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電脳病毒 #37_227
家に戻り自室へ。徐は広播《ラジオ》を取り出す。電池の蓋を開ける。溶けだした溶液に浸かった古い乾電池。それを取り出し、入れ替える。電門《スイッチ》を入れ標度盤《ダイヤル》を回す。微かな雑音に混じり言葉が流れ出す。徐の聞いたことのない言葉。徐は、標度盤《ダイヤル》をゆっくり回し続ける。ようやく、聴きなじんだ声が。この国の海外向短波放送だ。
以来、広播《ラジオ》を聴くことが徐の日課に。やがて、聴くうちにこの国の放送に興味がもてなくなっていく。この国は、報紙《新聞》も広播《ラジオ》放送も国営放送局だけだ。情報隠蔽の上澄みにある自画自賛の域を出てはいない。伝えることはない。この土地で廃棄電脳を処理していることも、労改の囚人達まで狩り出していることも。
外の世界のことを知りたい。だが、この土地では外国語教育など行われてはいない。外国の言葉を理解できないまま、調諧《チューニング》で飛び交う外国の音楽を聴く徐の日常。