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百年前のパンデミックから現代まで、経済への影響を比べてみた(2020年5月6日現在)

 経済学にはバックミラーを見ることしかできない、と、経済学者は自虐的に言う。だけれども、まぁ、「太陽の下、新しいことは何一つない」と聖書にも書かれているし、経済については僕にも少しは分かるので、考えの整頓も兼ねて、経済を軸に歴史を振り返ってみることにする。

(1)2020年、パンデミック

 まずは新しいところから。2020年5月末までを目途とする緊急事態宣言の延長についてのNHKニュース

 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは(…中略…)宣言が解除されたとしても、しばらくは感染拡大を防ぐため活発な消費は控えられるとして、ことし4月から9月までで個人消費だけで47兆円が失われ、2020年のGDPが8.5%押し下げられると試算しています。
2020年5月4日 20時01分、NHK「宣言延長 日本経済への影響は? エコノミストに聞く」、太字・下線は引用者による)

 このニュースには他のエコノミストの予測や意見も載っているけれど、いったんこの木内さんという方の「8.5%」という試算を嚆矢に、考え始めた。

(2)リーマン・ショックと大震災

 この十年ほどの間に、日本は大きな事件を二回、経験している。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災。これと比べるとどうなのだろう、ちょっとグラフにしてみた。

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 実質GDPでは分かりづらかったので、経産省の資料から企業収益の額を拾って重ねてみた。中堅・大企業だけが対象だけど、それでも労働人口の2割をカバーできている調査なので、傾向は掴めるのでないかと思う。
 ずっとサラリーマンしてきた僕の肌感覚とも合う。2008年秋のリーマンショック以降、目に見えて仕事が減ってしまって、ようやく戻してきたなぁと思っていたところで2011年春に津波と原発事故とがあって、景気が戻ったと思えたのは2013年頃だった。
 2005年~07年の三年間でのGDP成長率は平均で1.5%、これを基準に考えると、リーマンショックでは二年連続で08年に▲4.9%(=-3.4%-1.5%) ⇒ 09年に▲3.7%(=-2.2%-1.5%)、東日本大震災でも二年連続で11年に▲1.0%(=0.5%-1.5%) ⇒ 12年に▲0.7%(=0.8%-1.5%)、それぞれGDPが押し下げられていた、と考えられる。
 乱暴な計算だけど、単純化するために合計してみるとリーマンショックは二年で8.8%、東日本大震災は二年で1.7%、となる。
 感覚的には、リーマンショックで二年かけて来た不況が、新型コロナでは2020年の単年度にギュッと詰まって来る、くらいにとらえておけるかな、と思う。しかも新型コロナ分の不況は、2021年以降にも続けて来ないとは言い切れない、という但し書きまでついてくる。

(3)百年前、パンデミックと大震災

 では続いて、ひといきに百年前まで振り返ってみる。
「太陽の下、新しいことは何一つない」。日本はパンデミックを、たった百年前にも経験しているのだ。

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 日本では1918年から1921年にかけて、三度にわたるスペインかぜの流行があった。国内死者数は累計39万名弱。日本の総人口が今のイタリアと同じ程度だった時代の話で、いまイタリアでの新型コロナによる死者数が2020年4月末で3万人弱だそうなので、当時の日本じゅうの町や村が、今のミラノと同じような状態になっていたのだろうと思う。そしてこの流行のすぐあと、1923年には、関東大震災が起きている。
 フローニンゲン大学のGDP統計から、グラフ上あきらかに1920年が大きくマイナスに振れているのが見て取れた。1920年にマイナス6.2%。1915年~19年までの五年間でのGDP成長率は平均で7.9%、この差分と考えると、スペインかぜによって日本のGDPは14.1%押し下げられてた、と言える。
 続くGDP成長率の低迷について、1923年以降の連続する三年間は首都圏を襲った大震災が主犯だとすると、23年に▲7.9% ⇒ 24年に▲5.1% ⇒25年に▲ 3.7%、これも単純に加算すると関東大震災では三年間で合計16.7%相当、GDPが押し下げられてた、ということになる。

(4)世界恐慌

 そこから少し時計の針を進めると、世界恐慌である。

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 株価暴落の始まりが1929年10月、日本のGDPへの影響が1930年から始まったとして、先と同じく7.9%を基準に考えると1930年には▲15.2% ⇒ 1931年には▲7.0%、単純に加算すると世界恐慌で日本のGDPは22.2%押し下げられてた、と考えられる。
 世界恐慌が何より怖いのは、経済だけの話で済まなくなったことである。歴史に「もしも」はないのだけれど、世界恐慌がなければブロック経済じゃなく自由貿易が続いていただろうし、日本がブロック経済から締め出されていなければ、日中事変やそれに続く太平洋戦争は、もう少し違った形で起きていたかもしれない、とは思う。

(5)太平洋戦争

 さいごに、日本史上最大の国難、太平洋戦争について、同じかたちのグラフに乗せて見てみる。

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 敗戦の年1945年、日本の実質GDPは前年比で半分以下になっていた。過去百年以上に遡れるフローニンゲン大学のGDP統計でも、一年の間にこれほどGDPがマイナスになるケースは、数えるほどしかない。1946年のドイツ、1976年のレバノン、1991年のイラク、2011年と13年のリビア、それくらいだった。
 開戦が41年12月だから、42年から太平洋戦争の影響があったと考えて、先と同じく7.9%を基準とすると、42年に▲8.6% ⇒ 43年に▲6.6% ⇒ 44年に▲12.3% ⇒ 45年に▲58.0%。合計すると太平洋戦争の四年間で、日本のGDPは85.5%ぶん押し下げられてた、と考えられる。

(6)まとめ

 確認した数字を1枚にまとめてみると、以下のようになる。

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 とってもざっくりした数字である。パーセントを掛け算せずに足し算してるし、景気循環など事件以外の要素によるGDPの変動を無視しているし、「GDPを押し下げる」というものの定義も勝手に作ったものだし、数字はグラフを見てるだけでほとんど目分量だし、経済学部生の論文だとしても合格点はくれない出来だろうけれど、自分的には納得できたので、今はこれでよしとする。

◆参考情報:

・内務省衛生局「流行性感冒」(平凡社 東洋文庫
・旧約聖書「コヘレトの言葉」(聖書協会共同訳、日本聖書協会、2018年)
・Wikipedia、関東大震災世界恐慌太平洋戦争リーマン・ショック東日本大震災
・復興庁、東日本大震災における震災関連死の死者数(令和元年9月30日現在調査結果)
・内閣府、国民経済計算
・経済産業省、企業活動基本調査
・フローニンゲン大学(University of Groningen), Maddison Project Database 2018
NHKニュース「宣言延長 日本経済への影響は? エコノミストに聞く」(2020年5月4日)

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