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Dead Head #93_188-189

十四 生きてる・・・
 夜行列車の対向座席、進行方向に向かって座っている。ここからは、信号も鈍く光る線路も見えない。去っていく墨色の時間を捉えることはできない。
 幸緒のいる店の前に立つ。ドアに『しばらく、お休みにします』との張り紙。
 翌朝、幸緒の実家へ。
「ごめんください」
 玄関から老人が顔を見せる。
「あんたか。縁側に回ってくれ」そう言うと老人は家の中へ。
 縁側に腰掛け、遠くの茶畑を眺める。あの夏の香りを懐かしむ。ヒロシとスイカを頬張ったその夏を。
「ヒロシのことか?」老人は盆に乗せた麦茶をすすめる。
「はい・・・」口ごもり、麦茶で唇を湿らす。
「幸緒が付き添っている」
「元気で・・・」
「死んだとでも?」
「ええ・・・。何もできなくて」
「誰かが見つけて、知らせてくれた」老人は曖昧な笑みを浮かべる。俺は黙って頷く。


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