコミュニティこそが、永続性を持つなと思っていて。

野呂 : メモろ(笑)。

前田 : それは、「夢の共有」フェーズ。いわば、同じ船に乗ってもらうフェーズです。SHOWROOMも、演者の夢を可視化したことにすごく大きな意味があると思っているんです。

例えば「ONEPIECE」ってなんでワクワクするのか。「海賊王に俺はなる」って言うじゃないですか。ここですよね。なんだか壮大で、一緒にそこに到達してみたくなる。そしてこの夢の旅路はまだ終わっていない。

尾原 : まさにルフィは挑戦し続けてるわけですよね、1回の挑戦で終わりじゃなくて。

前田 : 近いところだと、キングコングの西野さんなど、まさにそうです。なぜ彼のオンラインサロンが伸び続けるか。その一つには、「自分も誰かの役に立てる」という感覚の提供がある。その前提には何があるか?それは、西野さんの、絶ゆまぬ挑戦です。常に夢に向かって、走り続けていますよね。

これはSHOWROOMの演者も例外ではなくて、何にも挑戦せずに、毎日「今日も来てくださってありがとうございます」だと、どこかで飽きるんですよね。

なので、夢やゴールを表明して、そこに向かってみんなと同じ船に乗って頑張ること、これがコミュニティの永続性を考える上で、極めて重要であるという話です。

ただし。今度は、そうやって挑戦したい夢がないときにどうするか?という問いが次にたちます。尾原さんはかねてより、自分の夢や欲望があんまり持てない、“乾けない世代”である今の若者たちが社会を台頭してきているとおっしゃっていますよね。

その場合は、「誰かの夢に入れないか」を模索する。それでも文字通り、夢中になれますからね。どちらに価値があるということではない。

なので、
❶ 壮大で最大の夢を掲げるリーダー
❷ その夢に紐付く無数の「サブ的な夢」を掲げるサブリーダー
❸ ❶、および❷の夢の中に入って、夢中になるメンバー

こういう構造を作れれば、例えば自分が夢を掲げてコミュニティの中心に立たなくても、❷になったり、❸になれば、永続するコミュニティを形成する一員として、めちゃくちゃ楽しく日々を過ごせると思います。

ポイントとしてはやはり、❶の挑戦の度合いが大きければ大きいほどサポートが必要だし、サポートしている側も貢献感を感じられますよね。

だから、みんなが「そんなのありえないよ」って思ってても、コロンブスが「でも船でいける新大陸がある」というような偉大にリーダーによる旗立てが、まさに今必要だと思っていて。

でもそんなリーダーも、最初は❷から始めてもいいし、あるいは、そこまで壮大ではない、身近でわかりやすい目標から始めてもいい。

かと言って、その立て方もわからないよ、という未来のリーダー(≒演者)のために、SHOWROOMでは、気づけばおのずと自分が旗を立てているような状況を作るようにしています。それによって演者がまずは細かな挑戦に向かえて、その挑戦を通じて演者とファンが相互に深い愛情を育んでいける。そんな風に、プラットフォームの構造によって「旗立て」のサポートを提供すべく、意識して設計しています。

尾原 : きっかけとしては、演者はまず誰かとの繋がりの中で、見てもらえてうれしい、応援してくれてハッピーみたいな気持ちで始まるけど、だんだん自分の中の「海賊王になる!」みたいな大きな目標に気づいていけるようになっていて。

すると今度は大きい旅が始まるから、ファンもしだいに大きな旅を応援し続けるようにモードが変わってくるってことですね。ところで、この「挑戦し続ける演者」と、「応援するファン」って、昔からある番組フォーマットでもあると思うんですが。

野呂 : テレビはわりと、はっきりしたゴールがあるんです。野球もそうなんですけど何割打つのか、何本打つとかなどの数字を追っていた。それがちょっと変わってきたというのが、尾原さんの本でも書かれたようなことだと思うんですけど。

例えばディズニーランドって新鮮じゃないですか。僕もよく行くんだけど、「ジャングルクルーズ」って半分セリフが決まってて、でも一生懸命説明してる。あのお兄さんに向かって拍手したり、リアクションしたり、感謝したりするじゃない?

だけど、あれって今までの遊園地になかった。お金払って乗っけてもらって「わーっ」て言って終わりだった。そうじゃなくて、傍らでストーリーを語って盛り上げてくれる人がいる。すると、みんなが一緒に盛り上げようと思って、コミュニティの熱を維持するために拍手するじゃない?

「イッツ・ア・スモールワールド」だって、人形じゃんって言ったらもうおしまいだから。言わないっていうところが大事なんだと思う。

尾原 : ある種、冒険をするというフィクションですよね。でも、それってさっきの前田さんの話でいう“誰かの夢の中に入る”ということに繋がってくる気がします。

前田 : そうですね。ゴールを何個か持つことが僕は必要だと思っていて、なかなか終わりえない大ゴールと、今野呂さんがおっしゃるように、必ずちゃんと終わる、着地が見える中小ゴール、これを散りばめるということがコミュニティの設計上、重要だと思っています。

例えば「海賊王になる」とか、到底叶わない、なかなか難しいけど本当に頑張ればなんとかなっちゃうかもしれないなという気がする”大ゴール”を設定する。

でもそれだけだと息切れするし萎えちゃうから、まさに野呂さんがおっしゃるような「ジャングルクルーズ」みたいに、いろいろなトラブルがあるけど最終的には到達できるというような、あれぐらい短い”小ゴール”もちゃんと作っておく。じゃないとコミュニティに成功体験を与えることができないですから。

