小さな巨人ミクロマン 創作ストーリーリンク 「タスクフォース・コーカサス」 0104

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-名古屋市上空-
「全く何なのよッ!?ビャクヤさんはともかく、あの〔スケべおやぢ〕がコーカサスに戻ってくるなんてッ!」

すっかり日も暮れて、星座が瞬く名古屋市上空。哨戒任務に飛び立ったサーベイヤーランドのロードパルサーコクピットに収まったアマネは、猛烈に憤慨していた。彼女の後方にあるシェルドーザーコクピットのタカキは、その様子を見かねて声を掛ける。

「アマネ、フライトレコーダー作動してるからさ……それに、マツリさんまだ若いのに〔おやぢ〕なんて言ったら、かわいそう……」
「……何か言った、タカキ?」
「い、いや、何でも無いです……」

案の定、怒髪天のアマネに凄まれて、すごすごと引き下がるタカキ。だが、フライトレコーダーを引き合いに出されて、彼女も渋々ながら文句を自制する気になった様だ。

「全く、ウチの男ドモときたら……そんな事より〔光通信システム〕の監視、ちゃんとやってるの!?レーダーは相変わらず使用不能なんだからね!」
「や、やってるって!今の所は問題無し、正常に働いてるよ」
「ふーん、ならいいんだけど……これじゃ、狼煙の時代に逆戻りね」

「そうだな……」

光通信システムは、先のエリュシオンとの遭遇に於いて交信に用いられた物だが……現在、謎の通信障害が発生している為、それを応用したプランが発案され、実行に移されていた。

それは、地上に設置された複数の光送受信機と直結した地球人の有線電話回線を経由して、哨戒機と名古屋支部やコーカサスをリンクさせる事で、レーダーの代用をこなすと言う物だった。

確かに雲の上や海中など、光の届かない、又は届きにくい場所では使用出来ないが……現状では他に有効な手段が無い以上、やらないよりはマシな為、不測の事態に対処出来る様に実戦部隊がその任に当たっていた。

クールダウンしたのか、アマネは放心気味の表情で星空を見上げていたが、ふと思い出した様に口を開いた。

「……フライトレコーダーって言えば……タカキ、この前の出撃の時にサーベイヤースカイのフライトデータが消えたって話……あれって、どう言う事なの?」
「え?……べ、別に……そう言う事さ」

突然、虚を突かれて慌てたタカキは、いい加減に答えたが……答えにならない答えに納得出来る訳が無く、アマネはしつこく食い下がる。

「それじゃ判らないでしょ!……大体おかしいわよ、簡単に消える筈の無いデータがあっさり消えたり、報告書にその経緯に付いての説明が無かったり……一体何があったのよ?」
「それは……言えないよ」
「どうしてなのよ?」

タカキは、ふと大人びた顔をして、優しく言い聞かせる様に答えた。

「ジクウ司令と約束したんだ。だから、これだけは……誰に何と言われようと、絶対に譲れないんだ……ごめんな、アマネ」

機内モニターに映ったタカキの顔を見たアマネは、何故か胸の内に切ない痛みを感じた――お人好しでルーズなだけだとばかり思っていた彼が見せた、寂しげな男の顔――アマネは、自分が我儘な子供になって無い物ねだりをした様な気がして、恥ずかしさと苛立ちを覚えた。

「……な、何よ……カッコ付けちゃって……バカみたい……」
「あぁ……アマネの言う通りかも知れないな」
「……じ、自分で認めなくてもいいじゃない……別に、あたしは……」

そんなアマネを、そっと受け止めるかの様なタカキの声。今度は、父親の広くて大きな背中におぶさって甘える、幼い娘になったかの様な錯覚に捕らわれ……頬を赤らめたアマネが、上ずった声で言い返し掛けた、正にその時――

<ビーッ!>
「何!?どうしたの!?」
「零方向に高熱源体!?……だけど……何なんだ、この高エネルギー反応は!?」
「零方向って……まさか……上!?」

警戒システムのアラーム音を聞いて、アマネとタカキは我に返った。思わずキャノピー越しに夜空を見上げた二人に向かって、〔何か〕が迫る!

