母娘3人旅行 Vol.1
ひょんなことから、何十年ぶりかの旅行へ行くことになった。
ひょんなこと。それはここでは省略するが、何故かご主人様がこれで旅行でも行ってきたらいいとお金をくれたのだ。なぜそうなるのだろうか。何かやましいことをしていてその罪滅ぼしのつもりか…?色々疑ってみたけど、そう言う風でもなく。自分の両親とは何年か前に旅行に行ったが、私の方の両親とは行けていないし…と。時々、不思議なことをしてくれる。母や妹もいやいやと断ったが、一度差しだしたものを戻せないと言い、ともあれ最後には、気持ちを無下にも出来ないと有難く受け取ることにした。
それから、何日も何か月も過ぎていた。それはその筈で、実家にはオレオがいた。家に来て十年以上になる猫である。2年前にグリが逝って、一人になり、淋しがり屋に拍車がかかっていた。急に年老いた様に猫でも認知症のような行動をとることもあり、ひとりで留守番などさせられなかったのだ。
それが、この夏逝ってしまった。とても猫肌寂しい。母は勿論のこと、皆家族を失って元気が出ない。とりわけ母を皆が心配した。グリのいなくなった後、年老いた二人で寄り添うようにいたからだ。
「行ってくれば?」
「うん」
オレオがいなくなってひと月ほど経った頃、夫が言う。頷いたが、気持ちがついていかない。けれど、オレオがいなくなって行けない理由が何も無かった。妹は長年勤めたホテルを辞めて、新たな岐路に立っている。挨拶回りやなんやで日本中のホテルを飛び回っていたが、次の勤め先へ出勤する10月までなら行けるかもしれないと言った。動き回っている人の判断と行動はとても早い。
パーキンソンで固まると迷惑かけるし近場がいい、人に見られたくないと心底では乗り気じゃない母の為に、妹がピックアップした宿泊先は、新たに勤めることになる会社が運営する宿だった。代表自らおすすめしてくれたそうだ。自分の身内にもパーキンソンを患う人がいて、そこならと連れて行ったが満足してくれたからと、母の気持ちを察してくれたのだ。一棟貸しの宿だ。勤める前にも関わらず、社員割を効かせて貰えたらしい。会社の代表は学生の頃にお世話になっている人だった。それぞれキャリアを積んだ今、引き抜いてもらった…ような形である。妹は着々と自分の人生を高めている。
空いている日はたった一日しかなかった。悩む間もなくもうその日にするしかないのだった。お金の出どころであるご主人様は、ギリギリまで調整したが行けなかった。本当は行かないつもりだったのではないか…と思う。
「私はもうこれが最後の旅行になると思う。一緒に行こう。冥途の土産にするから」
そう言って、母が説得していたのだ。家族であっても人に心を開かない頑なな夫だが、それを聞いて、漸くギリギリになって行けるように調整しようとした。しかし、天候に左右する仕事だった為に上手く行かなかった。
母娘三人、親子水入らずで行っておいでと送り出してくれた。母は一緒に行けないことを至極残念がった。夫も最後には心底残念がっていた。
夫は、私の他に母には少し心を開いているからだ。
これで最後かもしれないという母の言葉が本当になりそうで、そこに夫がいないことはとても残念だと私も思い、次また機会があることを強く願った。
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