大部屋文化

定住民族国家の日本。その社会は「ムラ」という基本単位を持つことで維持されてきました。

「ムラ」の存続のために個人の存在は薄く淡いものでした。

そうした社会ではプライバシーという概念が根付きません。個人が持つスペースが重要視されない風潮は、様々な施設に影響します。

それはさしずめ大部屋文化とも言えそうです。

日本と欧米のホテルを比べてみましょう。

日本の宿には相部屋が当たり前のように存在します。
修学旅行での枕投げ。あれほど楽しい経験もなかなかないものですが
100畳の広間に大勢が布団を敷いて寝る、というのは大部屋文化の最たるものでしょう。

私が新入社員だった80年代はグループで出張した時など大部屋で寝るのことも珍しくありませんでした。

片や欧米のホテルはシングル、ダブル、ファミリータイプのみです。

私の経験で言えば、欧米で相部屋の経験が一度だけあります。
ソ連の航空会社アエロフロートでヨーロッパに行ったとき、モスクワで一泊させられました。その時が大部屋でイタリア人の旅行者たちと一緒になったのです。欧米人にとって大部屋とは緊急時のものという認識だということですね。

お風呂はどうでしょうか。
日本には銭湯があり、温泉があります。江戸期以前は混浴が当たり前でした。

明治期に日本で活躍した風刺画家ジョルジュ・ビゴーは混浴の様子を驚きとともに絵にしています。プライバシーに関する感じ方の違いに仰天したことがよくわかります。

欧米では混浴どころか大浴場そのものを見かけません。
古代ローマにはありましたが、西洋文明はキリスト教の影響もあり、
大浴場をなくす方向に発達しました。

昔の日本が持っていたプライバシーに対してのおおらかさには目を見開くばかりです。

次に病院はどうでしょうか。

日本の病院は相部屋が主。ほとんどが4人部屋か6人部屋です。
テレビドラマでは個室シーンばかりですが、制作の都合上そう撮っているだけで実態を反映していません。

対して欧米では個室が主流です。
アメリカでは2006年から新築病院は全室個室にすると定められました。
イギリスでは個室率を50%以上にすることと定められています。

相部屋に見慣れた私にすれば、個室が当たり前という感覚が驚きです。

ではオフィスはどうでしょうか。

欧米のオフィスは個室、もしくはパーテーションで仕切られたデスクでの
業務が主で基本的に他人に仕事を見られません。

他方、日本はデスクを寄せ合う、いわゆる「島」型が中心です。

日本の単位は「個人」ではなく「ムラ」
現代になり、欧米の価値観に近づいてはいるものの、1000年、2000年という時間で作られた気質は簡単には変わりそうにありません。

個人と組織の双方を活かす。
日本ならではのやり方を模索すること。それが現代に生きる私たちに課せられた使命だと言えそうです。


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