すず

言いたいことは特にありません。

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最近の記事

この街で

 この街に来て4年目になる。随分といろんな場所へ行ったし、随分といろんな人と関わってきた。幼いときからあまり住むところに思い入れがなくて、というか基本的に何にも思い入れがなくて、だから住んでいる場所や地域の人々への愛情を抱いたことはないのだけれど、この街はちょっとはいいなと思うときがある。就職するとき、実家には帰りたくないけれど、この街にならいてもいいと思うときがある。実家がある町みたいな田舎ってすごく静かだし、星も見えるし空気も美味しいから好きな人が多いことは頷ける。自然へ

    • ノータイトル

      「愛してないわけじゃないのよ、広義的には。」 彼女はそう言いながら、僕の頭を撫でた。ゆっくりと髪を触り、そして最後にちょっぴり右にある僕のつむじをぎゅっと押した。彼女が僕にこれまで何度となくしてきた行為だ。 「だから、つむじ押さないでよ。下痢になるってば。」 「でも今までお腹壊したことないでしょう?」 彼女は笑いながらもう一度僕のつむじを押した。 「愛してくれなんて頼んでないよ。ただ悲しいと思っただけ。」 「でも悲しいって私に伝えてくることはつまり、そういうことじゃないの?」

      • ときメモ実況動画のいちばんのおすすめはロングコートダディのゲーム念仏

        • 2022/03/07

          まだ生きている作家の特番を観た。 正確に言うと、生きている作家のとある作品の特番を観た。 彼の担当編集者や映画化にあたった監督、愛好家などが、彼や彼の作品の話をしていた。
どうやら私が知っている人物も出演しているようだった。 しかし、肝心な、まだ生きていてまだ活動中の彼は最後まで登場しなかった。 安っぽいフォトフレームのなかで渋い顔をして、実家の安っぽいテレビに映し出されていた。
 正直私は、馬鹿げていると思った。 この特番が馬鹿げているのでない。あくまで私は馬鹿げてい

        この街で

          永劫回帰について

          私はニーチェじゃないから、永劫回帰とその虚しさをただ受け止めることしかできない。何も意味が無いのに、私たちの心拍数は上昇し、涙は流れる。この虚しさを知らないまま生きている人々のことを私は羨ましくさえ思う。常に物事を俯瞰している私がいて、自分も含めて全ての人々のことを惨めにも、愛おしくも思っている。 刺激を求めて手を出した行為の殆どは周囲の人を傷つけてしまったし、そして何よりも私自身を傷つけてしまった。でも、それもたったそれだけのことなのだ。何度も繰り返されたそれらは、なんの意

          永劫回帰について

          リセットについて

          リセット癖のある私は、人間関係も着信履歴も写真フォルダもすぐに全てを消して新しい何かをはじめようとしてしまう。病的な人間関係の先に誰もいてくれるはずなんてないのに、周りの人はみんな優しくて結局私を許してくれる。手を差し伸べてくれる彼らの気持ちを私は未だわからずにいて、単純に自己愛だけで私は今ここに立っているのに。いくら外部環境をリセットしたところで、当の私だけは虚しくも私のままでリセットされることがない。だから私はまた、他者の恩を仇で返し続ける。意味のない性行為と意味のないア

          リセットについて

          春休みの日記

           思ったより私には会うべき人がいて、毎日のようにおしゃれをして出かけてゆく。みんなは愛をくれるけど私はそんなに器用じゃないからちょっとずつしかあげられない。でも実際は広義的な意味で、私は彼らを彼ら以上に愛しているのだ。世界でいちばん顔のかわいいあの子、素敵な声を持っているあの子、カルチャーに包まれたあの人…。本当は彼らに嫌がられるくらい、私は彼らを愛している。そのことをわかってほしかった。リアルタイムのコミュニケーションはいつも難しくて私はいつも、本当に自分が言いたいと思って

          春休みの日記

          受験体験記

          2020年11月30日まで数学しかやっていなかったのにいつまで経っても数2Bは40点を超えられなくて、私はマジになりたくないのでそこで5教科を諦めた。12月からは倫理ばかりやって、国語と英語はフィーリングに頼った。 12月24日にあの人の前で禁酒を宣言した。あの人は笑っていた。 次の日から予備校の冬期講習に毎日通った。倫理の講師に気に入られ「将来何になるの?」と聞かれ「高等遊民…」と答えた。 古典のテキストと財布を家に忘れてサブカル系浪人生に全部コピーしてもらっ

          受験体験記

          きみについて

          きみのいいね欄を見てきみを理解したつもりでいたけれど本当はそんなことなんてなくて、想像していたよりもずっと、世界は広がっている。私の知らないところで、きみは私の知らない人と知らないルールに則って言語を運用している。言語ゲーム。きみは私が知らない多くのゲームに参加していて、その事実だけを私は知っている。そのくらいが丁度いいと思う。程よく知らないきみのことを私は恣意的にちょっとだけ補完して理解する。  きみとコーヒーを飲んでいるとき、私の手はいつも震えている。コーヒーカップを唇に

