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【#68】人でなし

※この記事は
 わたしの体験をありのままに伝えるため
 一部直接的な表現が含まれています。
 あらかじめご了承の上
 ご覧頂けますと幸いです。

父が亡くなってしばらくの間
母と同居することになった。

やる事が沢山ある中で親戚等の意見を踏まえ
こればっかりは仕方なかった。

虐待を受け育児放棄されてから数年。
流石にこの状況下で同じことを繰り返すはずは
ないと思っていた。

案の定、暴力は振るわれなかった。
だが人間性というものは変わらないものだ。

この先自宅に居続けられないことがわかり
ペットたちの行き先を考えることになった。

猫2匹はわたしと母、それぞれが1匹ずつ
引き取ることにした。

問題は犬2匹。
ミニチュアシュナウザーとポメラニアン。

ミニチュアシュナウザーは
母が引き取り親を見つけたので
お別れすることになった。

問題児ではあったが父が可愛がっていた犬。
どんな方が家族に受け入れてくださるのか
お会いしたかったが
母の友人という男性と母が2人で向かった。

その夜、母が帰ってきた。

手には引き取り親の方から貰ったであろう
紙袋を持っていた。
第一声、にこやかに母はこう言った。

『ほら。犬がゼリーになったよ』

この人間は命をなんだと思ってるんだ。


一気に怒りが込み上げて母を殴りたくなった。
でもしなかった。
殴ったらこの人がわたしにしたことと同じ。
絶対にこの人と同じにはなりたくないから。


ある日
母は友達の家に遊びに行くといい
ポメラニアンを一緒に連れて行った。

その夜、母が帰ってきた。
しかし一緒にいたポメラニアンはいない。

話を聞くと今日は友達のところでお泊まりすることになったと言った。

わたしからすれば
見知らぬ人に勝手に預けられたことになる。
すでに疑問だった。

それから数日、数週間経っても
ポメラニアンが家に帰ってくることはなかった。

納得ができなかったわたしは母に怒り狂った。
なぜずっと家に帰ってこないのか。
大切な家族を返せと。

母は答えた。
お世話になっている方が
預かってくれることになり
新しい環境に慣れさすためにいるのだと。

ここまでしないと話さなかった。
なぜわたしに一切の相談がないのか。

おそらく母はわたしをただの子供だとずっと
思っているのだろう。
これまで自分の武力で制していたから
わたしに意思などないと思っているのだろう。

仕舞いには預かり先の方から
わたし宛の手紙を渡してきた。

その方はご高齢のおじさまで
なんでも犬が大好きな方らしい。

最近飼われていた犬が亡くなり
悲しみに暮れていた際に
うちのポメラニアンがやってきて
毎日が明るくなったと。

だから残りの人生が少ない私から
この幸せを奪わないでほしい。
どうか理解してください。

そういった内容だった。

このおじさまは何も悪くない。
むしろこの方には大切な家族の
面倒を見てくださることに感謝しかなかった。

けど母のせいでこの人が大嫌いになった。
ちゃんと挨拶をして話せていれば
印象は全く違っただろうに。

おじさまの境遇は十分わかった。
ならわたしは?

わたしは父を辛い状況で亡くしたばかり。

おじさまのように悲しみに暮れている。
そんな人間から勝手に
大切な家族を奪うのはいいんだ。

母は言った。

あなたが急にポメラニアンに会いたいと
喚くのはおかしい。

あなたは父を亡くして気が動転しているだけ。
もっと冷静になるべきだと。

父を失った最中、
ペットも勝手に奪われて
数少ない家族に会いたいと思うのが
おかしいことなのか?

気は動転してるかもしれないけど
理不尽を喚き散らしてるわけじゃない。

お世話になっていた父の友人の名前について
母と口論になったことがある。

わたしは直接何度も会っているし
お世話になっているので間違えるはずない。

なのに母は頑なに
あなたは間違っている
どうかしているとわたしに言い続けた。


母は何があってもわたしを否定し続ける。
そう。あの時から何も変わっていなかった。


結果的に
ポメラニアンは1日だけ家に帰ってきた。
たった1日だけ。

その後はおじさまが
大切に面倒を見てくれていたらしい。
わたしから家族を奪った人の元に
行く気はさらさらなかった。

だか次にポメラニアンに会った時は
数年後、その子が亡くなったときだった。

この話し合いのあと
ひとりになったわたしは
父のように首を吊って死ぬことにした。

父亡きいま
唯一の家族がこんな状況になろうとも
全否定する人しかいないことに失望したのだ。

こんな世界にいるよりも
早く父に会いたくなった。

リビングの照明器具に延長コードを巻き付けて
下に小さい椅子を置いた。

延長コードの輪に顔を入れる。
父と同じように行けるなら本望だと。

勇気を出して立っていた椅子を蹴った。
首が締まっていく。
徐々に苦しくなっていく。

全てに疲れるとはこういうことなのだと
実感した。

次の瞬間大きな音が鳴った。
気づいたら体を床に打ちつけていた。

延長コードの取付が悪かったのか
外れてしまった。

死ねなかった。
なんで死ねないんだろう。
なんで生きてしまっているんだろう。

その場でうずくまり涙が止まらなかった。

好きでいたかった。
好きになりたかった。
好きにさせて欲しかった。

そんな母は人でなし。


助けられなかった。
死にたかった。
でも死ねなかった。

こんなわたしも人でなし。

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