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立つ鳥、跡を懐かしむ

引越しが多かった私が楽しめる遊びを見つけた。Google Earthを使った古巣を探しだ。

中学入学までに、5回の引越しをしたため平均して2.3年に1度引越しをしていた計算になる。実際には5年ほどいた土地もあれば、1年ほどで去る土地もあったが。

20年以上前に2.3年住んだ土地というのは、そもそもがうろ覚えな上に、それだけの時間が経てば道沿いの建物や家などが変わっていることが多い。最寄駅からいつも使っていたであろう道を通りながら家を探し、そこから通っていた学校までの通学路を通り学校や公園などを探す。

今回は小学校4年生の夏から6年の2月まで約2年半住んでいた家とその周辺をスマホで散策することにした。

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この土地のスタートの日は、今でも忘れられないエピソードがある。

引越しを機に家具をいくつか処分することになった。私は2段の引き出しがついたハンガーラックを捨てることにした。引越し屋さんのお兄さんたちに運び出してもらい、幼稚園生の頃から使っていたハンガーラックは軽々とトラックに乗せられた。その後すぐにお兄さんたちが引き出しを開けて、中を確認をする姿を見て、私はとんでもない事を思い出した。

あの引き出しには『まじかる☆タルるートくん』が2冊入っているではないか。
それは兄の部屋からこっそりと持ち出し、内緒で読んでいたものだった。勝手に持ち出していたことが兄にばれることよりも、『まじかる☆タルるートくん』を読んでいたという事実がお兄さんたちにバレてしまうことが、この上なく恥ずかしかったのだ。あの頃、あの漫画は見ちゃいけないような気がしていたから。

案の定、お兄さんたちは「この中のものも捨てていいの?」と私に聞いてきた。思い違いかもしれないのだが、私にはお兄さんたちが笑いながら、私をからかっているように見えた。もう何も考えられず、ただでさえ人見知りの私は声すら出すことができず、大きく1度頷き、そのままうつむき、急いで家の中へと戻った。

その夜、私は姉の部屋で大泣きすることになった。理由はもちろんタルるートくんではない。本当に思い出すべきものはタルるートくんと同じ引き出しに入っていた「幼稚園のお便り帳」であったということに、夜になって気づいたからだ。

お便り帳には毎日の出席シールとともに、毎月担任の先生がコメントを書いてくれていた。その間には写真も挟んでた。引越しが多く、幼稚園も3つ通った私にとっては、先生からのコメントが嬉しくて、新しい土地に慣れるまでを支えてくれる宝物だった。そんな大切なものを、気が動転しすぎて私は捨ててしまったのだ。

手書きのメッセージには、力があると感じ始めたのはこの頃からだった。
8歳上の姉は、私を慰めてくれた。そして鍵付きの交換日記を買ってきて、2人で秘密の交換日記を始めた。あの夜の慰めの言葉は一切思い出せないが、姉と交わした交換日記の内容は、姉の文字とともに今でも断片的には思い出せるのだから。

かくして、小学4年生の私の"夏休みの宿題"がない夏休みが始まった。

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さて、そんな思い出深い土地ではあったが、最寄駅から出発して10分経っても住んでいた家を見つけることができなかった。

こんなにもたどり着けないものかと正直驚いた。目印の団地や橋はあるのにもかかわらず、全くたどり着けそうにない。あっさり観念し、住所から家を見つけると、見つけられない理由がはっきりした。

面影がないほど建て替わっていたのだ。車庫の位置や門から玄関までの位置関係などはなんとなく同じ位置のような気がするが、外観は全く違う。航空写真で見ると、庭も小さくなって家そのものが広くなっていて、もはや私の住んだ家ではなかった。お呼びじゃないと言われているような。

心が折れそうではあったが、その家から通学路通りに学校へ辿り着くこと試みた。なんとこれは無事成功。なんとなく記憶とは違う景色だったが、2年半毎日のように通った道は覚えているものだ。

苦いエピソードとノスタルジックな思い、そしてなんとも言えない喪失感。たった20分で心が騒がしく動く、大変な遊びを見つけてしまった。

今後も有料記事を書くつもりはありません。いただきましたサポートは、創作活動(絵本・書道など)の費用に使用させていただきます。