<ガガーン!>
「キャーッ!?」
「ウワーッ!?」
「……い、一体……何が墜ちてきたのッ!?」
「……あッ!?」

突然の衝撃に動揺しながら、再び上方に目を向けたアマネとタカキの頭上――サーベイヤーランドの機体上部――には、彼らの二、三倍位の大きさの人型をした〔何か〕がいた。二つの黄色い眼の様な物を輝かせながら、まるで二人を見下ろすかの様に屈んでいる。

「……フシューッ」
「……な、なに……コイツ……」

〔それ〕は呼吸をしていた。そして、それから眼を逸らせないでいるアマネは、みるみる顔面蒼白になっていた――悪寒、頭痛、眩暈、そして吐き気。身体はもとより、食いしばった歯迄が勝手にガクガク震える。〔コイツ〕は違う――そう、彼女の存在する、知っている世界の物とは違うのだ。ならばコイツは――メンタリティが異なる、異世界の物だとでも言うのか!?

「……フシューッ」
「……な、何なんだ……コイツ……」

タカキも又、アマネと同じ状態に陥っていた。だが、彼は勇気を奮い起こして、それを観察した。一週間程前、エリュシオンのベースロケッター2と接触した時に、狼狽えて観察力を欠落させていた未熟な自分に対する悔しさ――それが、今の彼を衝き動かしていたのだ。

「……フシューッ」
『……コ、コウモリ……い、いや、それだけじゃ無い……トカゲの腕と尻尾……サソリの脚……えッ?胸にも顔が!?……アクロイヤー1に……似てるけど……』

それの体表は、まるで生物の皮膚の様に規則的に脈動しているが、人工物の様にも見える……〔胸の顔〕に気付いたタカキがそれを見つめた瞬間、顔が動いた!

「……何だ、小物かよ……ヘッ……まぁ、哨戒任務中の暇潰し位にはなるか」

胸の顔は、確かにそう言った。教育課程や訓練のシミュレーションではあるが、何度も見た〔アクロイヤー1〕の顔。しかし、少し小さく、ディテールも異なる様な気がする……

必死に考えるタカキは、まだ幸せだった。その思考のお陰で、恐怖に魂を鷲掴みにされずに済んでいたのだから。だが、アマネは……

「……フシューッ」
「……ば、ばけもの……」
「……フシューッ」
「……イ、イヤ……」

恐怖に捕らわれたアマネを見透かしたかの様に、化け物の黄色い眼が彼女を凝視し、そして……

「キシャーッ!」
そのおぞましい奇声を聞いた瞬間、アマネの頭は真っ白になった!

「イヤァァァーッ!」
「アマネッ!?うわッ……」

絶叫と共に、サーベイヤーランドを急速反転降下させるアマネ!急激なGと浮遊感に耐えながら、タカキは必死になって首を巡らし、化け物の姿を追った!……墜ちたか!?――いや、奴には羽根があった!――そして、信じられないスピードで追ってくる!!

「おいおい、つれなくするなよ〔積み木〕ちゃん……もっと遊ぼうぜ!……なぁ?」
「ヒィッ!……やめてッ!来ないでよッ!!」

羽根を生やした化け物――正に〔悪鬼〕と呼ぶに相応しいそれは、悠々とサーベイヤーランドに追い付き、まるで戯れるかの様にまとわりつく。恐怖に取り憑かれたアマネに向かって、胸の顔が呼び掛ける。

「ほらよ、もう追いついたぜ!……クククッ……さぁ、どうするんだ?」
「……コ、コイツ……からかってるの!?……クソッ……ばッ、馬鹿にするなッ!」

サーベイヤーランドに覆いかぶさるように付きまとう悪鬼と、胸の顔の嘲り声。それがアマネの心に、激しくどす黒い感情を産み付け、孵化させた。機体を減速させて悪鬼を正面に捉えると、恐怖に取って代わった憎しみに全身を支配されたまま、アマネは光子キャノンを闇雲に放つ!

「アマネッ、落ち着けッ!挑発に乗るなッ!!」
「このぉッ!化け物のくせにッ!墜ちろッ!!」
「……何だよ、その程度の実力か?……欠伸が出るぜ」

タカキの制止の叫びも、今のアマネには届かない。そこには――ひらひらと宙を舞う黒蝶を捕らえようと、闇雲に捕虫網を振り回すのと同じ、無益な光景が繰り広げられていた――必死なだけのアマネと、シラケた様子の胸の顔。アマネの精神状態に危惧を覚えたタカキは、サーベイヤーランドの操縦を自分の方に切り替えようと試みた。

「アマネッ!正気になれッ!ここは一旦退くんだッ!このままじゃやられるぞッ!俺に操縦を回せッ!!」
「ウワーッ!墜ちろッ!墜ちろッ!墜ちろーッ!!」
「畜生、駄目かッ!ど、どうすればッ……」

だが、激しい憎悪に身を任せて絶叫するアマネがスティックを離さない為、サブコクピットのタカキにはどうする事も出来ない。絶望に覆われ掛けたタカキの心に、一筋の光が差し込んだ!

