テーマ『一歩踏み出した先に』でショートショートを書いてみた
大冒険がはじまるぞ
誰かがここに居なさい。きっと良いことがあるよって言うので、ぼくはぷかりぷかりとここに居る。
ここはとにかく気持ちがいい。
寒くなく暑くもない。
ゆりかごのような液体に揺られ、
うるさくも無く、しんと静まりかえっているわけでもない。
心地よい波の音を聴きながらほとんどを寝て過ごすが、たまに起きてみる。
ほの暗い空間で、ごわごわと響く音が聞こえるけれど、ぼくはまだ小さくて何の音がわからない。
どのくらい揺られてただろう。
動かせるようになった身体を使い、蹴ったり回ったりしてみる。
空間がせまくきゅうくつになったのは、ぼくが大きくなったせい。
居心地が悪いと感じていたやさきだった。
今まで優しかったぽちゃぽちゃした空間が、ぼくをぎゅっと締めつけてきた。
なんとか楽な姿勢をとろうと頭を下に向ける。
それでもまだ締めつけてくるので。
ぼくはここを出ようと決意する。
新しい世界へ行ってごらん。誰かがささやく。
いざ!未知の世界へ冒険だ。
踏み出したその先は、暗くせまい道のりでぼくは身体を細長くしたり頭の骨をずらしたりして前へ進んだ。
ぎゅうぎゅうとした締めつけはくりかえしやってくる。
ゆっくりだけど前へと進む。
苦しいけれど、光る方へ進む。
誰かに会うために。ぼくの冒険のために。
突然、あたりが光に包まれた。
ぼくは息苦しくて、大きく息を吸った。
「オギャー!オギャー!」
ぼくはこの世に誕生した。
これから大冒険のはじまりである。
夢に協力していただき、ありがとうございます。ただただ感謝です(^^)