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取材に生きる三沢さんの教え

人間国宝、国民栄誉賞、JAXA宇宙教育センター長、大谷翔平、オリンピック金メダリスト、老舗の和菓子職人、人気バーテンダー、神社ソムリエ……etc。現在は多種多様な世界のすごい人を数多く取材させてもらう機会に恵まれています。また、パラアスリートの取材機会も多く、視覚や聴覚に障害のある選手、あるいは知的障害の選手のインタビューも数多く担当しています。

どんな世界のどんな人物が相手でも、楽しく、濃く取材ができる秘訣は、場数を踏んだことと事前に十分な準備をすること。これに加えて、大きかったと思っているのは、若手記者時代に三沢光晴さんの取材を経験したことです。

というわけで、今回は若手時代に三沢さんへの取材を通じて学んだことについて書いていきましょう。

基本的に私は性格が真面目なので、とにかく相手が不快な思いをしたり、負荷がかかったりしないようにと、いろいろと気をつかいます。そんな私が真剣に真面目な質問すると、三沢さんはいつも「真面目か!」と笑って突っ込んできました。

ディファ有明の社長室でのインタビューの際、部屋に入ると三沢さんは寝たふりをしていたり、BMWのパンフレットを見ていたり、まったく関係のない雑談をしてきたり、なかなか取材が始まらないということも多々ありました。

貴重な時間を割いてもらっているので手際よくやらねば…と私が話を急ぐと、「もうやるの?」「えー早いよ」と、しばし雑談を続けることもありました。若く経験のなかった頃は、うまくやらないといけない…と焦ってしまっていましたが、この経験が今になって生きています。

少し親しくなってからは三沢さんと飲みに行く機会も増え、飲みの席でリラックスして話していると、「取材のときもその感じでいいんだよ」と言われました。

「取材のときにさ、変にかしこまられると、こっちもかしこまっちゃうからさ。普段のその感じでいいんだよ。そっちのほうがみんな喋りやすいと思うよ」

取材の場で言うのではなく、リラックスした場で敢えて指摘してくれるところにも、三沢さんのスマートさを感じます。飲みの席で言われたこの言葉は、私の取材時の大きな支えになっています。

「はじめまして」の相手にいきなり質問を始めて、話がスイングするはずがありません。事前に入れておいた情報から、たった1分でもちょっとした雑談をすることで相手の警戒心はグッと下がります。そしてインタビュー中でも平気で脱線して、気持ちよく喋ってもらう。この流れは三沢さんとの会話で身につけたものでした。自分のペースで喋るのではなく、相手のペースで話してもらう。三沢さんの取材を通じて、これが身についていったわけです。

現在は時代の流れなのか、著名人のインタビューのときは、必ず「事前に質問案をください」とリクエストされます。もちろんルールに従って質問案は提出しますが、私の場合、最初は質問案にない話からします(取材時間が短いときは除く)。欲しいのは用意された回答ではないから、能動的に予定調和を外すようにしているのです。それでも事前の雑談があれば、スムーズに話に入っていけます。こうした今の取材姿勢の原点は三沢さんが導いてくれたものでした。

三沢さんを初めて取材した若手記者時代から20年以上の時が過ぎ、プロレス界を離れて数多くの経験を積み、今の自分なら絶対に三沢さんに気持ちよく喋ってもらえる自信があります。

残念ながらそれはもう叶わないことですが、自分の中に三沢さんの教えが生きていることは変わらない事実です。日々、多方面からニーズが増え続け、私はまだまだ引退できないので、若き日のことも時々思い出しながら、人と楽しく話していきたいと思っています。

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