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【短編選集 ‡3】電脳病毒 #63_254

 皺の寄った黄土色の制服を着た、その男。この地方の出身らしく、頬骨が飛び出している。細い目で、男は劉を見つめる。
「警察署長の陳です」陳は頭を傾ける。
「この有様だ。この男、電脳のことなど何も知らないのだ」呆れたように、魯は電脳室を見回す。
 劉にはわかっている。それがポーズでしかないと。この愚鈍そうな署長がやりそうなこと。それを、魯は端から予想しているのだ。学生達を大量検挙することも。
「署長、学生達を検挙した理由は?」劉は陳を無表情に眺める。
「それは、そのう・・・」陳は魯の顔色を窺う。
「速やかにここを撤収したまえ。署長。学生達の尋問も取りやめだ」
「承知しました」陳は部屋を出ていく。
「この騒ぎが徐に伝わればいい。それだけだ」魯は劉を意味ありげに見つめる。


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