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鈴木孝幸さんという素晴らしい選手について

幼馴染は金メダリスト

僕が“タカちゃん"のことを初めて聞いたのは、妻との何気ない会話でのことだった。

「そういえば、タカちゃんっていう0歳からの幼馴染がいて、オリンピックで何度かメダル取ってるんだけど」

情報量がすごい。

いくら“幼馴染“と言っても0歳は馴染み始めるのに幼なすぎるし、普通の幼馴染はオリンピックでいくつもメダルを取ったりしない

待って待って…えっ?

幼馴染にそんなすごい選手がいたの?何の種目?

僕は聞き返す。

「水泳!北京オリンピックで金メダルも取ってるよ!」

僕の記憶では、北京オリンピックの水泳金メダリストは北島康介選手だ。

北島選手は僕より年上なのだから、年下である妻の同級生のはずはない。情報が整理されないまま話は進む。

「東京オリンピック見に行きたいねぇ」

僕の情報処理など気にせず、妻はどんどん話を続ける。

僕なら後から付いてくると思っているのだろうか。森で出会ったクマか何かみたいに。

種目はクロール(?)

水泳は何泳ぎで出るの?自由形?背泳ぎ?

「えーと、何だったっけな?クロール??」

競泳にはクロールという種目はないはずだ。クロールなら自由形だ。思わず、本当にオリンピックなのかpardonしてしまった。

「あ!オリンピックじゃなくて、パラリンピックだ!まぁどちらも同じでしょう?」

“レジェンド” 鈴木孝幸

タカちゃんこと鈴木孝幸選手は1987年生まれ、現在34歳の水泳選手だ。

アテネ・北京・ロンドンのパラリンピックで金メダルを含むメダルをいくつも獲得もしている他、世界パラ水泳選手権大会でも日本新記録を打ち立てるなど、多くの記録を持っているすごい選手である。

まもなく開催されるパラリンピックにも出場する。(ちなみに金メダルを取ったのはクロールではなく平泳だ。)

先天性四肢欠損

そんな大記録を持つ鈴木選手は、先天性四肢欠損という病を持って生まれた。(作家として有名な乙武洋匡さんと同じ病気である。)

乙武さんの著書「五体不満足」の中に、生まれた我が子の姿を見た母親が最初に「かわいい」と言ったという一節があった。(読んだのが20年以上前なので記憶違いだったらすみません。)

おそらくそれは、乙武さんのお母様から自然に出た一言で、その自然な肯定感が乙武さんを前向きな性格に育てていったのだと思う。

親からの育児放棄(?)

しかし、世の中の全ての親が乙武さんの親の様ではない

鈴木選手は産まれて程なくして、保育園を営んでいた小松さんの所へ置き去られた。育児放棄なのかもしれないし、鈴木選手の親には、何か鈴木選手を育てることのできない特別な理由があったのかもしれない。

あるいは、事件や事故に巻き込まれてしまったのかもしれない。その真相は誰にも分からない。

あるがままで

こんな話から始めると、悲壮感であったり、同情の涙が流れるような、そんなふうに聞こえるかもしれない。

しかし、僕が妻から話を聞いて(また実際に、一度鈴木選手にお会いさせてもらって)感じた鈴木選手の印象は、同情や悲壮感なんて言葉とは程遠い場所にいる、ありのままで真っ直ぐな選手だった。

一流選手だからといって奢ることはなく、かといって卑下することもない。

この素晴らしい選手について、少しでも多くの人に知ってもらいたく思い、そして大舞台で泳ぐ姿を応援してもらいたく思い、主に妻から聞いた話を整理しつつ、個人的に感じることも交えて紹介したい。

特別扱いをしない園長先生

保育園を営んでいた小松先生は、里親として鈴木選手を育てた。小松先生は、鈴木選手を育てるにあたり、彼を全く特別扱いしなかったそうだ。

他の同級生たちと同じように扱い、どうしても必要な場合を除いて、決して手を貸すような事はしなかった

何にでも挑戦させて、いつもあなたなら出来る』と背中を押していたそうだ。

鈴木選手は、同級生と同じようにサッカーをしたり鬼ごっこをしたりして、中庭を文字通り泥だらけになりながら走り回っていたそうだ。

中でもドッジボールでは最強だった

「ドッジボールは頭に当たるのはノーカウントでしょ?それを分かっていてヘディンングで受けるから、ずっと最後まで残るの。しかもタカちゃんの投げるサイドスローは弾道が低くて足の高さになるから、全然取れないの。」

「みんな『ズルい〜!』って悔しがってたよ(笑)」

思わず「なるほど」と、頷いてしまった。他人と身体的な違いがあるとしても、それをただ弱みだと思うか、強みに活かす考え方をするかで、状況は180度変わってくる

鈴木選手と小松先生は、身体的特徴を強みに活かす努力をたくさんしてきたのだろう。

水泳を始めたのもその一つなのだと思う。 鈴木選手は陸にいる時以上に水中を自由に動けるようになっていったそうだ。(こちらについてはWikipediaも参照)

