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レジェンドに最大限のおもてなしがしたかった話

通常トークイベントとFDトークの違い

6月14日に後楽園ホールで開催された「Fortune Dream 8」(FD8)にておこなわれた、小橋建太×スタン・ハンセンのスペシャルトークバトルのMCを務めさせていただきました。会場は大変盛り上がり、各種SNSにも多数の好意的なコメントをいただいたので、今回はこのトークバトルに臨むにあたって、私が考えていたことについて紹介していきましょう。

現在は本業の制作の仕事が「超」が5つも6つもつくくらい多忙なため、MC業は厳選させてもらっていますが、一時期は毎月2〜3本、多様なイベントのMCをやらせてもらっていました。そうしたトークイベントのMCと、FDシリーズのMCはまったくの別モノです。その違いから説明します。

まずはシチュエーションの違い。普通のトークイベントに来場されるお客様は、当然トークメインで来ているので普通に話すことができます。一方、FDは試合の中にラインナップされたトークであり、トークに興味のない方も一定数は存在することが予想されます。そのため、30分の時間の使い方によっては、「長い」と感じられたり、会場の空気がグダグダになる恐れがあるのです。

続いては舞台の違い。普通のイベントではステージからトークをお届けします。つまり、お客様は正面にしかいないので、全員の反応をしっかり見ることができ、それによって話を引っ張ったり、話題転換したりと考えることができます。これに対してFDはリング上でのトークであり、四方にお客様がいます。小橋さんとゲスト(今回はハンセンさん)が正面を向いて座るため、私は一番お客様が多い正面に背を向けた形になり、大多数のお客様の反応を見ることができません。実はリング上では後ろからの声はほとんど聞こえなくて、これが進行を難しくさせています。神経を研ぎ澄ませていないと空回りしてしまう危険性があります。

上記が通常のトークイベントとFDの大きな違いです。これに加えて今回は通訳が入るという問題がありました。ハンセンさんは優しくキレイな英語で話してくれるため、比較的分かりやすかったと思います。ただ、どうしても質問から反応までのタイムラグが生まれてしまうため、この空白をコントロールする必要がありました。また、私の言葉やニュアンスが正確に伝わらないと、変な空気になってもおかしくありません。この部分は通訳のテッドさんが的確に伝えてくれたので、本当に助かりました。

以上が当日を迎えるまでにクリアにしておかなければいけない課題でした。念のため補足しておくと、基本的にトークイベントは主催者から台本が用意されることはありません。設定されるのは時間だけで、あとはすべてMCにお任せです。うまくいくのも、コケるのも私の腕しだいということです。

試合をコントロールするようにトークをコントロールする

こうした状況を踏まえ、今回のトークバトルを盛り上げるために私が考えたのが、ビジョンを使うことでした。せっかくのリング上でのトークであり、後楽園ホールでのトークなので、試合にフィーチャーした話題に特化して話す。当然、お二人がその試合を覚えていないことも考慮して、ビジョンでそれを見せた上で話を展開しようと思いました。

テーマにしたのが、これまでにハンセンさんが小橋さんにしてきた「ひどいことリスト」。30分というトーク時間、通訳が入ること、映像の時間を考えて、5個に厳選。日本テレビさんにオーダーして用意してもらいました。

この「ひどいことリスト」を紹介する順番が一番のポイントでした。若手時代から時系列で紹介するのではなく、ジワジワと「ひどいこと」が面白くなっていくように戦略を立てました。

最初にこの日の舞台である後楽園ホールでの「打ち落としラリアット」。続いては武道館での「コーナー上の小橋さんへのラリアット」。ハンセンさんの代名詞を「すごさ=ひどさ」に結びつけ、お互いの武器であるラリアットのトークをしてもらうという組み立てです。

これはあくまでもジャブです。続いて同じラリアットでも、試合ではなく、若手時代の小橋さんへの八つ当たりという場面をチョイス。先にこっちのネタを出すのと、前フリがあって出すのとでは絶対に反応が違うと思っていたので、時系列を無視した紹介順にしました。

ここまではラリアットによる「ひどいこと」で話をつなぎ、4つ目は技ではなく「イス攻撃」。今までは技だからまだいいけど、今度は技じゃないのかよ!とみんながツッコミたくなるような流れにすることが狙いであり、同時にその攻防から二人の闘いの激しさを伝える目的がありました。

最後は試合と関係のない表彰式での八つ当たり。オチとしてはこれしかありません。しかも殴ったときの音が最高すぎて(小橋さん、ごめんなさい)、映像だけで勝負ありだなと思っていました。

以上が私が考えたトークバトルの組み立てです。プロレスの試合と同じで、どこでどんなことをすればお客様が盛り上がっていけるかを考えて、構成しました。そして、二人のダイレクトな反応を見たかったので、「ひどいことリスト」と内容は事前に伝えていませんでした。百戦錬磨のレジェンド二人なので、どんな展開になっても大丈夫だと思っていたし、あとは自分がなんとかするという気持ちもありました。

スタン・ハンセンという日本マット界最大のレジェンド外国人レスラーが久しぶりにリングに上がるので、シーンとした空気には絶対にしてはいけない。お客様が沸きまくる展開にして、最高のおもてなしがしたい。そんな気持ちで精一杯やらせていただきました。

中にはもっと深い話を聞いてほしいと思ったファンの方もいるかもしれません。ただ、今回に関しては最初に説明したように、純粋なトークイベントではないため、一人が長く話す場面が多くなると会場が静まりかえってしまう可能性もあったため、テンポを重視して、ポンポン話題を変えていきました。

なんでも100パーセントの正解はないので、もっとできたなと思う部分はあります。それでも皆様の反応を見る限り、合格点には届いたかなと思っています。7月5日には日テレG +での放送もあるため、会場に来られなかった方はそちらでチェックしてみてください。

イベントMCは台本に添って適当に笑って喋っているだけと思われがちですが、事前の準備とどんな展開になっても回せるように頭をフル回転させる仕事です。それだけ準備に時間を使い、現場で頭をフル回転させるため、多忙なときにカンタンには引き受けられないということをご理解いただけると幸いです。ただし、やるとなったらどんなに忙しくて疲れていても、最高のモノをお届けすることは約束します。

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