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たまには、降参したほうがいい

台風が去った。

「猛烈な」と言われていた台風14号は、思いのほか勢力が弱くて、助かった。

南の島では、台風は年中行事みたいなもので慣れているから、さっさと数日分の食料品を買い込んで、家に閉じこもる。

学校やあらゆる機関も、いっせいに休みになる。海路も空路もストップになる。


ところで、南の島から都会を見ると、「ようがんばってるなー」と思う。

都市機能は24時間フル稼働して、それは365日休むことがない。昼勤、夜勤に朝勤。電車はピタッと定刻にホームに入ってくるし、たまに数分、遅れたら「お急ぎのところ、たいへんご迷惑をおかけして申し訳ございません」とアナウンスがはいる。私も都会にいた時はなんとも思ったことはないけど、これはよく考えたら、スゴイことよね。

石垣島の離島ターミナルで、船の発着を告げる電光掲示板なんか、故障中の貼り紙したまま一年半ぐらい直してなかったのには、さすがに驚く。コロナ前は年間140万人が訪れた観光の島なのにね。のんびりし過ぎて歯がゆいくらい。那覇でさえ、モノレールのエレベーターが壊れても、すぐ直さないのだから。東京駅の電光掲示板が止まるなんて、あり得ないことだもんね。


石垣島に移住していらい、島の暮らしにどっぷり浸っていた私は、2017年に転機が訪れた。表現アートとボディワークを習いに東京に通うようになり、久しぶりに都会の空気を吸いに行くようになった。

慣れてくると、石垣と東京を行ったり来たりの生活がちょうどいいと感じる。いまでは両方がなくてはバランスがとれないくらいだ。

だから、私は南の島に埋没することはできないし、かといって都会に組することもできない中立な立場でいる。両者を比較するのはそもそもナンセンスだし、どちらにも良さがあって、どちらも好きで、どちらにも私に必要だと感じている。

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しかし。都会のがんばりずむは、時として人間業とは思えないことがある。

台風といえば、思い出すのは2018年9月、関西を襲った台風21号。関西空港が閉鎖されて3千人が孤立したことは記憶に新しい。

堅牢な都市機能も、台風のまえでは脆かった。

そのとき、関空が浸水して陸の孤島と化したのには驚いたけど、ビザの宅配中のバイクが転倒する事故には、もっと驚いた。こんな時に外で仕事をしろって言う企業もナンだけど、断らないバイクの人もナンだよね。注文する人もね。

命が惜しくないのかね。嵐が来ても、何があっても仕事は休まない、のがスタンダード、なんだよね。

私たちは、知らないうちに経済産業社会のドレイになっている。

本土にいたときは、まったく疑問に思わなかった。でも、南の島から都会を見るようになって、そんな事がとっても気になってきた。


そういえば、私も本土にいたときは、同じような事をしていた。

仕事に穴をあけられない、という強迫観念みたいなものがあって、風邪をひいて発熱したときは解熱剤が重宝していた。喉が弱い私は、ひと冬に何回も風邪をひいてはこじらせて、解熱剤は心強い味方だ、ありがたやー、と思っていた。

ところが、整体師の寺門琢己さんが書いた本を読んだとき、2000年頃だけど、解熱剤は身体に良くないんだということを知った。

その本によると、解熱剤の消費量とガンの発生率は比例するというデータがあるという。発熱により免疫力が高まり菌の力が弱まるが、薬で熱をおさえることによって免疫力が低下するのが原因という。何も知らないで、ありがたがっていた無知な私。真実を知れば、おそろしい。

解熱剤はよく効いて、仕事の生産性には貢献したけど、身体の寿命は削られていく、のか。

あるいは、経済が発展するほど、身体という自然は疲弊していく、のか。


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島に住むと、自然と戦わなくなる。

こっちの台風は、ときとして樹木を根本からなぎ倒し、車を横転させるほどの暴風雨が吹き荒れる。だから、だれも外出はしない。死者もでない。自然の脅威にはあっさり降参して、台風が通り過ぎるのをただ待つ、というのが南の島の流儀である。

価値観や生き方がまったく違うのだ。

本土では、仕事が一番、生活のなかで占めるウエイトが大きい。ところが、島では仕事は四番か五番ぐらいな感じ。一に行事、二に付き合い、三、四がなくて、五に仕事、かな。見ていて、そう感じる。優先順位が違うのだ。本土では見たことないような人がいて、お金が無くなったら働きに行くさー、と言う人が島の人の数%いる。欲が無さ過ぎて、拍子抜けするいうか、そういう人がほんとうにいるのだ。

だから、島の人は過労死なんかしないし、資本主義にコロされたりしない。


それにしても、都会のがんばりずむは、どこかバランスがおかしい。

天候の自然と、自分の身体という自然に、たまには降参してみるのがいいのかもしれない。

それぐらいが、丁度いいのかもしれない。


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資本主義は、自然をぜんぶお金に替えようとする。


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JTB沖縄が石垣島名蔵湾のダイビングスポットに浮島の建設計画を進めている。「美しい海に人工島はいらない!」石垣島の人口とほぼ同じ数の反対派の署名が集まっている。

反対派がんばれ!


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#産業経済社会

#寺門琢己

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