「そうだッ!?ごめん、アマネッ!」
<バチッ!>
「ギャッ!?」
「よしッ、貰ったッ!あんな得体の知れない、しかも機動力のある化け物に、サーベイヤーランドじゃ勝てっこないッ!とにかく、空域離脱と連絡だッ!!」

パイロットが気絶した場合に覚醒させる為の電気ショックシステムを作動させ、アマネがスティックを離した瞬間に、サブコクピットへの操縦切り替えとロックに成功したタカキ。今、自分が為すべき事を声に出して確認し、実行に移そうとした、その瞬間。

<ビーッ!>
警戒システムの無情なアラーム音が、味方識別信号を発していない機体の接近を告げる!タカキは思わず、パネルに拳を叩き付けた!!

「畜生ッ、又反応かッ!?……えッ?……これは、移動基地!?……それに、ロボットマン2!?……ま、まさか……」
「……そこ……サーベイ……邪魔……失せろ……」

一つの答えに辿り着いたタカキの耳は、通信機から聞こえる男の声を捉えた。タカキはその声に聞き覚えがあった――そう、一週間程前に。

「あの時と同じ声!?……やはり……エリュシオンかッ!」
謎の敵に加えて、エリュシオン迄もが出現した事に唖然とするタカキに向かって、快活で不敵な男の声は檄を飛ばす!

「俺は、エリュシオン司令官ジユウだッ!〔牙〕を持ちながら、その研ぎ方や使い方さえも判らない腑抜け野郎は、尻尾を巻いてさっさと巣に帰れッ!目障りだッ!!」
「クッ……偉そうにッ!」

ジユウの言い様に、憤りを覚えるタカキ。しかしそれが事実である事も、自分が一番判っているのが悔しかった。そして、新たな相手の出現に、悪鬼は喜々として向き直った。

「ヘヘッ……今度は、もう少し骨のあるヤツのおでましか?」
「喰らえッ!光子波光線ッ!!」
「はーん?……効かねえ、効かねえ……効かねえなぁッ!」

ジユウが放つ渾身の攻撃も難なく回避し、或いは眼に見えない〔場〕で跳ね返しつつ、悪鬼も自らロボットマン2に迫り、トカゲの腕とサソリの脚で組み付いた!

「ウォッ!?」
「チェッ、只のハッタリ野郎かよ……つまんねえなぁ……」
「ば、馬鹿なッ!?俺のロボットマン2が押されているのかッ?」

かろうじてトカゲの腕をロボットマン2のパワーハンドで受け止めたジユウは、愕然とした。ロボットマン2より小柄な悪鬼の両腕は、どれだけ力を掛けてもびくともしないのだ。がっかりした声で愚痴る、胸の顔。

「何だよ、お前も歯応えが無ぇな……〔この星の奴ら〕は、こんなのばっかりかよ?」
「……この星の奴らだと?ど、どう言う事だッ!?」

歯噛みしながらも、胸の顔の言葉にジユウは疑問を覚えていた。一方、彼らが格闘戦に突入した為、迂闊に手が出せなくなっていた移動基地では、メインコクピットに収まったジユウの実弟ジザイが、ある決断を下していた。

「……地海底ミサイル一番二番、同時発射用意!」
「了解ッ!ロボットマン2の空域離脱確認後に、カウントダウンを開始しますッ!!」

ジザイの指示に対し、サブコクピットのベテランミクロマンは最適と判断したプロセスを提示したが……ジザイから返ってきたのは、意外な言葉だった。

「離脱確認は不要だ!準備済み次第、発射する!!」
「はッ!?……し、しかしジザイ副司令ッ!ジユウ司令が爆発に巻き込まれてしまいますッ!!」
「殲滅のチャンスは、ロボットマン2が組み合って敵の機動力を封じ込めている、今しかない!」
「そ、そんなッ……」

ジザイは状況を見て、謎の敵には全力で当たらねばならないと判断し、苦渋の決断に踏み切った。ジユウを捨て石にするかの様なジザイの冷徹な指示に、我が耳を疑った部下は思わず反問したが……それは聞き入れられず、逆に説き伏せられる有様だった。そして、冷静な声のままジザイは続ける。

