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Local Marketing Camp in 対馬 #1 リフレクション~海編~


本記事について

本記事は、2024年5月24日〜5月26日に開催された「Local Marketing Camp in 対馬」の合宿イベント内容をまとめたものです。海編では、合同会社フラットアワーの銭本さんのお話しと有限会社丸徳水産の現場や周辺地域の見学、観光を通じて、見聞きし体験した内容をお伝えしています。なお、発言は個人の見解です。

Local Marketing Camp in 対馬について

Local Marketing Campは、地域と泥臭く最後まで伴走する“地域マーケター”として成長し、つながり、仲間を増やすことで、多彩な地域マーケターたちによる全国的な地域共創促進を目的とする合宿型イベントです。地域マーケターが現地に滞在し、その地域を見て聞いて体験して、語り合い、親睦を深める中で、地域の“これまで”や課題と向き合い、“これから”について真剣にディスカッションを行いました。ワークの内容は別の記事に書く予定です。

対馬の海について

東シナ海と日本海を繋ぐ対馬海峡に浮かぶ対馬。この狭い海峡を通って、たくさんの魚たちが回遊しています。東シナ海は世界有数の大産卵場。日本の食卓でもお馴染みのブリ、アジ、サバ類やスルメイカなども東シナ海生まれです。ここで成長しながら対馬海流に乗って、日本海へと運ばれ、日本各地の漁場を支えています。そして大きく成長した親は、再び対馬近海を通って、産卵へと戻ってくるのです。また、海岸の延長(市町村別)915km、魚種数(長崎県の中でも特に対馬沖に多い)約250種、あなごの水揚げ量(市町村別)約500〜700tなど海や水産業にまつわる日本一に当てはまるものが複数あり、釣りやSUPなどのマリンレジャーも盛んです。

合同会社フラットアワー銭本さんの取り組み

フラットアワーの社屋。魚が円を描くロゴには適切なタイミングで漁獲することで持続可能な水産業になるようにという意味が込められているそう。

まず初めに合同会社フラットアワーの代表、銭本さんに対馬で事業を始めた経緯や背景についてお話を伺いました。銭本さんは子供の頃から釣りが大好きで、水産学部に進学後、海洋研究者として東京大学大学院で日本うなぎの産卵場所を特定する研究を行い、海流と幼魚の日本への到達割合など、日本うなぎに関する調査を行っていました。その熱意あるバックグラウンドからして、水産業への強い思いを持っている方だと感じましたが、その後のお話にはさらに驚かされました。

「フラットアワー」という社名は、銭本さんが学生時代に教授や学生がフラットに議論できる飲み会の場から取ったものです。コミュニティを作ることが好きという思いと、研究的視点や情報発信能力という銭本さんの強みを活かし、地方創生と水産業の発展に社会的意義を見出したことが、事業構想の出発点となったそうです。

現在、銭本さんは直販、ブルーツーリズム(漁業体験)、研究コーディネーターの3つの事業を展開し、「持続可能な水産業の実現」をミッションに掲げています。対馬から水産業を盛り上げ、地方創生に繋げていくために、情熱を持って活動を続けています。

対馬を拠点に選んだ理由について、銭本さんは「資源管理に理解のある漁師が多く、バイタリティのある人々が多い」と語ります。一方で、対馬の漁業には多くの課題があります。主要魚種の減少、温暖化の影響、ひじきの収穫の難化、海ごみによる漁船のトラブルなどが挙げられます。フラットアワーでは、これらの現状と課題に対し、複数の取り組みを実施しています。

従来の多段階流通から脱却し、漁師から直接飲食店を経て消費者に魚を届ける新しいモデルを採用しています。これにより、誰がどこで取った魚なのかが明確になり、消費者は新鮮で美味しい魚を安心して楽しむことができます。鮮度を保つため、血抜きの方法を工夫し、10日間ほど刺身として食べられる状態に保ち、一般より高温度で冷やす「冷やし込み」技術を用いています。良いものを提供したいという思いを持つ方や、ホテルから独立したシェフなどが顧客となっているそうです。

適切な温度で管理された金目鯛の血抜きを実演してくださいました。釣り上げてすぐの血抜きに加え、そこで抜ききれなかった血を抜く技法を用いることで臭みが少なく鮮度が保てるそうです。

また、フラットアワーでは働き方改革を実施し、役割分担によって社員がまとまって休める時間を確保しています。この取り組みにより、顧客満足度の高い魚を安定的に提供できる体制を整えています。補完的かつ協力的な体制の下、持続可能な水産業の実現に向けて着実に前進しています。全国の漁師が働き方について学びに訪れるようになり、社屋の一部を宿泊施設に整備しました。

銭本さんの取り組みはそれだけにとどまりません。対馬の伊奈漁港に水揚げされるブランドさば、伊奈サバの一本釣り漁では、経費がかかりすぎるために収支が合わないという課題がありました。事前に価格がわからないため、漁師はその時にいる魚を獲れるだけ獲るしかありませんでした。そこで、鯖に発信機を取り付けて行動データを取得し、どの深さにいるのかを把握することで、漁獲量を安定させることに成功しました。この取り組みはXで話題となり、漁業の効率化に大きく貢献しています。

さらに、ツーリズム体験を通じてフラットアワーの社員や対馬の地域おこし協力隊になる方も増えています。市場からの反発もありましたが、銭本さんはブログや情報発信を通じて地域との連携を深め、情報感度の高い人々と共に新しい挑戦を続けています。農業と違い、共有資源である漁業の魅力を最大限に引き出しながら、持続可能な未来を築いています。

