日本の若者の死因第一位が自殺という件のトリックのトリック

 今回はタイトルにもある通り、日本の若者の死因第一位が自殺であるというニュースについて語っていく。

 だいぶ前の記事だが、リンクを埋め込んでおくので良かったら読んでみて欲しい。

 さて皆さんはこれを受けてどんなことを考えただろうか。

 若者の死因第一位が自殺なんて、なんて日本は不幸な国なんだろうと思っただろうか。

 それとも、この統計には何か数字のトリックがあるのではないかと考えただろうか。

 普通に考えれば、将来有望な若者が自殺を選ぶなんて悲しいことだし、それを選ばせてしまう環境や制度を嘆くだろう。

 しかし、二個目に貼り付けたニコニコニュースのコメント欄にはこんな趣旨のコメントがある。

「若者の死因第一位が自殺っていいことだよな」

「自殺が一位ってことは、事故や病気が少ないってことだろ」

「若者は身体が丈夫で病気や事故で死ににくいんだから、自殺が一位で当たり前だろ」

「日本が安全で医療が進歩した国である証」

 これらのコメントを読んで、

「あぁ、そっか。これは統計のトリックだ」と思っただろうか。

 そうなんだ、日本のマスコミはいつもいつもいい加減な情報ばかり垂れ流し、日本が悪い国だという印象を国民に植え付けようとしている偏向報道集団……

 なわけないだろう。

 まあマスコミが間違った情報を流すことはあるし、その報道姿勢に何らかの偏りがあるのは認めるが、まあそれはまた別の時に話すとして、このニュースは政府が出した自殺対策白書に関するニュースで、その白書が「若い世代の自殺は深刻な状況にある」と言っているのだ。

 日本の優秀な官僚達が出した白書が、ネットのコメントに論破されるなんてことは基本的にありえない。

 しかし、上記に上げたネットのコメント、何か説得力を感じなかっただろうか。

 「言われてみればそうかも」「変かもしれないが、何が間違っているか分からない」

 そんなふうに思っている人もいるのではないだろうか。

 じつは俺も最初、このニュースを読んで、コメント欄を見た時、同じようなことを思った。ただなんとなくそれら「統計のトリック」を謳うコメントの論理に違和感を抱いたのだ。

 今回はそんな、若者の死因第一位が自殺なのはトリックだという論理のトリックを暴いていく。

 

 今回の件、騙されそうになる理由は主に2つあるように思う。

 一つは、統計に関する報道に対して「トリックだ」とカウンターを食らわす構図のカッコよさだ。相手の論理の穴をついて、真実を突きつけるような様はクールに映る。実際、それがキレイに決まれば格好良いのだが、今回のところは不発に終わるどころか、恥をかくことになってしまうわけだが……。

 そして二つ目は、「自殺率」というキーワードの複雑性と、「若者」と組み合わさった時の相乗効果だ。

 これについて例え話を使って解説しよう。

 少し不謹慎な話になるが、仮に日本で一年間に若者が1000人死ぬと宇宙の法則かなんかで決められていたとしよう。

 そして仮定の話を分かりやすくするために、死因は事故、病気、事件(殺人など)、自殺しかないとしよう。

 例えばある年、事故で400人、病気で300人、事件で100人が死んだとしたら、200人が自殺で死んだということだ。

  しかし日本は先進国なので、法律は整備されているし、治安も良いし、医療技術も高い。そしてそれらは年々向上していくのが普通だ。

 だから五年後には、事故で200人、病気で150人、事件で50人とそれぞれが五年前の半数まで減り、一年間に死ぬ若者は1000人と決められているので、残った人の死因が全て自殺になり、結果その年の自殺者は600人にまで上る。

 するとどうだろう。若者の死因第一位は自殺となり、これは事故や病気や事件を防いだ結果だということになる。

 これは例え話なので五年で半分に減ったが、実際の世界でも年々事故、病気、事件の死亡者が減っていくのは想像できるだろう。

 こう考えると、たしかに日本のような先進国は自殺が一位になるのは当たり前だし、それが進歩した国である証であるように思えてくる。

が、そんなわけはないのである。

 まず、他の先進国の若者の死因第一位は事故死である。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダと日本にそこまで医療や社会制度に差があるだろうか。

 日本がそんなに近未来的な国だとは思えない。

 そして、上記の例え話には一つ、現実世界との決定的な違いがある。

 それは、現実の世界では一年間に死ななければならない若者の数など決まっていないということだ。

 さっき使った仮定の話での数字をもう一度使って考えてみよう。

 ある年、事故で400人、病気で300人、事件で100人、自殺で200人が死んだとしよう。

 五年後、社会の発展により事故で200人、病気で150人、事件で50人と半数まで減らすことができたとする。

 自殺者対策を何も講じなかったとしても、一年間に死ぬ人数が決まっているわけではないので、自殺者は増えたりせず、変わらず200人のままだ。

 自殺者対策を講じないまま、また五年が過ぎ、事故で100人、病気で75人、事件で25人とそれぞれまた半数に減ったのに、自殺者は200人のまま。

 ここでとうとう自殺が死因の第一位に躍り出るわけだが、これがどういうことだか分かるだろうか。

 自殺が一位になるということに、事故、病気、事件の死者数は何も関係がないということだ。

 自殺に対して何も対策をせず、環境や制度が未発展なことが原因なのだ。

 一年間に死ななければならない人数など決まっていないのだから、全ての死因に適切な対応をしていけば全てが徐々に減っていき、しかし現代の技術ではどうしても防ぐことのできない事故死と病死だけが一定数残り、理論上は自殺者はゼロにできる。

 そして一般的に若者は病気になりにくいので、事故死が一位になるのだ。

 だから他の先進国は事故死が死因第一位なのだ。

 つまり、自殺が一位であることは、日本が先進国である証でも、他の先進国より治安や医療が優れている証でもなんでもない。

 日本が若者を自殺に追い込む不幸な国である証でしかないのだ。

 俺は日本という国が好きだし、俺自身は自殺を本気で考えたことは一度もない。

 だから日本がそんなに不幸な国であるという自覚はないが、数字がそれを証明しているし、政府も危機感を抱いている。

 なのに、そんな現実を「トリックだ」などといった詭弁で誤魔化してはいけないのだ。

 これが、トリックのトリックだ。

 俺たちはしっかりと現実を見つめ、明日を考えないといけない。

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