ツンデレ
ゾーイ。
美しくて孤高な存在。という言葉がピッタリのメス猫。
当時のデート相手のお家で飼われていた。
スマートで機敏に華麗に歩く。
ポーカーフェイス。
甘えたところも、怒ったところも、
はしゃぐ様子も見たことがない。
ある日、デート相手との意見の食い違いから
彼は部屋中の物を手当たり次第に破壊行動に
出た。
ただ怖くて固まることしかできなかった。
彼が部屋から出て行った後、その場に息を
潜めて泣いていた。
どこからともなくゾーイが現れ、
ベッドの上に体操座りをしていた私の膝に
前足を置き顔を舐め始めた。
「あんた何泣いてんのよ。そんな男なんて
放っといてさっさと帰りなさい」
と普段のゾーイなら言いそうな、いつもの
塩対応とは正反対の行動にびっくりし過ぎて
涙は速攻引っ込んだ。
彼女の気遣いと優しさ、
そして「私、嫌われてなかったんだ!」と
いう嬉しさが勝って、さっきまで感じていた
恐怖も融解し笑顔になった。
ゾーイは暫く私の横に静かにいてくれた。
帰ろうにも彼に話しかけるのも
彼の注意を引くのもまだ怖い。
どうしたものかと思っていたら、
彼が部屋に戻ってきた。
私に近付いてくる彼と恐怖で固まる私の間に緊張が走る。
どうしよう。と思っていたら、
ゾーイが私の前に立ちはだかってくれた。
それも、しっかりと彼を見据えて。
女の子なのに王子様みたい!と
恐怖に支配される頭の片隅で
ときめいていた。
彼に「何だよコイツ」と言われて
片手でベッドから降ろされたものの
(ゾーイ、あっけなかった!と思ったのは
内緒)
また戻ってきて、私の身体に足を置き
彼から守ろうとしてくれた。
その後、落ち着きを取り戻した彼と和解し
私も恐怖から解放され普通に戻ったら
ゾーイは完全なる塩対応に戻った。
せっかく仲良くなれたと思ったのに!
と残念に思いつつも、感情を読み取って
くれる賢さと、身を挺して守ろうと
してくれた優しさに感動した。
それまで猫とあまり関わることが無い人生
だったので、猫ってすごい!!と思った。
その後、彼の家を出る時に玄関で彼を待つも
なかなか来なかったので、玄関に座って壁にもたれて目を瞑っていたら、トコトコトコ〜と音がするので、そちらに目を向けたら
こちらに向かって小走りで駆け寄ろうと
してくれたゾーイの姿が目に入った。
でも、顔を向けた瞬間、
「なんだ。生きてるじゃない。
しょうがない人間ね。」
と言わんばかりにゾーイは踵を返して
もと来た道を帰って行った。
その後は彼と喧嘩をしたり、
彼が破壊行動に出ることはなかったので
ゾーイが優しかったり、守ろうとしてくれたのはその日限りだった。
私が彼の家に行かなくなるまで塩対応は
続いた。
懐が大きくて強くて優しくて美しいのは
人間じゃなくてもとても惹かれるものなんだなぁと思った。
あまり守られるという経験が無いからか、
彼との事を思い出した時、彼の事よりも
ゾーイの事をまず思い出す。