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電脳病毒 #42_232

「長いことないのかね?私・・・」
「わからない。俺には・・・」
「私が死んだら、家を守っておくれよ」
「そんなこと・・・」徐は呟く。
 徐の家系は、代々伝わる古典劇を守っている。徐には、古典劇を継承する責務がある。
 数ヶ月後、徐の母親が亡くなる。徐は学校を中退。故郷へ戻り、古典劇の修得に日々を費やす。伝承者としての徐の立場を、地区委員会は認める。
 子供の頃から見よう見まねで覚えて来た技。体系に基づく学習が必要だ。徐は二十歳を待たず、家伝書を開く。それは古典劇の手法を網羅した学習書だ。伝承者が二十歳になると封印を解かる。徐はその年齢に一年未熟だ。だが、咎める者など誰もいない。
 古典劇の修得に励みながら、徐は片時も広播を離さない。英語放送の大筋を理解するようになる。理解を深めるにつれ、国に対する徐の失望はつのっていく。


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