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【短編選集 ‡3】電脳病毒 #61_252

「それを判断する知恵がない。地方役人の頭には」
「それで、学生の取り調べまで?」
「そういうことだ。電脳室はこの先だ」
 劉は魯の後に続く。この土地では、一昔前の革命騒ぎが再発しているかのようだ。電脳、そしてそれに関わる者すべてが罪悪とでもいうのだろう。この国には、まだ妄信が根強く残っている。時代は、昔のまま変わってはいない。電脳による網絡化が普及したとしても、妄信を根絶できるものではない。そう劉は思う。
 あの革命の時代、劉の一家も手痛い打撃を受けた。一家は代々学者の家系だ。あの争乱で祖父は人民法廷へ担ぎ出され、家にあった書籍の大半は持ち去られ焚書された。病弱な父は、それを境に病床に伏す。その後、遠くの隔離病棟へ追いやられた。一人息子の劉は母親一人の手で育てられた。その後、香港の親戚に預けられた。


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