「それに……過去の戦いに於いて、αH7と結合した光子波光線と地海底ミサイルの爆発に、ロボットマンが耐えたと言う記録もある……問題は無い!」

ジザイが話したのは、かつてミクロマンがアクロイヤーと闘っていた頃、ジャイアントアクロイヤーと呼称される巨大ロボットと初めて交戦した時の事だ――ちなみに、ロボットマンのパイロットを務めていたのは地球人の少年で、名を片貝あきらと言った――だが、あの様な幸運が再び起こると、一体誰が保証できるのか?あれは奇跡に過ぎず、二度と起こらないかも知れない。そう思い至った部下は、敢えてジザイに抗う。

「で、ですがッ……」
「この程度の状況から生還出来ない様な男に、エリュシオン司令など務まりはしない。もし、あそこにいるのが私だったとしても、司令は躊躇せず同じ決断を下す筈だ!」
「……わ、判りましたッ!……地海底ミサイル一番二番、同時発射用意に入りますッ!!」
「急げよ……発射のトリガーは私が引く!」

離反時からの仲間であり、ジユウとジザイを良く知る部下達はジザイの胸中を察しつつも、敢えて指示に従う決意を固めた。そして……

「……発射準備完了ッ!副司令ッ!!」
「了解した!……総員、衝撃と閃光に備えろッ!!」

言い放ちつつ発射トリガーに指を掛けたジザイは、心の中で願いを掛けた。

『兄さん、頼む……生き延びてくれよッ!』
「……3……2……1……」

ジザイのカウントダウンがゼロに達しようとした、その刹那……

<ドガーン!>
「グハッ!?……な、何だッ!」

移動基地上部のエネルギーシールドに衝撃が走り、ジザイ達は思わず顔を伏せた!……我に返ったジザイが見上げた満天の星空、そこにいたのは……

「困るなぁ……デモンヤング君とアクロボットマンの帰りが遅いから、様子を身に来てみれば……この美しい地球の上で、そんな物騒な物を使おうだなんて」
「……な……なに……」

そこには、ほっそりとしたシルエットのボディを持ち、エメラルドグリーンの角を頭部に戴くロボットが浮かんでいた。その冷酷な声を聞いたジザイの胸中に、絶対零度の氷が広がっていく……

「かけがえのない、水と緑の星、大事にしようよ……君達ミクロマンは、居候の身なんだからさ……ね?」
「……お……おまえは……」
「フッ……以前にお会いした事があったかな?……何分、君達の顔は皆同じに見えるんでね」

その冷たい声はロボット自身の物では無く、その胸部コクピットに収まるパイロットの声だった。ジザイは知っていた、このロボットや、パイロットの事を……忘れようとしても忘れられない、いや、忘れるわけにはいかない奴ら……既に、胸中の氷は一瞬で融解し、マグマとなって煮えたぎっていた……ジザイは、その名を呼ぶ……

「……おまえは……アーデン……」
「そう、僕はアーデンナルシー!……覚えていてくれて光栄だよ」

冷たい声が、高らかに誇らしげに宣言した瞬間……ジザイの胸中のマグマは、爆発した!

「……アーデンナルシーッ!?……地海底ミサイルッ、目標をアーデンロボに変更だッ!木端微塵にしてやるッ!!」

いつも沈着冷静で冷徹だった筈のジザイが、まるで狂った野犬の様に吠えた!だが、ナルシーは何ら感銘を受けた風でも無く、面倒臭そうな様子で答える。

「やだなぁ、取り乱して……みっともないったらありゃしないよ……それに……塵になるのは、君達の方さ」

その頃……エリュシオンの介入によって、窮地を脱する事が出来たサーベイヤーランド――アマネとコクピットを乗り換えたタカキは、逡巡していた。

「……まさか、アーデンロボって奴まで現れるなんて……退却するなら、エリュシオンとアイツらがやりあっている、今しかない……」
「……ウゥッ……ウッ……ウェッ……」

自問自答しながら、機内モニターに眼を向けるタカキ――そこには、まるで雨の中に捨てられた子猫の様なアマネがいた――身体を震わせ、自分の肩を抱いて、しゃくりあげている。

「……アマネの事も心配だし、今ここで退くべきだ……なのに……俺は何を迷っている……」
そう呟いて唇を噛み締めたタカキが、見つめる遥か先――そこには、組み合ったままのロボットマン2と悪鬼がいた。

「ハァ……ホントに大した事ねえなぁ、お前のロボット……俺のアクロボットマンの方が、よっぽどイカシてるぜ!」
「……アクロボットマン!?……ふ、ふざけるなッ!こいつは俺のかけがえのない相棒だぞッ、貴様ごときに負けはせんッ!……光子波光線ッ、発射ッ!!」