          きみについて

          私と倫理観と夏の話

          生きている価値なんてない生命を生きていく。価値がないと気付けない人のことを私は可哀想だと思う。価値があるわけがない。でも、だからこそ生きなきゃいけないし、考えなくてはならない。 ハイライトを吸っている時に思い出すことはいつも同じだ。大切なことだから、ここには書いてはいけない。でも、私はいつもそのことを思い出す。そしてこれから先も、そのことをずっと思い続けるのだと思う。 私は何かに縋りたかった。でも同時に、縋ることでは自分は満たされない、ということもわかっていた。有神論者の

          私と倫理観と夏の話

          猟奇的なまなざしについて

          猟奇的なまなざし。それは晴れた青い空であり、夏の冷えたビールであり、浮浪者の缶拾いであり、ガールフレンドの靴下だ。 それは本能的なまなざしとも言えるかもしれない。きみがそう呼びたければそう呼んでも構わない、と思う。猟奇的なまなざしとはただ僕が、内向的な僕が、個人的にそう呼称しているだけだし、それはアモルフな存在だから。根源的な存在であるとも言えるだろう。 僕は誰かのその猟奇的なまなざしに含まれていると感じる。一方的でエゴイスチックなまなざし。僕は誰かのそれに含まれている。

          猟奇的なまなざしについて

          あの子について

          「どうしてあんな子と友達なの?」 男は続ける。 「だって、あの子は君と違ってバカみたいに大きな声で笑うし、化粧は濃いしスカートは下着が見えそうなくらいに短い。ピアスもたくさん開けていて、爪はゴデゴテ。周りからはビッチって言われているし、おまけに学生の手になんて届くはずのない高級なブランドの指輪が左手できらきらしている。なんていうのかな、君にはふさわしくない…ような気がするんだ。」 男は続ける。 「だって、君はもっと静かで淡白な人間だよね?化粧っ気もないし短いスカートも

          あの子について

          言葉の海について

          僕の言葉が僕の脳みその真ん中にある。僕はそれを外に出そうと大きく息を吸う。でもその拍子に僕は後ろに仰け反ってしまう。わずかな言葉だけが外に出る。そして僕と僕の言葉はそのまま溶けてゆく。広い広い言葉の海に。 言葉と言葉の境界は曖昧で、僕の「きみがすき」という言葉は、明日になったら「きみがきらい」になっているかもしれない。だから今すぐ、僕の言葉がほかの言葉とぐちゃぐちゃになる前に、僕の言葉を外に出さなくちゃ。焦る。背中を冷たい汗が流れる。でも脆弱な僕は息を吸うことすら困難で、僕

          言葉の海について

          ダンスステップの話

          あなたが煙草をふかす横顔を、私はいつまでも眺めていたいと思った。あなたは決して端正な顔立ちではなかったけれど私はその、1日会わなければ忘れてしまうような、あっさりとした横顔をどうしようもなく好きだったのだ。 私たちの住んでいたアパートの狭い一室は、あなたの甘いキャスターのにおいと私のからいセッターのにおいと、時々コーヒーとか精液のにおいとかも混ざってちょっと冗談じゃないくらい最悪な空間だったけれど、それでも私たちは幸せだった。べたべたとした愛情をべたべたとしたものだと自覚し

          ダンスステップの話

          ていねいな暮らし

          晩ごはんにふたりでカップラーメンをすすっていたとき、あなたが「ていねいな暮らしをしよう。」と言った。ちょっとよくわからなかったので無視した。 晩酌にふたりで酒を飲んでいたとき、あなたがまた「ていねいな暮らしをしよう。」と言った。私は次の日の帰りに、スーパーで半額の惣菜ではなく野菜と鶏肉を買って、無印良品で白いプレート皿を2枚買った。あなたは花を買ってきた。花瓶は?と聞くと、忘れた。と言うので床に投げてあった空き缶に白い花を挿した。 19時すぎにふたりで晩ごはんをつくった。

          ていねいな暮らし

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          誰かに言うのも恥ずかしくてここに書いているのだけれど、昨日久々に通学したら学校の木が全部緑になっていた。桜の木も栗の木も全部緑になっていた。キチガイをはじめて4回目の夏が来るのだなとぼんやりと思った。 何人かは親切に話しかけてくれた。でも何か返答しなきゃと考えているうちに結局誰とも話さず帰ってきてしまった。職員室は自分に全然関係のない部屋になっていた。コデインの入れすぎで目が回っていた。大きな部屋でやったHRは、副担の声が小さく聞こえた。この部屋に集会時はこの4倍の人数が入

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