尾原 : 僕の本の中でも書いているんですが、MITメディアラボの方針で、学生たちが夢中になって進化していくための仕掛けがあるんです。それが4つのPから成り立つんですよ。

1つ目はプロジェクト(Project)。ある程度大きく世の中を変えたいビジョンはあっても、期限を決めて、いつまでにできたら成功か、みたいな具体的な挑戦があれば、人は自走する。

次に大事なのがパッション(Passion)。プロジェクトに対して、「俺は海賊王になりたいんだ」みたいな情熱があると、周りの人はプロジェクトに乗っかりやすくなる。

3番目がピアー(Peers)。仲間ですね。冒険って自分の力だけじゃ叶わないから、誰かと一緒に進むことで、お互いの力を掛け算すればより大きく前進していける。

4番目が大事で、プレイ(Play)なんです。遊びがないと、新しさが紛れ込まない。失敗を許さないような真面目さでやってしまうと、どんどん狭い方にいっちゃう。だから遊びを入れて、どんどん新しさを入れよう。

この4Pがあれば、人は放っておいても高速成長する。まさにいま前田さんと野呂さんがおっしゃったお話がつまっていますね。

コロナ以降のコミュニティのあり方

尾原 :誰かの夢や挑戦をみんなで応援していくようなコミュニティのあり方は、コロナ以降どうなっていくでしょうか。

前田:今は、みんな「時間の向け先」を探しているというより、「心の向け先」を探してるという感覚だと思うんですよね。例えばぼーっと漫画を読んだりNetflixを観ていれば、時間は潰せると思うんです。

でも、それだけでは満たされない心の空いた穴があるのであれば、それが何なのか解明しなきゃいけない。おそらく、この「心の空洞化問題」は、人が介在しないと解決できない課題であることは間違いないんですよね。

そういう意味で言うと、SHOWROOMのトラフィックなり、使ってくださっているユーザーのエンゲージメントが伸びているのは、ここが、「心の向け先」たりえる場所だからかな、と思っています。

尾原 : 「挑戦し続けるという空間」に加えて、「心の向け先としての空間」が求められていると。

前田 :まさに。単純化するとそれは、「居場所の提供」ということかもしれませんね。「居場所」の要件はいくつもありますが、浅いところで言うと、共通の好きがあるということは重要です。例えばオンラインサロンは、好きという気持ちが共通しているから価値観での否定が起きにくい。その安心感が1つ。

もう1つは、「誰かに必要とされている感覚」です。これを新規醸成できるコミュニティは、長い目で見ても、「居場所性」を非常に強く持ち得ると思います。

野呂 : 僕はみなさんの世代じゃないからあれですけど、昔「ザ・ベストテン」という番組があって。僕、河合奈保子さんのファンで。

尾原 : あ、分かります。分からない人多いと思うけど(笑)。

野呂 : (笑)。それで毎週毎週、頑張ってはがきを書いて、あの人を何が何でも1位にしようと一生懸命リクエストはがきを書くわけ。それで2位だったりすると、「うわー」ってテレビの前で悩んだりして。

でもそのうちファン同士のコミュニティができて、コンサートで会って話し合ったりして仲間意識、居場所感が生まれる。自然発生的に。

それがデジタルで、SHOWROOMさんの中に生まれているんだろうなと。その本質は変わってないんですね、僕の中学生時代と。

尾原:なるほど。本質的にある人の欲求がコロナ以降、より強くなってきたということかもしれませんね。

後半へ続きます。後半は木曜日の朝7時に掲載予定
待ちきれない方、前田さん、野呂さんの肉声動画で見たい方
尾原のオンラインサロンにて先行配信、動画は限定配信中です。
初月無料で、コルク佐渡島さん、前田裕二さん、箕輪さん、けんすうさんとなどつながる時代の天才との対談や
元Google、モチベーション革命著者の尾原による10分動画解説など
楽しんでいただけたら

本鼎談の枕となった「あえて数字からおりる働き方」は
西野亮廣さんのブログでて「はじめに」がよめます
西野さんとの対談動画もブログから見られるのでぜひ



お二方のプロフィール

野呂エイシロウさん
1967年愛知県生まれ。大学時代に学生企業集団「メルブレインズ」に所属、学生マーケティングに携わる。大学卒業後、出版社を経て『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ)で放送作家に転身。現在は、放送作家として培ったノウハウをベースに戦略的PRコンサルタントとしても活躍。著書に『「話のおもしろい人」の法則』(アスコム)、『稼ぎが10倍になる「自分」の見せ方・売り出し方』(フォレスト出版)、『毎日○×チェックするだけ! なぜかお金が貯まる手帳術』(集英社)など多数。

前田裕二さん
SHOWROOM株式会社 代表取締役社長。1987年生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、UBS証券会社に入社し、11年にUBS Securities LLC(ニューヨーク勤務)へ異動。13年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。”夢を叶える”ライブ配信プラットフォーム『SHOWROOM(ショールーム)』を立ち上げ、15年に当該事業をスピンオフさせSHOWROOM株式会社を設立。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受けて合弁会社化。著書に『人生の勝算』(幻冬舎)『メモの魔力』(幻冬舎)がある。

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