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2024/06/09 『ノルウェイの森』

日曜日 くもり

息子から宅配便が届いたと連絡があって、ひっくり返るほど驚いた。
家を離れて8年、何度も荷物を送ったけれど、こちらから聞く前に知らせてきたのは初めてのことだ。
ヤツも少しは大人になったか。

Audible で村上春樹『ノルウェイの森』をだいぶ長くかかって聴き終えた。
単行本の初版から1年ほど後に読んで以来のことで、寝る間も惜しんで夢中で読んだ記憶はあるのに内容はほとんど忘れていた。
(画像は10年ぐらい前に買い直した文庫版、結局読んでいない)

そして、今回は、とても個人的な感想を持つことになった。
再読してみると、この本を読んだ2年ほど後に、似たような経験をすることになったと気づいた。
恋人ではないが、友達を似た状況で亡くし、直前に関りがあったこともあって、しばらくは茫然と過ごした。
主人公のように、ふらりと旅にでも出られたらよかっただろうけれど、いや、それができなくて無理にでも日常生活を続けるほかなかったから、今わたしはここにあるのかもしれない。

当然、この本を読んだ時は、そんなことが起こるなんて思いもしないから、単純に物語として楽しめていた。
今回は、主人公の独白や登場人物のセリフから、その友達のことや、今まで出会った人たちとのことが次々とよみがえり、再生を一時停止することが何度もあった。

これが逆の順番だったら、つまり、友達の自死のしばらく後にこの本を開いていたら、きっと読み通すことはできなかったと思う。
30年以上たった今だから、思い出すことはあるものの、ある程度客観的に読めた(聴けた)。
タイムマシンに乗って時間を逆行したような体験だったけれど、妻夫木聡の淡々とした朗読は、静かで、少し寂しく、おだやかに時間旅行につき合ってくれた。

ただ、下巻はじめのピアノ教室での性的描写は、耳を塞ぎたいものだったということは書いておきたい。
村上春樹はだいたい好きだけれど、時々こういう極端に暴力的なシーンがあり、その意図はは何だろうと思ってしまう。
オーディオブックでは斜め読みもできないし、ナレーターの気持ちを考えると…
それ以外は、心に刻みたいようなシーンが目白押しなだけに残念だ。

もうひとつは、流れる音楽。
救いのない状況の時に、音楽がなぐさめとなるシーンが多くあり、この世に音楽があってよかった、と思わせられる。
作中の曲、特に最後の寂しくないお葬式のシーンでレイコさんが弾く曲をまとめて聴きたいと思ったら、ちゃんとプレイリストにしてくれている人がいた。
お葬式の曲はヘンリー・マンシーニの『ディアハート』以降。


おまけ。ギター版『亡き王女のためのパヴァーヌ』