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【#69】愛

『愛』
それはわたしが1番わからない感情。

人はすぐに人を好きになる。

その人に好かれたくなったり
その人と手を繋ぎたくなったり
その人と付き合いたくなったり。

わたしはあまりというか
ほとんど感じた事がない。

でも好きという気持ちが
一切ないわけじゃない。

餃子が好きとかあの芸能人が好きとか
あくまでそのなかのひとつ程度にすぎない。

その人に好きになって欲しいとか
その人と関わり続けたいとか別にない。

わたしは好きになったら
それをずっと好きでい続ける。
ただそれだけで十分。

というかいまはほぼ諦めている。

なんの因果かわからないけど
好きな人は大抵
わたしのそばからすぐいなくなるから。

これまで二十何年の間
片手で数え足りるくらいには
心の底から好きになった人がいた。

まあそのことは追々記すとして
今回はあくまで愛という概念の話。

わたしにとっての愛とはなんなのか。
正直今も全然わからない。
でもこういうことなのかなと
思うような出来事があった。

父が亡くなって
いろんな事情で住んでいた家を
売り払うことになった。

そのために
家にあるものを整理することになった。

母も一緒に住んでいたが
勝手に捨てたり余計なことをされたくなかったから一切関わらないようにとお願いした。

それは父の部屋を片付けていたときのこと。

父は映画を観るのが好きだった。
大量のDVDの中から選んで観る。
いつも音量が大きくて
何か観ているんだろうなくらいはわかった。

整理しているとテレビに繋げてあった
DVDプレイヤーを見つけた。
わたしは思った。

父は最後になんの映画を観ていたのだろうか。

試しにテレビの電源を入れ
プレイヤーの取り出しボタンを押す。

すると中からディスクが出てきた。
ラベルのない真っ白なディスク。

もう一度ボタンを押して
ディスクを戻してみた。

すると長めの読み込みがあったあとに
ディスクが再生された。

一体何を観たのだろう。

結果は予想に反して映画ではなかった。


では一体なんだったのか。

それは
わたしを幼少期からずっと撮り溜めていた
写真のスライドショーだった。

さらに周りを見渡すと床には
わたしの幼少期のアルバムがあった。

たしか5冊くらいあって
リビングの棚に置いてあったはずなのに。

父の部屋に全て集まっていた。

わたしが最後に父を見たとき
会話はなく意識もほぼなかった。

そんな中でもわざわざ引っ張り出してきて
死ぬ最後の最後まで
わたしのことを見ていたのだろう。

わたしははじめて大きな愛を感じた。

普段は全く気づかなかったけど
会わなくても全てに疲れても
自ら命を絶ってもなお
わたしのことを想ってくれていたのだろう。

現に死ぬ寸前まで
わたしの夕食を用意してくれていたのだから。

失ってから気づくこともある。
よく聞く言葉だがそれが1番当てはまった。

それを見つけたとき
過去1番って言っていいほど泣いた。

わたしが不登校になったときに
父は全力で通い先を探し
人生を変えるような出会いをくれ
わたしを助けてくれた。

でもわたしはこの事態をわかっていながらも
何もする事ができなかった。

わたしをこんなにも愛してくれていたのに。

本当にごめんなさい。
本当にごめんなさい。
それと同じくらいありがとうを言った。

どんなに遠くにいようが
どんな気分だろうが
生きていようが死んでいようが
もう2度と会えなくても
強く想い続ける事。

それが愛なのだとわたしは思う。

父の話が多くなるのは仕方がないことだが
母がわたしに対して
愛がなかったとは全く思っていない。

大切な人の間違った道を正す。
それもきっと愛なのだろう。

暴力だろうが暴言だろうが
母なりにわたしを正そうとしたのだろう。

わたしも母に愛されたかった。

辛い時に相談したり
ただそっと抱きしめて欲しかった。

でもそんな理想とはかけ離れた愛の形だった。

こうして感情を持ち
文字を打っていられるのは紛れもなく
母が予想もできない痛みに耐えて
わたしという存在を
世に生み出してくれたから。

そして大切に育ててくれたからだろう。

人間というのは
小さい頃の記憶はほとんどなく
良いことよりも嫌なことの方が
鮮明に覚えてしまうものだから
わたしは母に対して否定的な考えが多い。

だからといって全てではない。

なぜなら優しかった母も覚えているから。
父と母とわたし。
とても仲の良い家族だった時間もあるから。
そんな美しい記憶がずっと心に残っている。

だからこそ今が辛い。

あの幸せを覚えているから
現状に絶望している。

どんなに欲しくても
簡単には決して手に入らないもの。

それもきっと『愛』というものなのだろう。

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