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未来思考スイッチ#03 「スパイラル」に未来を妄想する

故きを温ねて新しきを知る。

『未来思考』とは、未来を起点に発想していく考え方です。しかし、だからと言って過去をないがしろにすべきではありません。むしろ、昔の出来事を研究し、吟味することで、新しい知識や見解を得ることができます。「温故知新」は、現状の枠を超えていくための智慧になり、『未来思考』にとても役立つものなのです。

暮らしの未来を考えていく際、その母体となる家族やコミュニティがどのように変化してきたかを振り返るのも、「温故知新」のひとつです。これから、これまでの家族の100年間をざっと振り返ってみましょう。

大家族の時代(~1920年頃)

100年前の家族像はどうだったのか・・・。1900年頃、明治の日本は電気が登場し始め、白熱灯が造られるようになった時代でした。1920年頃にかけて、明治版ベンチャー企業と呼ぶべきでしょうか、家電メーカーが勃興し始めます。

当時の家族を一言で表すなら、「大家族」、「三世代家族」が良いでしょう。農業や商業などの家業を大家族で営み、一家全員で家事に取り組みました。住み込みで働く家族も多かったようです。私の祖父母宅は自営業を営んでおり、住み込みの家族をまかなっていたと、子どもの頃に聞いたことがあります。確か1960年辺りの話です。この頃でも大家族は珍しいものではなかったようです。

図1

1920年以前は家電が普及する前の時代です。家事は大変な重労働だったことでしょう。家業と家事はシームレスにつながり、家族全員が協力して取り組んだはずです。大家族ですから、食事はたくさんの量を作り、たくさんの洗濯物を手作業で洗い、子どもの教育や躾には、優しいお婆さんの補助があったことでしょう。

核家族の時代(~1980年頃)

その後、経済成長が始まります。アメリカの家政学の影響を受け、家庭生活の合理化が進みだしたのは1920年からでした。「家事を家庭内に閉じ込めるのではなく、外の人々と共同化していこう」、「家事労働のあり方を再編し、そのための装置や空間を新たにリデザインしよう」という家事の見直しが謳われるようになったのです。これより「家事の商品化」が始まり、第一次の家庭電化ブームが始まります。電気冷蔵庫、電気洗濯機が登場し、電気コンロ、トースター、ストーブ、扇風機、アイロンなどが家庭に揃い始めます。

1964年、東京オリンピックを大きな転機として、急速に舗装道路が整備され、社会インフラが充実してくると、物資が行き届くようになり、スーパーマーケットが全国に普及、調理家電を中心に家庭電化も一気に拡がりを見せたのでした。

この時期、家族像は「大家族」から「核家族」へと移り変わります。「職住一体」だった大家族時代から、「職住分離」の社会構造に変化し、サラリーマン家庭が増えていきます。お父さんはお勤めマイホームパパ、一家団欒はテレビの前、家の事はお母さんにお任せ・・・といった均一化した生活モデルが量産されていきます。

図2

アメリカ発のホームドラマで描かれる暮らしが理想像となり、家電の普及も手伝って、専業主婦のイメージが形成されていきます。昔は家事を家族で分担していましたが、核家族時代はお母さんが一人で一日中がんばるという社会通念のようなものが形成されていったのです。

個人化の時代(~2010年)

1979年、ウォークマン第1号機がソニーから発売されます。ポータブルオーディオの幕開けです。当時の私は中学生で、「すごい未来がやっていた!」と大変興奮したことを今でも憶えています。欲しかったけれど、中学生に手が出る金額ではありません。必死にお金をためて、ヘッドホンだけ買いました(笑)。ふんわりと羽のような軽さのそれは、まさに外で音楽を聴くためのヘッドホンでした。

家庭向けの家電がひと通り普及した後にやってきたのは、このウォークマンのように「個電」と言われる個人向けの商品群でした。そして、家族も「一体感」から「個人尊重」へと価値観を変えていきます。それぞれの行動が優先されていくため、家族の生活時間はすれ違いが増えていきます。食事の時間も違う、見たいテレビ番組も違う、付き合う人も全く違うという状態が当たり前になり、バラバラな家庭生活になっていきました。

図3

お母さんも外へ働きに出るようになり、社会的なお付き合いも増えていきます。共働き家族が増え、家事と仕事の両立が前提となると、家事の夫婦分担が広がり始めます。家族で団欒するというイメージは希薄になり、同時に家事事情は新たな局面を迎えることとなります。

例えば、ホームセキュリティの契約数が増加し、水はミネラルウォーターに変わり、安全や安心は自らで買うという新たな習慣が出始めます。ゴミの分別などの「環境家事」は、家事労働の新ジャンルとなりました。また、食品添加物への懸念、健康・医療・教育への悩み、保険や金融の自己責任運用などは、高度な知識と知恵を要求されるものとなっており、段々と複雑極まりない家事へと移り変わっていったのです。(この変化は、次回のコラムでもう少し詳しく触れていきます。)

