きみについて

きみのいいね欄を見てきみを理解したつもりでいたけれど本当はそんなことなんてなくて、想像していたよりもずっと、世界は広がっている。私の知らないところで、きみは私の知らない人と知らないルールに則って言語を運用している。言語ゲーム。きみは私が知らない多くのゲームに参加していて、その事実だけを私は知っている。そのくらいが丁度いいと思う。程よく知らないきみのことを私は恣意的にちょっとだけ補完して理解する。
 きみとコーヒーを飲んでいるとき、私の手はいつも震えている。コーヒーカップを唇に持っていこうとしても歯がカップをかちかちと叩いてしまう。きみはその場で鼻歌を歌いだしそうなくらい機嫌が良くて陽気そうにコーヒーをすすっている。私はきみに全てを握られているような気がして更に震える。きみに「おごりますよ。」と言われるのが怖くて私は伝票を手にする。きみの車に指輪を忘れるような女の子に私はなりたかった。
 沖縄でジンベイザメを眺めるきみはまるで小さな子どものようで、私はなんだか懐かしい気持ちになった。きみに触れたいと思ったけれどその気持ちは前日のホテルで感じた気持ちとは全く違っていて、それは多分幼稚園の頃の友だちとサッカーをする時の気持ちと似ていた。きみは私のことなんて忘れてしまったみたいに1人で水族館を満喫していた。少し悲しくなって視線を泳がせた先にいたのは小さな亀で、私はその亀に名前をつけた。
 誰も読まない文集に書かれたきみのメッセージを私はちゃんと拾ってあげたいし、私のメッセージはきみだけに読まれたい。きみと私の共通言語がもっとあればいいのにと思う。理力が僕とともにありますように。

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