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電脳病毒 #44_234

 そこに映し出されているのは海外放送。芝麻大街《セサミストリート》という番組だ。この国では、海外放送の受信はもちろん禁じられている。どの電気店の軒先にも大耳朶《パラボラアンテナ》が設置されている。隣国の放送を受信することは、公然の行為として黙認されている。
 徐は彩電の値札に目を留める。庶民の平均年収を大きく超える額だ。一般人の手が届く値段ではない。
 徐は別の電気店に入る。徐が今まで見たことのない機械が並んでいる。断続的に変化する幾何学模様を映す彩電。徐は不思議そうに眺める。画面焼き付けを防止する画刊《グラフィクス》が、顕示器《ディスプレイ》に起動しているだけだ。それは、彩電でも打字机《タイプライター》でもない、電脳《コンピュータ》という装置だ。徐は初めて知る。徐の村を疲弊させた、電脳《コンピュータ》の現物がここにあった。
 それ以来、徐の関心は電脳《コンピュータ》に傾いていく。公演を終え故郷へ戻ると、地区委員会へ徐は復学を申し入れる。


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