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宮崎駿「君たちはどう生きるか」をキャリコン的に観る

宮崎駿最新作「君たちはどう生きるか」
一筋縄ではいかない難解なストーリーから様々な読み取り方が可能な作品であり、それがこの映画の楽しみ方にもなっています。
そこで、私なりのキャリコン的解釈をしてみました。

人生100年時代。
この言葉を広めたイギリスの組織論学者リンダ・グラットンは言います。これまでの人生は教育・仕事・引退の3パートで成り立っていた。100年時代では、教育・仕事の後にもう一つの人生があるのだと。
引退後の人生はおまけではありません。むしろラストステージこそが本番だというわけです。

ラストステージで何をすべきなのでしょうか。
100年時代だからこそ登場した大問題。
この問いへの大きなヒントとして「君たちはどう生きるか」を観ることもできます。

内容は賛否両論。ワクワク感を期待した観客はがっかり。深みを味わいたいジブリファンにとっては見応えのある作品。という具合に意見が真っ二つに分かれる結果になりました。

実際のところ難解です。少なくとも子供が楽しめる映画ではありません。前作の「風立ちぬ」から10年。その歳月をかけて宮崎駿は一体何をしようとしたのでしょうか。

引退宣言の謎

監督はこれまで、何度も引退宣言をしています。
→引退詐欺?
→なぜか?

ラピュタの後に言った言葉のヒント
→これ以上友達を失うのは嫌だ。

クリエーターあるある
→妥協できない。自分の水準に達しないスタッフが許せない。
→作り手の矜持がそうさせた。

2013年風立ちぬの後に引退記者会見(72歳)
→後進が育たない。ジブリの生死に関わる。

という形で引退の撤回には様々な理由が紹介されています。
しかし、その奥に我々にも共通する定理が働いているように思います。

それは、
引退してはじめてわかる、空白時間のつらさ。

エリック・バーンはこう言います。
「人間は空白の時間に耐えられない。意味のあるもので埋めようとする」

宮崎駿にも耐えられなかった。

彼が生涯の作品に込めたのは「生きる」という想いです。
生きることの素晴らしさを持てる想像力を振り絞り、苦悩を重ねながら描いてきました。想いをアニメーションにたたきつけることで自分自身も生きることができる。創造をやめることは生きるのをやめるに等しい。
この希代のクリエーターはこのすさまじい世界の中で息をしているのです。

その人が生きるヨスガを失って平気でいられるでしょうか。
復帰宣言で彼は言っています。「やりたいことが見つかった」

見つかるまでの無為の時間。宮崎にとっては苦痛以外の何物でもなかったのでしょう。やることが見つかった時の喜びは相当なものであったろうと想像します。

では「やりたいこと」とはなんでしょうか。盟友のパクさんこと高畑勲との決着です。それは先日放映された「プロフェッショナル~仕事の流儀」で描かれますが詳しいことは別の記事で紹介します。

宮崎作品はどれも目も眩む圧倒的なクリエイティブ力に支えられています。その道程は地獄の様な苦しみの連続でした。貧乏ゆすり。口癖の「めんどくさい!」制作に没頭している彼の姿に幸福感はみじんもありません。けれど本当に得たいものは地獄の中にしかないことを監督は知ってたのだろうと思います。

得たいものを得るために闘い続ける。
彼の作品歴をみると、自己模倣がありません。常に新しいことに挑戦していることが分かります。それはその時々で一番やりたいことを選択してきた結果です。一番やりたいことだからモチベーションが持てる。

40歳の宮崎には「ナウシカ」が面白かった。60歳の彼には「千と千尋」が面白かった。
では80歳の彼にとって一番面白く、最高の意欲が持てるものは何か。次回作のテーマ探しはそういうことだったろうと思います。

これが遺作かもしれない。これまでの集大成にふさわしいものを何か。自分を偽らない本当に作りたいものは何なのか。とことん自分に正直になったとしたら何を作るのか。

それは自分自身をテーマとすることでした。幼少期に刻み込まれ、高齢者になってなお、消えることのない「夢」そして「傷」。宮崎駿を生かし続けた本質のまた本質。それを常に揺さぶり続けたのが高畑勲という存在でした。

己の人生の核に居座り続ける5歳年上の先輩。二人の関係に映画の中で決着をつけるという大仕事。人生を捧げて培った持てる表現力の全てを出し切って描く。それがアニメーションの奴隷として生きた男の結論。

でき上がった作品を私たちは鑑賞しています。評価は分かれていますが
一度引退した人間が、セカンドキャリアとして何を築いたのか。
この映画をその一つの事例として見ることはできると思います。

「君たちはどう生きるか」
私たちが今、最高に意欲を持つことができるもの。それを見つけることができているか。宮崎駿からの魂の問いかけ。それに私たちは答えなければいけないのではないか。エンドロールを見ながらそんな思いを感じていました。


https://note.com/career_salon/m/m4c1d1009cb77


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