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「人に迷惑をかけたらあかん」から「迷惑をかけ合える」社会に

「人に迷惑をかけるからやめなさい」

親からこのように言われたこと、また、子どもにこのような言葉がけをしたこと、みなさんありませんか?
わたしは、小さいころ親によく言われましたし、自分が親になった今、子どもたちにこのように言葉がけすることが幾度となくあるように思います。

この「迷惑をかけるな」という言葉がけを通して、わたしたち大人は、自分たちの「価値観」=「あたり前」を子どもたちにすりこませて、知らず知らずの間に子どもに制限をかけていたというのです。

「センスオブワンダー 子どもたちへの贈りもの」

このお話は、わたしが先日参加した、(一社)子育てこころケア湘南主催のオンライン講座「センスオブワンダー  子どもたちへの贈りもの」でお聞きしたものです。この講座の登壇者は、とてもチャーミングでパワフルなお二人の女性でした。

そのお二人とは、「りんごの木子どもクラブ」の柴田愛子さんと、ドキュメンタリー映画「みんなの学校」の大阪市立大空小学校初代校長として有名な木村泰子さん。

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(左:柴田愛子さん 右:木村泰子さん)

木村泰子さんは、わたしの好きな教育者のお一人です。いつでもどこでもばりばりの大阪弁で話される(わたしは関西人なのでとてもなじみがあって聞きやすい!)のですが、そのお人柄が言葉に出ているのか、とても温かみのある大阪弁なのです。そして、すっきり、さっぱり、きっぱりとしたその話しぶりは、いろいろな修羅場を見てこられた方ゆえの説得力とすごみたっぷりです。

保育と小学校と、それぞれの現場でさまざまな実践を積み重ねられてきた柴田さんと木村さん。このお二人が、たくさんの心温まるエピソードも交えながら、子どもたちとの関わり方について、多岐にわたる視点から繰り広げられる講座はとても学びが多く、素敵なお話があふれていました。

子どもたちにどんな「あたり前」を見せるか

冒頭の「人に迷惑をかけるからやめなさい」という言葉がけについての話になったとき、わたしは今まで何度使ってきたことかとはっとさせられました。
この言葉がけを繰り返されることで、子どもたちには、周りにいる大人の「あたり前」がすりこまれ、これにあてはまらない人を目にした時「その人を否定する」ようになるのだそうです。

木村さんのお話によると、大空小学校では、特別支援教育の対象となる子も、さまざまな特性の子どもたちも、同じ教室で授業を受けているのだそうです。

例えば、授業中、教室内を動き回ったり、大きな声を出してしまう子も、みんないっしょに同じ教室で授業を受けている。クラスメートの子たちもその状態を「ふつう」のことと受け止めていて、それが、彼ら彼女らの「あたり前」の教室の風景なのです。

しかし、中学校に進学すると他の小学校の子どもたちも入学してきます。
5月になったある日、他の小学校出身の子どもたちが、「授業中うろうろと教室を歩きまわり、大声を出すA君がうるさい。勉強の邪魔になる」と、A君と同じ大空小学校出身の子どもたちに話してきたらしいのです。ある日、このことを子どもたちが、卒業した大空小学校の先生がたに相談しに来たそうです。

最初、木村さんは、学校に働きかけてほしいとかそういう話が子どもたちから出てくるのかなと心配されたそうです。
でも、子どもたちから出てきた反応はまったく違っていたと言います。

「先生、わたしらどないしたらいいんやろ」
「あの子ら、A君が邪魔や言うねんけど、あの子らが大人になった時、不幸やと思うねん。わたしたちがあの子らにできることはなんやろうか」
A君を受け入れられないクラスメートのことを心配しているというのです。

これを聞いて、木村さんをはじめ先生がたもとてもびっくりされたらしいです。

自分の「あたり前」と異なる「あたり前」に出会ったとき、
子どもたちは成長する

このことを実感されたそうです。

子どものころに体験した「あたり前」。どんな「あたり前」を見せるかは、周りにいる大人が鍵だとおっしゃいます。

「貧しい連鎖」を断ち切るために

とはいえ、わたしたち大人自身も、子どものころからのさまざまな「あたり前」=「迷惑をかけるな」をすりこまれて育ってきています。

「自分がやってきたこと」だから「あなたもやりなさい」となっているところがあるのかもしれません。これを木村さんや柴田さんは「貧しい連鎖」ともおっしゃっていました。

では、大人であるわたしたちはどのようにしたらいいのか。
「貧しい連鎖」を断ち切るためにはどうしたらいいのか

木村さんは、大人がすることは、子どもたちにただ問いかけることだとおっしゃいます。

「困っている子がいたら、その子が困らないためにどうしたらいい?」
「あなたはどうしたい?」

このように問いかけること。

「困っている子がいるから、みんなでこうやって助けてあげてね」などと大人が答えを用意して、指示や命令といった決めつけをするのではなく、子どもたち自身に考えさせ、決めさせることが大事なのですね。

令和2年度から始まった新学習指導要領の柱は「主体的で対話的で深い学び」です。これをもう十数年も前から、木村さんたちは現場で実践されてきたのだなと感じました。

迷惑をかけていい人間をもつ

また、「『迷惑をかけたらあかん』ではない」とも話されていました。

だれにも迷惑をかけずに、だれの手も借りずに生きる人なんていません。生きていれば当然失敗もしますし、失敗から立ち上がるとき、他人の手を借りることが必要になりこともあります。

わたしたちは少なからず人に迷惑をかけ、かけ合う中で育っているんだから、それをダメだと否定してはいけない、と。

木村さんはおっしゃいます。

  どれだけ迷惑をかけていい人間をもっているかが大切
  人と人が互いに適当に依存し合うこと、これが自律なのです

同様のことを、坪田信貴さんが著書「『人に迷惑をかけるな』と言ってはいけない」にも書かれていました。

坪田さんは、「人に迷惑をかけるな」は生きづらさを助長する「呪いのことば」とも書かれていました。

「人に迷惑をかけてはいけない」と思い込む最大のデメリットは「人に助けを求められない子」を育てることになりかねません。「困った人がいたら助けなさい」と教えることが、豊かな社会をつくることにつながっていくのだそうです。

子どものためと思ってかけていた言葉が、知らず知らずに子どもに制限をかけていたということに思い至り、わたしはただただ反省でした。

子どもたちといっしょに考え、探す

大人だから正解がわかっているわけではありません。

「VUCAの時代。こたえのない時代」
こう言われているのに、知っているのに、なんなら言ってもいるのに、わかっていませんでした。大人だからといって、子どもたちに答えを用意しなければならないわけではありません。

大人だって正解を知っているわけではない。これを素直に子どもたちに見せ、彼らといっしょに考え「最適解」を探していく

このような態度と働きかけを大事にして、改めて子どもたちに接していきたいなと感じました。

「人に迷惑をかけたらあかん」から「迷惑をかけ合える」社会。そんなやさしい社会になれるように、まずは自分の言葉がけから変えていきたいと思います。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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