銭本さんが取り組みを始めた当初、市場からの批判もありましたが、情報発信を続け、共有資源である漁業の面白さを伝え続けています。「大勢に知ってもらうより、自分が発信した情報に辿り着ける情報感度の高い人と仕事をした方が良い」と語る銭本さんの目は輝いていました。また、資源管理においても対馬ではクロマグロをはじめとする漁業資源の管理規制の強化による改善が進んでいます。世界的にも資源管理に対する取り組みが進んでおり、ニュージーランドでも同様の取り組みが行われており、当初は規制に対する反発もありましたが、現在ではその効果が実感されています。フラットアワーの取り組みは、こうした世界的な潮流とも共鳴しており、持続可能な水産業の未来に向けた一翼を担っています。

今後の展望としては、消費量の減少する日本市場を超え、海外市場にも目を向けています。ゲストキッチンやオーベルジュのような施設を作り、シェフやゲストと共に新しい体験を提供する計画もあるそうです。

丸徳水産犬束さんの水産現場見学

元気よく回転する一夜干しのイカ。最近は元々取れていた種類のイカが温暖化の影響であまり取れなくなっているそうです。

次に、有限会社丸徳水産の犬束さんの水産現場見学についてお話します。犬束さんは「一社や一地域だけでは解決し得ない課題を一緒になって解決していく」という理念を持ち、漁協、市や県水産、漁業者、振興水産、民間企業など地域全体での協力を重視しています。「自分の子供に何が残せるか考えた時に対馬の海があると思った」と語る犬束さんから漁業の未来に対する思いと、地域全体の経済循環を目指す強い意志が感じられました。

犬束さんは「語る漁業」すなわち漁業の現状や課題を伝え、つなげる活動に力を入れています。「いいところばかりを言ってもしょうがない。悪いところも知ってもらい、何かアクションを起こそう」とする姿勢にとても感銘を受けました。中でも驚いたのは「海ごみは観光客や海外からのゴミだけじゃないんです。漁業で出た魚の網や釣り糸が切れたり捨てられて海に流れたものもある」というお話でした。「漁師って喋らないと思いますよね。海に出たらずっと喋ってるんですよ。まずは現状を知ってもらいたいから」と話す犬束さんに案内され、船に乗り込み、養殖場見学に向かいました。
当日はサバ、クロマグロの養殖場の現場や餌やりの様子などを中心に見学し、舟釣りも体験しました。

元気よく泳ぐ鯖の養殖場の様子。アニサキス予防や他の病気にかからないようにさまざまな工夫をしながら育てているそうです。

クロマグロの養殖場では漁獲後2分以内に内臓を出すというスピーディーな処理が行われていること。厳しい規定があり、それをクリアしなければ市場に出せないこと。アニサキスなどの寄生虫予防のために鮮度の良い餌を与えることなど、育てて出荷するまでのお話について伺いました。ただ餌付けするだけではなく、細かな工夫やさまざまな苦労があることを学びました。

クロマグロの養殖場。当日は餌付けのタイミングに立ち会えました。右側に見える小型の船から餌を与えています。

また、海藻を食べてしまうイスズミによる磯焼けの問題やその食害種を活用した「そう介プロジェクト」についてもお話しいただきました。そう介のそうには海藻のそう、創意工夫のそう、惣菜のそう、思いのそう、いろいろな「そう」が集まって未利用魚を美味しく食べて対馬の海に海藻を増やそうという思いが込められているそうです。

冷凍された30~40cmほどの大きさのイスズミ。犬束さんは「本当はこれよりもっと大きいのがたくさんいる」とおっしゃっていました。

そう介プロジェクト」は、8つの漁協と16の定置網で協力し、1匹でも未利用魚が漁獲された魚をすべてここに運び、メンチカツなどの惣菜に加工・販売し、運送業者や水産会社にも収益をもたらす仕組みです。「Fish-1グランプリというの国産魚を使ったコンテストで、グランプリを受賞したんですよ。対馬から全国で一位になった!」と嬉しそうに語る犬束さんが印象的でした。このように、地域全体で協力し合いながら、持続可能な漁業を目指している点が強調されました。
他にも磯焼けで減ってしまったひじきや海藻を再生するため、食害魚を避けるための檻の中で養殖を試みたり、漁に出ている途中で見つけた海藻を集めて育てたり、飲食店で廃棄されるキャベツ年間2トンをウニの餌に有効活用するなど様々な取り組みを実施されていました。

キャベツを食べて育ったウニたち

地元スーパーでの光景

当日は地元スーパーに立ち寄り、鮮魚コーナーをみてきました。魚種日本一というだけあって、レンコダイやアラカブにならんで「チシャ」「かじきり」などの聞きなれない魚が並んでいました。常設の鮮魚コーナーと別に「漁師市場」という名前で一本釣り漁専用のコーナーがあったこともとても新鮮でした。

レンコダイやアラカブにならんでチシャ(中央の黒い魚)が並ぶ。筆者は福岡市内出身、在住ですが、初めて見聞きした魚でした。
漁師さんを募集するPOP。
定番の鮮魚コーナー。かじきりという聞きなれない魚が並ぶ。炙って骨までバリバリ食べられる魚だそう。

まとめ

今回の合宿を通して、漁業の生産現場の現実や裏側を知ることで、その複雑さと課題を実感しました。銭本さんや犬束さんの取り組みを通じて、持続可能な水産業の実現に向けて自分たちに何ができるのかを考えさせられました。解像度はまだ低いかもしれませんが、この体験を通じて新たな視点を得ることができたことは、大きな収穫でした。
次回は歴史編について投稿する予定です。



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