胸の顔――アクロイヤーマグネパワーズ・デモンヤングの嘲りに激怒したジユウは、光子波光線を最大出力で叩き込むが、悪鬼――アクロボットマンの表面に張られたバリアの様な物に、敢なく弾き返されるだけだった。

「やる気があるのは認めるんだけどよ、現実を直視しろって……こっちはまだ、ほんの少ししか力出してなかったんだぜ?……ほらな」
<ミシッ……>

気の抜けた調子でヤングが呟いた瞬間、アクロボットマンの手足に力がみなぎると……ロボットマン2の機体が嫌な音を立てて軋み、腕が徐々に反り返る。

「なッ!?……う、腕がッ!」
「じゃ、そろそろ本気出すとするか……手の平サイズに折り畳んでやるぜッ!」

予想だにしなかった展開に、顔から血の気が引いて行くジユウ。ヤングが軽口と共に全力を出そうとした時……アクロボットマンの肩に、光子エネルギーが炸裂した!

<バシッ!>
「……あーん?……まだいたのかよ、積み木ちゃん……しょうがねぇなぁ」

振り向いたヤングの視線の先には、こちらに突っ込んでくるサーベイヤーランドの姿があった!……結局、タカキはこの場に戻ってくる事を選択し、一か八かの掛けに出たのだ!!

「な、何とかッ……引き離せればッ!」
「馬鹿野郎ッ!その機体じゃ無理だッ、早く逃げろッ!!」

エリュシオンが面倒を背負い込んでいる内に、さっさと逃げていれば命拾い出来た物を……サーベイヤーランドのパイロット――タカキのお人好し振りにジユウは呆れ、その甘い状況判断に怒った。しかしタカキも、自身が決断した事をなじられたのに腹を立て、怒鳴り返す!

「うるさいッ、アンタだって一緒じゃないかッ!そんな事より、こんな所でモタモタしてると、仲間がやられちまうぞッ!!」
「な、何を言ってやがるッ!?ジザイはな……」
「移動基地と交戦してるのは、アーデンロボだぞッ!アイツ強いんだろッ!?」
「……ア、アーデンロボだとッ!?……ばっ、馬鹿な……クソッタレがッ!」

タカキの叫んだ、アーデンロボと言う名前に、思わず息を飲むジユウ。だが、色を失った顔にみるみる血を滾らせると、ガムシャラにもがいてアクロボットマンを振り払い、急速離脱してジザイの元へ飛び立った!

「何ッ!?ナルシーが来たのかッ……マズイな、少し遊び過ぎたようだぜ……なら、説教喰らう前に積み木ちゃんでも片付けて、大目に見て貰うしかねぇか……行くぜッ!」

片や取り残されたヤングは、タカキとジユウの会話を聞いて、一瞬狼狽の色を見せたが……すぐ思い直すとサーベイヤーランドに躍り掛かり、機体上面にしがみ付いた!光子キャノンの死角に入られ、サーベイヤーランドの攻撃は不可能になってしまった。

「キャーッ!」
「し、しまったッ!?……クソッ!離れろッ!!……だ、駄目なのか!?」

再び恐怖に捕らわれたアマネが、頭を抱えて絶叫する。タカキはサーベイヤーランドを激しく旋回機動させてアクロボットマンを振りほどこうと試みたが、しっかりと取り付いて離れはしない。彼は自分の判断ミスを後悔したが、今更悔やんだ所でどうにもならなかった。

「あがいても無駄だぜッ!……小さくコンパクトにしてやるッ!!」
「せめて……せめてアマネだけでも脱出させていれば……」

ヤングの言葉と共に、サーベイヤーランドの機体が悲鳴を上げ、タカキの眼前のキャノピーに亀裂が走った。自分の甘さにアマネを巻き込んでしまった事が、今のタカキにとって、一番の心残りだった。

「……畜生……ごめん、アマネ……」
「ククク……さよなら、だ」

キャノピーの亀裂は無数に広がり、視界は一面真っ白になった――これが、死の世界なのか?――ヤングの〔死刑執行宣告〕を聞きながら、タカキはふと、そんな事を思った。

「……こんなところで……ここまでで、おわるのか……なんか、あっけないんだな……」
不思議と涙は出てこなかった。生きている以上、どうせいつかは死ぬのだ。それが、たまたま早かっただけだ。そして……

