『街クジラ』② #シロクマ文芸部
「街クジラ・・・だね。」
「うん。 なんだか久しぶりに見た気がする・・・」
「あれが ボクたちの『母船』だなんて
誰も気がつかないよね?」
「気球とかだったら、少し前ならよく飛んでたのにね。」
「・・・どうして還ろうと思ったの?
地球人でいること・・・疲れちゃった?」
「もういいかなって。 ・・・何度も生まれ変わって
いっぱい体験したもの。」
「ボクもだ。 哀しいことの方が多かったけど
楽しいこともあったし、幸せも感じた人生を何度も
体験した・・・!」
「フフッ… 哀しさや絶望があったから、夢も見れたもんね。」
「恨みとか憎しみを抑えるのは大変だったけどね・・・!」
「地球に・・・感謝しなくちゃね。」
「そうだよ。 地球こそがボクたちの『母船』だった!
ここを去っても、ボクたちの故郷だ・・・!!」
「・・・どうしてこの時代に誘ったの?
時代はもう、ずいぶん先まで進んでるよ?」
「なんだか・・・この時代が好きだったんだよね。
戦後で、社会も人も未熟だったかもしれないけど
誰もがみんな、何故だか元気で・・・意味もわからずに
夢がいっぱいだった気がする。」
「ふふっ、、そうかもね?
理不尽な敵も 栄養剤みたいな?」
「この時代に子供だった頃のボクは
母船のことなんか忘れてた。
地球で生きる明日のことしか考えてなかった。」
「私はどうだったかな・・・? やっぱり
幸せになることをボンヤリ・・・夢見てたかな?
そんな女の子だったよ。」
「じゃ、そろそろ行こうか?」
「うん。」
ふたりの姿は『街クジラ』に吸い込まれるように消えて
街クジラも 名残りを惜しむように
ゆっくりと その姿を消していった・・・
街クジラよ 何処へ・・・?!
【出発】
*この物語はフィクションであり、実在の人物・出来事・場所
名称・事件等とは一切の関係がありません。
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