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社長の仕事(その1)

いよいよ4月。街中にフレッシュな新卒社員が目立ちますね。群れて歩くのは邪魔だよ、とおっさんぽく心の中で呟きつつ、自分も33年前(!!)はそうだったのかもしれない、と反省します。

私が社会人になったのは、現在進行形でバブルが崩壊しつつあるというタイミング。私の代の新卒同期は300人、一方で翌年は30人。私の代はまさに最後のバブル世代ということになります。

当時の私には、転職とか起業とかという発想は全くなく、大企業に就職し、やがては社長とは言わずとも役員ぐらいにはなるのだろうと思っていました。今から考えると恥ずかしいばかりの世間知らずですが。

さて、4月といえば、新卒社員が街を闊歩する時期でもありますが、多くの新社長が生まれるタイミングでもあります。私の古巣にも、新しい社長が就任しました。実は彼女は、私の新卒同期であり、ともに目の前の仕事に飽き足らず、何か面白いことはできないかと、課外活動ともいえるプロジェクトに一緒に取り組んだ仲です。そんな友人が古巣の社長になるということで、私としてもとても誇らしいです。

お祝いの花を送ろうと思ったのですが、私が送らずとも大量に届くでしょう。私らしい贈り物を、と考えた時に、私なりの言葉を贈ろうと思いました。入社した大企業から7年で離れ、以降、転職し、起業し、そして縁あって弥生の社長を務めて15年間。お陰さまで年齢の割には社長経験は豊富です。もちろん企業規模は全く異なりますし、今彼女の前に聳え立つ山は、私が登ってきた山々よりはるかに挑戦しがいのあるものだと思います。ただ、私の経験が何らかの形で役立つこともあるのではないかと思いますし、彼女以外にも、今まさに悩める社長の皆さんに役立つこともあるかもしれません。

社長の仕事とは

社長は会社の全てを代表する人であり、その会社の仕事の全てに最終的に責任を負う立場です。ある意味、社長の仕事とは、会社の仕事の全てとも言えます。例えば、オフィスの清掃が行き届いているかは、社員のやる気や健康に影響を及ぼし、それはひいては、お客さまに対して提供する価値にまで影響を与えうるものです。もっとも、一人の人間にできることには限りがある以上、社長自らが全てをやっているようであれば、自ずとその会社の限界を極めて低いところに設定してしまうことになります。

ですから、逆説的になりますが、社長の仕事とは、自分でなければできないこと「以外」をやらないこと、とも言えます。私のように色々と自分でやりたくなってしまう人にとっては簡単ではありませんが、人に任せられるものはどんどん任せる。自分は社長でしかできない、社長こそやるべきことに専念する。

では、社長でしかできない、社長こそやるべき仕事とは何か。私は以下の3つだと考えています。

  1. 向かう方向を指し示すこと

  2. 判断すること

  3. 範を示すこと

1. 向かう方向を指し示すこと

一つ目は、会社がどこに向かおうとしているのかを明確に指し示すこと。これは、向かう方向を見出すということだけではなく、それを全社に対し明確に伝えるという二つの要素から成り立っています。

会社を船に例えると、向かう方向というのは、右に進む、左に進むといった近距離的なものではありません。社長が日々、売上を上げるんだ、とか、コストを下げるんだ、と言っているだけでは、それは方向性を示していることにはなりません。

社長が示すべき、向かう方向というのは、北極に向かう、新大陸を目指す、はたまた月を目指すというレベルの、ある程度時間をかけてでも目指すべき先のことです。

会社がどこを目指すのかには絶対的な正解はありませんが、船の皆の命を預かり、成功を目指す以上、時代の流れに沿った先であること、そして、自分たちの強みを活かせる先であることが必要です。

時代の流れというのは、例えば、今この時代に、化石燃料を無制限に燃やすビジネスというのはないよね、ということです。あるいは、少なくとも日本に関して言えば、労働力人口が劇的に減っていくことが見えている中で、人的資源に極端に依存するビジネスはない、ということです。

一方で、流れと流行りをしっかりと見極めることが重要です。物事の本質的な変化によって生まれるのが「流れ」ですし、表面的な変化にとどまる(それが故に早晩廃れる)のが「流行り」です。働く環境の変化や、人口構成の変化による中食化や個食化は流れ。一方で、タピオカドリンクは明らかに流行りです(笑)。流行りを無視することは容易です(むしろ流行りにのっても踊らされるだけです)が、流れに逆らっても所詮勝ち目はありません。上記の例はわかりやすいですが、実のところ、流れと流行りを見分けることは決して容易なことではありません。あえて言えば、表面ではなく、物事の奥にある本質的な変化を見極めることができるかどうかかと思います。

もう一つ重要なのは、自分たちの強みを活かせるかどうか。時代の流れにそった魅力的なビジネスがあったとして、その領域で、何の強みも、何の知見もない会社が勝てるものでしょうか。それは明らかにNoです。激しい競争の中では、もともとある自社の強みを活かせなければ勝ち目はありません。つまり目指したい方向が必ずしも目指す方向にはならないということです。逆に言えば、目指したい方向があり、それに自社の強みが噛み合うからこそ、目指す方向になるということです。

こうして自社が向かう方向が明確になった。しかし、それが社長の頭の中にしかないのでは意味がありません。社長として、人に任せられることは任せる以上、まず向かう方向を全社に対し、明確に伝える必要があります。その際には、単純に向かう方向を伝えるだけではなく、なぜそうするのかについても伝える必要があります。

例えば、新大陸を目指すとして、それはなぜか。単純に新大陸という未知の地に行きたいのか、あるいは、新大陸に存在する資源を求めてのことなのか。新大陸を目指している最中に、想定外の大きな島があり、そこには資源が豊富にあった。新大陸を目指すこと自体が目的なのであれば、その島にとどまることなく、新大陸を目指すべきですし、資源が目的なのであれば、その島にとどまることが正解になるかもしれません。つまり、向かう方向だけではなく、その理由まで伝わっていなければ、社員それぞれがやるべきことをやろうとしても、正しい選択をすることができません。

伝える際には一回言うだけでは不十分です。よほどセンスのいい方、あるいは思考回路の似た人でない限り、一度聞いただけでは、その本当の意味を正しく理解することは難しい。だからこそ、一度に限らず、しつこいぐらいに言い続けることが必要です。なおかつ、これは「3. 範を示すこと」にもつながりますが、社長自らの行動が、常に目指す方向を向いていることもとても重要です。

ある市場でのNo. 1を目指す、そのためには、果敢にチャレンジしなければならない。それなのに、社長が失敗を必要以上に恐れる姿勢を見せれば、所詮上辺だけの目指す方向と見られてもしょうがありません。

その2に続く

簡潔にまとめたかったのですが、案の定、3つのうちの1つだけで長々と話してしまいました。ということで、残りの二つについては次回お話ししたいと思います。

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