<ズガーン!>
「ウギャッ!?」

大きな衝撃を感じた――ヤングの悲鳴――アクロボットマンが悶えながら離れて行く――そして――ヤングは叫んだ。

「い、痛てえッ!……なッ!?……ロ、ロケットパンチだとッ!?」
アクロボットマンの背中を殴り付けて弾き飛んだ〔何か〕が、まるで磁石にでも引き付けられるかの様に、天空に向かって消えて行く。

<ビーッ!>
「……又、高熱源体……これも……大きい?……上!?」

今日、何度目かのアラーム音。それによって現実に引き戻されたタカキは、白濁したキャノピー上方を肘で割ると、星空に眼をこらした!……輝く星座の中から、黒い巨人が落下してくる!?……そして、力強い男の声が響き渡った!!

「……マグネパワーッ!全開ッ!!」
「ま、まさかッ!?……やべえッ!離脱だッ!!」

タカキと同様に上空を注視していた、アクロボットマンの胸の顔――ヤングはその声を聞くと、慌てて頭を振った。突然、アクロボットマンの胸が左右に割れ、そこから現れたのは――ヤングの胴体と四肢――つまり、彼自身の身体だった!間一髪で彼が離れた刹那、落下してきた黒い巨人が、アクロボットマンに激突した!!

「ギャアーッ!」
ヤングとは違う声で絶叫する、アクロボットマン。そして、アクロボットマンとほぼ同じ大きさの黒い巨人は、巨大な拳を叩き込みながら共に落下していく。空中に浮遊したヤングは、その姿を見て叫んだ!

「な、何でッ!?……ロボットマンがここにいるんだッ!?」
「……黒い巨人がロボットマン!?……一体、何がどうなってるんだ!?」

デモンヤングの言葉に驚くタカキ。ヤングがロボットマンを知っていたのもさる事ながら、黒い巨人をロボットマンと呼んだ事が理解できなかった――何故なら、タカキの知っているロボットマンに、あの様なタイプは無いからだ――そして、二体の巨人の間では、更に驚きの状況が繰り広げられていた!

「コノヤロウッ!……キサマ、ろぼっとまんカッ!?……ダガ、キサマ……〔おりじなる〕ジャナイナッ……オレトオナジ〔ニオイ〕ガスルゼッ……クククッ……キサマモ、オレトオナジ……〔こぴー〕ダナッ!!」

アクロボットマンは、自身の意志で喋っていた!?しかも顔が、コウモリに酷似したものから、正に悪鬼と呼ぶに相応しい物に変わっていたのだ!対する黒い巨人も、怒りに震えた声で答える!!

「黙れッ!……私は、マグネパワーズエジソンによってこの世に生を受けた、ロボットマンバーン!……私は私ッ……オリジナルだッ!!」
そう叫びながら、アクロボットマンに激しく拳を叩き込む黒い巨人――ロボットマンバーンの言葉に、ヤングは再度ショックを受けていた。

「ロボットマンバーンだとッ!?……まさか〔奴ら〕も、自律型ロボットマンの開発に成功したと言うのかッ!」
「……その通りだ、アクロイヤーッ!……マグネパワーッ!全開ッ!!」

突然、夜空から若い男の声が降り注ぎ、ヤングが仰ぎ見たその先には……飛行するマシンに片手でつかまった、青年の姿があった!その姿や大きさは、タカキ達ミクロマンに似ている様だが……

「何ッ!?ミクロマンマグネパワーズにチェンジトルーパーズッ!……き、聞いてないぞッ、こいつら迄現れるなんてよッ!!」
「喰らえッ!超磁力ブレイクッ!!」
「トルネードクラッシュ!」

パニックに陥るヤングに向かって、光に包まれた青年と飛行マシンが、それぞれ叫びながら攻撃を仕掛けた!……だが、すんでの所でかわされてしまった。

「ウワッ!……チッ、ここは一旦引き揚げだッ!!……アクロボットマンッ!ナルシーの所に行くぞッ!!」
「リョ、リョウカイッ!」

ヤングの命令を聞いて、アクロボットマンはバーンを引き離し、彼を胸に収めて飛び去って行った……再び飛行マシンとランデブーした青年は、空を見上げながら悔しそうな声で叫ぶ。

「待てッ!……追うぞトルネード!!」
「駄目だアレク、バーンの回収が先だッ!あいつは飛行ユニットを装備してないんだぞッ!!早くミクロステーションを呼んで……」

答える飛行マシン――トルネードは、青年――アレクに差し迫った問題を提示して、速やかな対応を促したが……

「しかし、ミクロステーションは〔もう一体のロボット〕と交戦中だ!」
「何だとッ!?どいつもこいつも、後先考えず飛びだしやがってッ!……これだから、お前らと行動するのはイヤだったんだッ!!」
「す、済まない……」