もはや家事を単なる「家庭に関わる諸活動」という概念では括りきれなくなくなりました。然るに、これからは“家事”ではなく、“くらし経営”と呼ぶべきではないかと私は思っています。

新たなコミュニティの時代へ(2010年~)

現在、私たちはどのような家族像へ向かっているのでしょうか。個人を中心としてコミュニティのあり様を考えていくと、一人ひとりがマルチコミュニティという多面的な関係性の中で生活していると言えます。バラバラな生活の中でもコミュニケーションを密にとることで、つながりのバランスを取っているようです。

図4

独居世帯が増えている昨今、一人だけど多面的なつながりで悠々自適に暮らす方も増えています。外部のアウトソーシングサービスの充実は、家族の助けがなくても生活ができることを支えていますし、高齢家族と同居するよりも、適度に離れた距離でつながり、それぞれが自立した生活をする方が快適だと考えても、不思議ではありません。

「一人ひとりに合わせた健康メニュー」、「あなただけの特別なおすすめ商品」など、世の中にはおひとり様サービスが溢れていることから、個人が中心となったマルチコミュニティという家族に代わる社会的なバランスが浮かび上がってきます。マルチコミュニティの動きは始まったばかり。本格的な変化はこれからなのかもしれません。

家族像の移り変わりを「抽象化」して眺めてみる。

大家族、マイホーム家族(核家族)、バラバラ家族、マルチコミュニティの変化を見てきましたが、これを下のような2軸チャート、縦軸に「家族 ⇔ 個人」、横軸に「職住一体 ⇔ 職住分離」で整理してみましょう。

図5

2020年、3密回避、ソーシャルディスタンスが叫ばれるようになり、一気にテレワークが浸透しました。職場へ出勤できなくなったわけですが、やってみると「在宅勤務、案外いけるよね」と感じた方も多いはずです。更に、家と職場を結ぶための「通勤時間」がなくなると、時間のQOLは一気に上がるため、在宅勤務は今後デファクトになっていくと私は考えています。その意味で、現在のマルチコミュニティが、上の図の左下象限にある「職住一体」に配置できたのは、私にとって新しい発見でした。

ここで、上の図をもう一度よく見てください。「大家族」から始まって、チャート上をグルっと一周しているように見えませんか。この流れからすると、「マルチコミュニティ」の次は「大家族」の象限に戻っていくような気もします。でも、昔の「大家族」に回帰していくなんて考えられるでしょうか。

「スパイラル」という回転をイメージする。

ここで、先ほどの図を別の表現で描き直してみましょう。縦軸に「家族 ⇔ 個人」、横軸に「職住一体 ⇔ 職住分離」は変わらずそのままです。

図6

そうです。同じ円周上で動くのではなく、「スパイラル」の形状で動いていると考えてみるのです。すると、「マルチコミュニティ」のその先は、確かに「大家族」の象限に入りますが、「大家族」の位置ではなく、半径が大きくなった(次元が上昇した)場所に位置することになり、新しい家族像のヒントが潜んでいると考えられます。

グローバルとデジタルのその先にある家族像。

世界はグローバリゼーションを加速させてきました。フェイスブックの会員数はある国の人口を凌駕しています。中国の通貨「元」は、国を超えて独自の経済圏を拡大しています。これは、国家という集まりから、コミュニティ圏や経済圏という次の集合へと移り変わっていることを示唆していないでしょうか。果たして、遠い未来に国家という形は残っているのでしょうか。

このような思索を重ねていくと、家族という概念も血縁や地縁に縛られるのではなく、より精神的にも経済的にもつながりの深い関係を重視していく流れにあるのかもしれません。それをここでは「メタ家族」と表現してみました。サイバーとフィジカルが一体的となる世界、インターネットで国境を感じなくなる世界。価値観でつながる世界。多様性がそのまま受け入れられる世界。そんな世界における次の家族像が「メタ家族」という仮説です。

回転は強力な発想ツール。

地球が自転し「昼」と「夜」が繰り返すように、私たちが呼吸で「吸う」と「吐く」を繰り返すように、これらの反復を『回転』として立体的に捉えると、この「スパイラル」の動きが見えてきます。同じ経路のようで、少しずつ次元が上昇している動きです。歴史は繰り返されると言いますが、らせん階段を上るように世界を変えてきたのではないでしょうか。

世界には世界を成立させている方程式があるはずです。今回は「スパイラル」で方程式もどきを語ってみました。当たるかどうかはわかりません。でも、自ら未来を想像するための『未来思考スイッチ』にはなっていくはずです。

是非、皆さんも試してみてください。

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