うわっにはうわ〜!を

妻が鈴木選手と一緒に歩いている時、すれ違う人に「うわっ」という目線をされることもあったそうだ。

そんな時、もしも僕が鈴木選手だったら黙って目線を逸らしてしまっていただろう。しかし鈴木選手は違った。

戯けて「うわ〜っ!!😜」と驚かしたそうだ。

すると、そこにはコミュニケーションが生まれて、自然と空気が和んでいく。そうやって鈴木選手は初めて会う人たちともどんどん打ち解けていった。半沢直樹もあっぱれの返しだと思う。

妻が鈴木選手と時間を共にした保育園〜中学校まで間、彼はいつも人気者だったそうだ。彼の周りには絶えず人が集まっていた。人を笑わせるのがとても上手だった。生徒会でも活躍していた。

何かを恨むでもなく自分ができることを行う。そんなまっすぐな心で昔も今も生きているのだと思う。

そういえば妻も、鈴木選手に負けないまっすぐでポジティブな心の持ち主だ。きっと小松先生の影響があるのだろう。少し羨ましいと思う。

早稲田大学を卒業し、海外へ

鈴木選手は高校を卒業後は早稲田大学に入学し、その後スポーツ用品などで有名なメーカーに入社し、現在はイギリスを拠点にトレーニングを行う日々を送っているそうだ。その様子はInstagramからも伺える。

また、鈴木選手のInstagramには水泳の様子だけでなく、ギターを弾き語りする様子など、色々なこと多彩に楽しんでいる様子が投稿されているので、ぜひ見てみてほしい。英語も堪能だ。

パラリンピックとオリンピック

パラリンピックと聞くと、どうしてもハンディキャップというイメージを抱く人は多いだろう。

しかし、鈴木選手の話を聞いて、少なくとも身体的な特徴が違うからといって、それを可哀想とか不憫だと思ってしまうのは、自分勝手な気持ちの押し付けだと感じた。

そんな考えを少しでも持っていた今までの自分が恥ずかしくなる。

多様化に必要なこと

昨今ではよくダイバーシティやユニバーサルデザインといった難しい言葉を使い、多様化の必要性が叫ばれているが、要するに多様化とは「他人と違うことは当たり前である」ということをちゃんと認めてあげる事なのだろう。

そして、多様化を実現するにあたり非常に重要となってくるのは、小松先生と鈴木選手が体現しているように「特別扱いしない事」であるように思える。(もちろん生活上必要なサポートは行う上ではあるが。)

ただ手足が短いだけ

妻は鈴木選手のことを『ただ手足が短いだけ』と言う。これが妻や鈴木選手が見ている世界なのだろう。

ただ視力が低いだけ、ただ汗をかきやすいだけ、ただ算数が苦手なだけ、ただ天然パーマなだけ。

そういった誰にでも何かしらあるような身体的、或いは能力的な違いとイコールなのだ。

文頭の妻のセリフにあった、「パラリンピックとオリンピックは同じ」という考えも、実はここに由来するものだった。

鈴木選手に出来て妻に出来ないことはたくさんあるし、妻に出来て鈴木選手には出来ないこともたくさんある。それが当然で、それで素晴らしい。

2021年8月25日(水) 9:00〜

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そんな素敵なことを教えてくれた鈴木選手の活躍を見ることの出来る日が、実は直前に迫っている。(もっと早く文を書けオレ😱)

平日なのでテレビを見ることができない人も多いと思うが、時間がある人はぜひ一緒に応援してほしい。(リンク:NHK公式サイト

8月25日 10:12 50m 平泳ぎ SB3 予選(予選通過!)
8月25日 18:38 50m 平泳ぎ SB3 決勝 🥉
8月26日  9:17 100m 自由形 S4 予選
8月26日  17:14 100m 自由形 S4 決勝🥇
8月28日   9:32 150m 個人メドレーSM4 予選
8月28日   17:27 150m 個人メドレーSM4 決勝🥉
8月30日 9:23 200m自由形 S4予選
8月30日 17:28 200m自由形 S4決勝🥈
9月2日 10:53 男子50m自由形 S4予選
9月2日 19:31 男子50m自由形 S4決勝

(予選と予選通過した際の決勝の時間をメモ📝完全に自分用の備忘録…笑)

オリンピック・パラリンピックについて、昨今のコロナの状況的に開催すべきではないという考えもあると思う。

しかし、開催すると決まったのであれば、国際社会と肩を並べて多様性のある社会を目指すのであれば、ぜひメディアの皆様にはオリンピックにも負けない熱量でパラリンピックも紹介してほしいと思う。

パラリンピックに参加する全ての選手を応援したい

僕が鈴木選手のことを知ることができたのは本当に偶然ではあるが、鈴木選手意外の全ての選手にもそれぞれにストーリーがあり、それを支える人たちがいて、たくさんの日々を乗り超えながら東京2020という大舞台に臨んでいるのだと思う。

月並な言葉にはなってしまうが、その全ての選手を心からの敬意を込めて応援したい

乱筆乱文となってしまい申し訳ないので(誰か僕に文才をくれ)、大好きなアーティストのオリンピック応援歌から美しい言葉を引用して、この駄文の結びとする。

白と黒のその間に 無限の色が広がってる
君に似合う色探して やさしい名前をつけたなら
ほら 一番きれいな色
今 君に贈るよ(Mr.Children / Gift より)

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