WBC日本優勝の歓喜に酔いながら

9回表マウンドに立った侍ジャパンの大谷翔平は9番マクニールに粘られてフォアボールを出すが1番のベッツをセカンドゴロに打ち取りダブルプレーでツーアウト・ランナーなしとする。そこで迎えた2番バッター、マイク・トラウト。大谷のMLBでのチームメイトだ。逆転優勝に向けてトラウトは粘る。5球目のストレートが外れてボールとなり、カウントはフルカウント。マウンドに立つ大谷は彼の同僚に対して世界一に向けて渾身の一球を放った。トラウトが逆転の望みをかけて無心に振ったバットは外に落ちてゆくボールを捉えることが出来なかった。

ゲームセット。日本は3-2で前回覇者アメリカを下し3度目の世界一となった。帽子を脱ぎ捨て雄叫びを上げる大谷に駆け寄る侍ジャパン・メンバーの歓喜の笑顔で世界一を賭けたベースボールの祭典は終了した。

日本が、アメリカが、そして世界の野球ファンが固唾をのんで見守った世紀の一戦が終了した瞬間だ。

この瞬間は私の中でも大きな感動を持って記憶されていくだろうと思う。日本は過去、王監督率いた第1回大会と原監督率いた第2回大会で優勝しているが、主催者であるにもかかわらずMLBサイドの非協力的な態度により日本やアメリカチームの編成はベストメンバーと呼べるものではなかった。

今回は日本サイドにとってはベストメンバーと呼べるものであったし、アメリカのメンバーもメジャーリーグのスーパースターが揃った(それでもベストメンバーでなかったのは残念だが)初の日米対決となったのではないだろうか。

この状況で日本が頂点に立てたことは感慨無量の出来事だ。

しかし今大会においてもワールドカップに匹敵するような国際大会と呼ぶには不満が残った。決勝ラウンドの日程が直前まで決定していなかったことと、決勝戦でMLBの審判が日米戦のジャッジを行ったことだ。いずれもそうなった事情は理解できるがワールドカップのような存在にWBCを持っていくためには改善すべき点だと強く思う。

アメリカ代表を指揮したマーク・デローサ監督は敗戦後のインタビューでベースボールの勝利だと語った。日本では野球界の勝利だと語られているのがほとんどだ。デローサはそのような意味で世界中の野球ファンに向けて語ったのだとは思うが、その深層には決勝でも活躍した選手の多くはMLBの選手で、我々MLBが世界一なんだという気持ちがあったことは否定できないだろう。

WBCにはNPBも協力しているが実権を握っているのはMLBであり、アメリカ都合で運営されているために前述のような透明性がない大会運営になったのだと考えられる。

今後WBCが正当な国際大会へと進化するためにはNPB側の権限が強化されないといけないだろう。

そのためにはやはりNPBによるアジアおよびその他の地域を含めた全体としての野球の進化が必要ではないだろうか。

今大会を見て気付いたのは日本、アメリカ、中南米を除いたその他の地域のレベルの低さである。個人的には韓国や台湾は少なくとも準々決勝までは来るものと思っていたが、結果については大変残念な思いを持った。NPBが主体となってアジアの野球のレベルを上げるべきではないだろうか。

東アジアの国々は面倒なので、台湾、フィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシア、タイ、インド、オーストラリアなどに、カープがドミニカでやったように教育リーグを作ってそこからNPBに人材をスカウトして現地でのプロリーグ普及に貢献してはどうだろうか。

今回驚いたのはチェコのWBCへの参加である。アマチュア選手ばかりでの参加で全敗で1次ラウンド敗退と言った結果ではあったが、その真摯に野球に取り組む姿勢にさわやかさを覚えた人は多かったのではないだろうか。

日本にとって東欧は遠い国々だ。それでもハンガリーやポーランドなど日本と関係が深い国々もある。それらの国々への野球の普及を試みることも日本ができることの一つではないだろうか。元阪神監督の吉田義男がフランスでの野球(ソフトボール)の普及に尽力したことは有名だ。同じことを東欧にも行ったらいかがだろうか。ウクライナへも、事変終結後、日本の協力の一環としてNPBが野球の普及もかねて活動しウクライナの人々に夢や勇気を与えることが出来れば、日本らしいソフト外交となるかもしれない。

いずれにせよ野球の国際化のためには現在の既得権者であるMLBやNPBの組織改革が必要だろう。MLBを変えていくためにはNPBが改革してMLBに対抗できる一大勢力とならなければならないだろう。そのためには、とりあえずセ・パとも2球団づつ増やしてはどうか。そうすればクライマックス・シリーズも意味のある存在となる。将来的にはセ・パとも12球団づつの計24球団が理想だ。

少子高齢化で人材が不足している状況ではあるが、人材を広くアジアや東欧圏に求めることにより人材は確保できる。商業的には放映権(ネット配信含む)と海外でのグッズの販売をNPBに一元化して収益を各球団に公平に分配することで、NPBの国際化が成功すれば24球団体制でも成立できるのではないだろうか。

これも既得権益のハードルが高いがJリーグと同じようにリトルリーグからプロ野球までを監督する組織を作るべきだろう。

このまま何もしなかったら少子化の影響でNPBの縮小は避けられない将来だ。御大のご機嫌を伺って何も改革できない組織であるならば成田悠輔が言っている高齢者に腹を切ってもらうしかないと言う言葉が説得力を持つことになる。

成田悠輔を非難する暇があるなら、現役世代が勇気をもって今、構造改革を進めるべきだろう。

巷ではWBC優勝で盛り上がっていることはわかってはいるが、私は優勝を素直に喜んだと同時に、まだまだ世界大会には程遠い現実を目の当たりにして一言建設的な意見を述べてみたかった。


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