歯科の世界では、近しい仲間や目の前の先輩から学んではいけない
同業者同士で情報を交換し、学び合う。
先輩から教えてもらう。
自分が先輩になったら積極的に後輩に教えてあげる。
こんなふうに積極的に学び、あるいは教えることは、とても良いことのように思えますよね。
先輩が後輩に教えるという行為は、後輩が学ぶことができるだけでなく、先輩自身の学びにもなる、一石二鳥の手です。
実際、多くの世界で、これは良いことでしょう。
私自身、他の世界と同じように、歯科の世界でもこれは良いことだと思っていました。
でも実際は全くそうではないということに気がついたんです。
今日はそんな話です。
学会での「プロジェクト」立ち上げ
とある学会での話です。
その学会では、コロナ禍で学会の活動が縮小される中、「プロジェクト」というものを立ち上げようということになりました。
「プロジェクト」というのはどんなものかというと、何人かが寄り集まって、特定のテーマについて調べたり議論したり教えあったりして、その知見を「プロジェクト」外にも発信するというものです。
これは良さそうな試みですよね。
興味を持ったテーマについて、仲間たちと協力して調べたり、他人に教えたりすることで、より広くより深く学ぶことができそうです。
プロジェクト外で、その発表を聞く人たちも、整理された情報を入手することができて、とてもありがたいように思えます。
さて、プロジェクトが立ち上がり、しばらくすると、各プロジェクトは学会内でセミナーを開催し、自分たちの知見を発表するようになりました。
そこで私は気づきました。
プロジェクトという活動は失敗だった、と。
そしてプロジェクトは害悪となった
いざ各プロジェクトの発表を聞いてみると、どの発表もそれはそれはひどいものでした。
文献をコピペして読み上げるだけならまだマシな方。
まるで間違った臨床の知見、患者さんの健康を害すような臨床の実態、医療のスタートラインにすらつけていないような思想や考え方、そして0点のプレゼン資料。
目も当てられないような惨状がそこに広がっていました。
このままでは、プロジェクトによる発表が行われれば行われるほど、皆のレベルは下がっていってしまう。
完全に本末転倒だ。
すぐにプロジェクト活動は廃止しなければならない。
それが私の思ったことです。
歯科は「レベル」ではなく「点数」
それまで私は、歯科のスキルを「レベル」で考えていました。
ある分野についてレベル0~100で考えたとします。
レベル0はまだ何も全く知らない段階。
レベル100はその分野で世界一の歯科医師。
そんなイメージです。
たとえば、レベル1の歯科医師がいて、レベルを上げたいとします。
レベルを上げるためには、レベル5くらいの先生が教えればいいですよね。
だって、教わる側より教える側の方がレベルが高いんだから。
教えたらレベルが上がるはずです。
でもそれは歯科においては間違いです。
歯科においては、こう考えるべきでした。
今、1点の歯科医師がいて、点数を上げたい。
この歯科医師に教えるべき人間は、5点の人間か、100点の人間か。
それはもちろん100点の人間である。
なぜなら「5点の人間」というのはつまり「言っていることの95%が間違っている人間」だからである。
「レベル」ではなく「点数」でとらえるのが、正しい考え方でした。
なぜ歯科は「レベル」ではなく「点数」なのか
ではなぜ歯科は「レベル」ではなく「点数」なのか。
他の世界では「レベル」の考え方が使えるのに、歯科だけ「点数」という考え方が正しくなってしまうのか。
それは、歯科という世界が、どんなにレベルが低い人間でも、すべてのことに答えを出さなければならない世界だからです。
私がメーカーで新入社員だった頃の話をします。
私は最初に配属されたとき「海外窓口」という仕事を与えられました。
海外から送られてくる問い合わせに回答したり、海外との電話会議を開催さいたりする仕事です。
この仕事、最低限英語さえできればなんとかなる仕事なんですね。
海外から送られてくる問い合わせを日本語に訳して、回答できそうな人に日本語で教えてもらって、その回答を英訳して送り返せばいい仕事でした。
そうしたやり取りを繰り返しているうちに、少しずつメールの書き方や、製品、組織、人、ルールや考え方など、様々なことを覚えていけるんですね。
徐々に自分がやれることを増やしていったわけです。
レベルアップのイメージとしては例えばこんな感じです。
総合Lv3 英語Lv10, コミュLv1, 製品知識Lv0, 組織知識Lv0
↓
総合Lv5 英語Lv12, コミュLv5, 製品知識Lv1, 組織知識Lv1
↓
総合Lv8 英語Lv15, コミュLv10, 製品知識Lv8, 組織知識Lv1
↓
総合Lv15 英語Lv20, コミュLv20, 製品知識Lv18, 組織知識Lv3
業務の範囲が限定されているから、少しずつレベルアップしていけるし、レベルアップに伴って業務範囲を拡大していけばいいわけですね。
後輩にも、堂々と教育できます。
だって、後輩が任されている仕事は自分の業務範囲より狭くて、その範囲で自分は十分レベルアップできているから。
問題なく後輩を教育することができます。
ところが歯科医師や歯科衛生士はわけが違います。
もちろん最初の最初は少しずつ段階を踏んで物事を覚えてはいきますが、ある程度の形ができたら、患者さんを配当され、基本的に自分が患者さんのすべてを見なければいけません。
その人の全体的な診断、治療計画や予防計画、それらを考えるにあたってのパーソナルティの把握や、有効なコミュニケーションの方法など、決めなければいけないことは山程ありますが、それは自分がどんなにできなかろうと、すべて答えを出さなければいけません。
たとえ全然できなくとも。
そして、全然できていなくとも、ほとんどの場合、患者さんにバレず、同僚にも見られず、院長にも監督されません。
だから、間違いだらけのまま何十年も診療を続ける人が膨大にいます。正直なところ、歯科医師や歯科衛生士の大半がそうだといっていいでしょう。
これが歯科業界の特異な性質です。
だから超一流から学ぶ
そんな歯科業界では、近しい仲間や目の前の先輩から学んではいけません。
なぜなら、彼らはおそらく0~1点の人間で、99%以上間違ったことを教える人間だからです。
ではどうするか。
自分が超一流と決めた人だけから学ぶことです。
セミナーでも書籍でも構いません。
間違いのないと思える人から学んでください。
今の時代なら、X(旧Twitter)から探すと信頼性が高いでしょう。
従来のように肩書だけで評価されてきたセミナー講師達と違い、本当に臨床と教育を評価された人がセミナーを行い、継続している可能性が高いです。
いずれにしても、大学病院に残るなどして、本当にちゃんとした専門家に師事する場合を除いて、近しい人からは学んではいけません。
まとめ
・歯科は「レベル」ではなく「点数」で考える
・だから近しい人から学んではいけない。超一流だけを探して学ぶべき
今回は以上です。