アレクの言葉に憤り、文句をぶちまけるトルネード。その迫力に気圧されて、思わずアレクは謝っていたが……

「チッ……とにかくバーンの回収が先だッ!……やむを得んッ、あの〔四角いマシン〕を利用するぞッ!!」
「〔この星のミクロマン〕を巻き込むのか?」
「他に方法は無いッ!……行くぞッ!!」

手段を即決すると、アレクの問い掛けをはねつけて、トルネードはサーベイヤーランドに向かった。

「……えっ!?……マシンと人が……こっちに来る!?」
一連の状況を傍観するしかなかったタカキだったが、トルネードとアレクがこちらに向かって来るのに気付き、緊張した面持ちになった。そして、サーベイヤーランドの鼻先に近付いたアレクは、タカキに声を掛けた。

「僕は、ミクロマンマグネパワーズのアレク!お願いがあります!!」
「えぇッ!?……ミ、ミクロマンだって!?」
「どうか、あなたの機体上部に彼――バーンを乗せて下さい!今の彼は飛行出来ないんです!!」

見知らぬロボットマンの次は、見知らぬミクロマン――自分より一回り小さい体格――フードマン位か?――の、真面目そうな青年の頼みに、タカキは戸惑った。

「……ど、どうする?……でも、彼らは俺達を助けてくれた命の恩人なんだ、礼をしなきゃ……判りました、アレクさん!今すぐ降下して、バーンって人を乗せます!!」
「ありがとうございます!では、お願いします!!」

だが、自分やアマネを救ってくれた青年達を信じたい気持ちや、未知のミクロマンに対する好奇心が、疑惑や警戒心を上回り――彼の頼みを受け入れようと決心したタカキは、ホッとした表情のアレクに続いて、サーベイヤーランドを降下させた。

「……よし、近付いた!こちらはいつでもOKです、アレクさん!!」
「はい!……バーン、こちらの機体上部に乗せて貰うんだ!!」
「……了解!」

四肢を広げて滑空するバーンの下に、何とかサーベイヤーランドを潜り込ませたタカキは、アレクに向かって叫んだ。それを受けて、アレクはバーンに指示を送る。サーベイヤーランド上面、比較的損傷の少ない後部に、バーンは上手く取り付いた。

「……フーッ……どうやら、バーンって人を乗せられるだけの強度は、残ってたみたいだな」
ホッと安堵の溜め息を漏らすタカキの横に、トルネードにつかまったアレクが並び、声を掛けた。

「すみません、実はもう一つお願いがあります!バーンを、僕達の仲間の所迄連れていって欲しいんですが」
「もちろん、出来る限りやらせて貰います!お仲間は何処にいるんですか?」
「あなた達の仲間を襲った連中と、交戦しています!」

喜んで承諾するタカキの質問に答えるアレクは、エリュシオンの事をタカキの仲間だと思っているらしい。

「俺達の仲間?……エリュシオンの事か……説明は後回しだ。判りました、すぐ向かいます!……ちなみに、俺もミクロマン……タカキです、宜しく!」
「こちらこそ!無理を聞いて頂いて本当に感謝します、タカキさん」

笑顔を見せて名乗ったタカキの言葉に、アレクも含羞んだ笑顔で答えた。そして、彼らが向かおうとしている、アーデンロボのいる空域では……

「……クソッ、頑丈で小回りの効くロボットだぜッ!カスリ傷一つ付けられやしねぇッ!!……グスタフ!アレク達と連絡は取れたかッ?」

移動基地に似たシルエットを持つ飛行要塞――トルネード達がミクロステーションと呼んだ機体――の、機首にあるコクピット右側のシートに収まっていたのは……アレクと同じ型のスーツを着た青年だった。陽気な表情が似合う顔立ちなのだが、強ばった表情で後ろに向かって怒鳴った。

「駄目だよ、コーネフ!電波障害が酷くて繋がらないよッ!!」

青年――コーネフに答えた、やんちゃ坊主を思わせる声の主――グスタフは、飛行要塞の中央タワーに座っていたが……水色のマスクを被った様な卵型の頭には黒い眼しか無く、大きな頭に不釣合いの小さな身体は、アレク達とほぼ同サイズの強化服風の物に収まっており、異彩を放っていた。グスタフの報告を聞いたコーネフは、自分の左側のシートに向かってボヤく。

