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墜島記 #71_165-166

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 ソファから身体が滑りかけ、ハッと目が覚める。隣を見る。ワツィはいない。藍色の毛布が、溢れたインクのように床に拡がっている。
 どうしようもなく重い身体を、ようやく持ち上げる。亜空間の無重力から逃れた、宇宙飛行士のように。喉の渇きと、空腹が襲ってくる。当然のように、リュックサックに手を突っ込む。当然のように、無尽蔵に缶詰が湧き出てくると思っている。
 最初に手に触れ、取り出したのはパイナップル缶。そのラベルの文字を、しげしげと眺める。今頃、アニやイモはどうしているだろう?もちろん、ハハも。缶詰のプルトップの蓋を引き上げる。シロップを喉に流し込む。指先を突っ込み、パイナップルの輪切りを掴む。「そういうことか・・・」その輪切りを目の前に翳し、呟く。この図書館は、輪切りのパイナップル。それが、何層にも積み重なっている。今、その輪切りになった一つの層にいるのだ。
「何を、感心してる?」隣からワツィの声。
「いや、何でも・・・」
「まだあるか?」ワツィが、こちらに手を伸ばしてくる。

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