(106) ファンタジー / 「なりきり」
負けそうになった時、困難に出くわしどうにもならない時、私たちは”何か”に「なりきり」、それらの力を借りて何とかしようとすることがある。妙に上手くいき、ここぞという時は何回もそれで難局を乗り越えたりするものだ。「なりきり」は強い味方となり、とても助かることがある。
人によって”何”に「なりきる」かそれぞれなのが面白い。アメリカではどうも「バットマン」が多いらしい。近頃、若い人たちの間で「大谷翔平」選手に「なりきる」というのが流行っているらしい。彼は確かに二度満票でMVPを受賞し、実力は十分である。役者さんなら、尊敬する先輩に「なりきり」、歌手なら、実力を備えた歌い手に「なりきり」、アスリートなら超人的な選手に・・・と相場が決まっている。現実ではなく、”ファンタジー”の世界にそれを求めることもあり、先の「バットマン」などがそれで、他にも「ジェームズ・ボンド」「ブルース・リー」「高倉健」なんてのもある。どうもこの「なりきり」というのは、子どもたちや「なりきり」を求める人たちの「集中力を向上させる」のだと研究発表があったばかりである。「バットマン効果」と名付けられた、レイチェル・ホワイト助教授らの研究である。
「じぃじ、たたかうぞ!」
「えぇ~?何?」
「マーマーマンセブンだ!エレキングだな!」
チビ坊は言葉が達者になったが、どういう訳か未だに「ウルトラマン」と言えない。「エレキング」は言えるのに、主役の「ウルトラマン」が発音出来ないようだ。「マーマーマン」とは訳がわからないが、それが可愛いのだ。
どうも私は敵役の「エレキング」らしく、「ウルトラセブン」から攻撃を受けることになる。チビ坊の知り合いの中で、本気でキックされるのはどうもこの私だけだ。この”ファンタジー”の中に生きる・・・この瞬間は貴重なのだ。この「なりきり」でチビ坊は元気だ。目を覚ました瞬間から、電池切れで寝るその瞬間まで一日「マーマーマンセブン」に「なりきって」いる。いや、寝ている間も「ウルトラセブン」だろうと思う。
数多くヒーローはいる。現実に存在するヒーローから、”ファンタジー”の世界のヒーローまで、私たちは「なりきる」ことをしないまでも、彼らに大いに力を借りているということだ。
先の「バットマン効果」とは、「引き寄せの法則」と呼ばれていて、【理想の人に「なりきれ」ば、現実や環境が後から追いつき、願望実現を加速させてくれる】というものだ。よく【人生は、”考え方”と”思い込み”で出来ている】と言われるが、その事の証明をしたというわけだ。理想の人を決め、「なりきる」ことで周波数が変わる・・・それで自分自身に変化がある。まず身なり・表情・仕草が変化することになる。「なりきり」でまず”考え方”が変わるわけだから、その他にも変化が生じる。「強すぎる不安や恐怖」の緩和に大きく影響があるはずである。形式にとらわれないで”何か”に「なりきる」ということは、そのボディーランゲージは相手というよりまず”本人”に大きな影響があるはずだ。その影響の基本は、ストレスレベルを低下させるホルモンの分泌がみられることから、気分が良くなり、自信が持てる、十分な睡眠へと大きな変化となるはずである。「ファンタジーがもたらすポジティブ思考の源泉」ということだ。
私たち人間は、自身に必要なものは無意識に知っているのだと思う。「なりきる」ということを、誰から教わったわけではないだろう。自身に今、必要だと思われることは、何かの力が働いて”引き寄せる”と思われる。
そう言えば昔、「聖子ちゃんカット」という当時の松田聖子さんの髪型を真似することが大いに流行った。街を歩いていると、どの子もどの子も「聖子ちゃんカット」で不思議だったが、それでみんな”自信”を貰ったんだろうと思う。良いことだ。チビ坊は「マーマーマンセブン」に「なりきって」いる。何だか羨ましいのである。いつまで「ウルトラセブン」でいられるか・・・次から次へ「なりきり」を使って”自分”も見つけろ、と願っている。
私はと言えば、ニ十歳位からずっと「勝海舟」である。いざという時に「なりきり」、やってきたかなと思う。「勝海舟」の”自・他肯定”の構えは並で成立しないはずである。それに依らなかったなら、決して”江戸城無血開城”には至らなかった。今も私は、そんな「勝海舟」でいる。