「全くッ!……何でアイツらが飛び出すのを止められなかったんだよッ、サーシャ!!」
「そう言うコーネフだって、止められなかったじゃないッ!……アレクはいいわよ、トルネードがいるから……だけど、バーンは……あの子は自力で飛行出来ないって言うのにッ!!」

コーネフの左側のシートに座っていて、彼のボヤキに怒鳴り返した女性――サーシャは、コーネフ達と同じ男性タイプのスーツを着用している。苛立つ彼女を慰めようと、コーネフとグスタフは言った。

「あぁ!だから、さっさと奴を片付けて……」
「バーンやアレクやトルネード兄ちゃんの所に行こうよ!」

「えぇ!」

だが、彼ら――ミクロステーションの攻撃は、アーデンロボのエネルギーシールドと回避機動の為、ダメージを与える迄には至らず……それはアーデンロボ側も同様で、戦況は膠着状態に陥っていた。その無様な戦い振りに、ナルシーは少しイラついていた。

「まさか、マグネパワーズ達が参戦してくるとはね……予定では、とっくに片を付けて帰還していた筈なんだが……ま、たまにはこんな日もあると言う事か……おやおや……僕のファンが又一人、ノコノコとお出ましの様だ」

ナルシーがファンと揶揄したのは、ロボットマン2を駆って下方から迫るジユウの事だった。彼は、先程のジザイに優るとも劣らず、怒りに我を忘れていた!

「アーデンッ!アーデンロボッ!……貴様らだけはッ……絶対に生かしておかんッ!!」
「そんな旧式の可愛いベイビーで来られてもね……かけがえの無い大事な命を粗末にするのは、関心しないな」

そしてナルシーも、ジザイと相対した先程と同じく面倒臭そうな調子で、ロボットマン2に向き直った。各部にダメージを受けて飛行するのが精一杯の移動基地から、ジユウが叫ぶ。

「や、やめろ兄さんッ!ロボットマン2では無理だッ!!」
「止めるなジザイッ!奴らだけはッ……奴らだけは絶対に許さんッ!!」
「無駄だよ……バランレーザー!」
「ウワーッ!?」
「兄さんッ!?」

ジザイの制止を振り切って、アーデンロボに戦いを挑むジユウ。しかし、破壊光線をまともに受けて、敢なく撃墜された。落下していくロボットマン2を救う為、ジザイは移動基地を急降下させて追う。

「もう、おしまいなのかい?……駄目だよ、もっと体力付けなきゃ……そんな事じゃ女子にモテないよ……やれやれ……ようやく、ヤング君が戻ってきたか」

ロボットマン2と移動基地を、冷めた表情で見下していたナルシーの元に、アクロボットマンに寄生合体したヤングが現れた。

「ナ、ナルシー……」
「困るな……与えられた仕事以上の、余計なマネをされては……それに、下手な功名心は身を滅ぼす元だよ……デモン三幹部の様に出世したいんだろ?……その為にも、自分を大事にしなきゃ」
「クッ……」

若く血気盛んなヤングの心の内を見透かしたナルシーに、彼は返す言葉が無い。冷たい声の中にサディスティックな匂いを漂わせつつ、ナルシーが続ける。

「本当なら、お仕置きなんだけど……ミクロマンマグネパワーズ達の存在も確認出来たし、まぁまぁ楽しめたから、今回は帳消しにしてあげるよ……それに……君は〔今度の作戦〕に欠かせない大事な人なんだ、イヂメ過ぎてケガでもされたら困るしね……じゃ、帰るとしようか」
「りょ、了解……」

ヤングの返事を聞くや否や、あっという間に遥か上空に飛び去ったアーデンロボ。アクロボットマンも慌てて後を追い、その場にはミクロステーションだけが残された。歯ぎしりして叫ぶ、コーネフとサーシャ。

「待てッ!逃げるのかよッ!……コンチクショーッ!!」
「あたし達には力が無いわ……力が欲しい!……アーサー教官達の様な、強くて大きな力が!!」

「……コーネフ、サーシャ……あッ!?二人とも下を見てッ!アレクとトルネード兄ちゃんだッ!バーンも……何か四角いのに乗ってるよッ!!」

そんな二人を悲しそうに見つめていたグスタフだったが、アレク達の元気な姿を見付けると、大きな眼を細めて喜びに沸き返った……こうして彼らは、無事再会を果たしたのだった。

(22/12/08)

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