自分の家を取られ自分の家を持ったからこそ家を売る理由ができた
ボクはその昔、実家を競売に取られました。
父親が役員をしていた会社の社長(父親の兄)が借金をたくさん作っていたらしい。返せなくなって結果、担保になっていたボクの実家は競売に取られることになった。
もうボクも当時の記憶はあいまいになっており、覚えてないことも多いですが、口下手な父親から告げられたのは
「家が競売に取られることになった」
の一言だった。
いや、実際には母親から聞かされたのかもしれない。ボクは父親とほとんどまともな話をした記憶が無いので、たぶん母親から聞いたのだろう。
母親はかなり動揺していた。
意地っ張りでカッとなりやすい父親と意地っ張りで素直に人の話を聞けない母親はお互いの悩みを打ち明けたり、相談したり、まともな会話というのは無縁な夫婦だった。
夫婦阿吽の呼吸なんて言いますがそれは普段の会話があって成しえるもの。何もなければ何も生まれない。それは今のボクの教訓になってます。なかなかできてないけど(笑)。
ボクの記憶にある頃からいつも父親と母親は揉めていた(本人たちの名誉のために付け加えときますが厳密には仲の良かった時間もありますよ)。
仕事を理由にほとんど家に帰ってくることの無かった父親。帰ってきてもほとんど話すことなく食事をして寝るか、またすぐに出かけていくか。
理由が仕事だけでなかった事は明確だったし、その事で母親とは何度もケンカしていた。その度にボクは間に入り、「なぜこんな家に生まれたんだ」と思った事は数えきれない。
でも、子どもながらに父親の事を「生きることがヘタクソな人だなぁ」と見ていたから恨みなどは全くない。育ててもらったとは正直思っていないが、助けてもらっていたと思ってるし、そのことには恩しか感じていない。
そんな中、突然実家が無くなることを知った。
専業主婦で外に居場所があるわけではなく、夫になんども裏切られた母親にとってはもはや家が生きがいというか自分の人生の証みたいなものだったのかもしれない。だから家が無くなると知った時、一番動揺していたのは母親だった。
逆に父親はもう吹っ切れていたように思う。
ただボクは、たまに話したと思ったら強がりしか言わなかった父親から
「家を取られる」
という言葉を(母親からだったのだろうが)聞いたのがショックだったというのは覚えている。
でもこれはボクが大人になっての話。もう社会に出ていたし、住んでいたわけでもない。正直、父親と母親が喧嘩ばかりしていた家だから取られるといってもそれほど悲しい気持ちにもならなかった。
ボクにあったのはただ「実家が無くなった」という事実と、なぜか少しホッとする安堵だった。
結婚して数年経って、ボクは家を買った。
正直、家を持つという事にいい思い出が無かったのに。
なぜかボクは家を買った。
自分たちの家を持って初めて自分の帰る場所ができた気がした。
家にいい思い出が無かったのになぜ家を買ったのか、を考えた。
思ったのは見た目や使い勝手ではなく、広さや周りの環境でもなく、欲しかったのはただ「家に帰ったらホッとしたい」それだけだった。
おそらく家を取られても悲しくなかったのは、家を取られた時に安堵したのは、ボクがその家にホッとできていなかったからだろう。
だから自分たちの家を買ったとき、ホッとした。この家を家族それぞれのホッとできる場所にしたい、と思った。
そんなボクは今、家を売っている。
家に何を求めるかは人それぞれだと思う。
ずっと賃貸がいいと思う人もいれば、いつかは自分の家を買いたいと思ってる人もいるだろう。
どんなものを求めようが所詮、家はただの箱でしかない。住むその人たちが育てていくものだと思う。
今までたくさんの人たちに家を買ってもらった。
改めてボクが思うのは、その人たちにとってホッとできる居場所を作ってほしいという事。その居場所が自分の家だと言うならボクは全力でお手伝いしたい。
もし、ボクのように家にいい思い出がなければ、それを伝えてほしい。
もし、家は欲しいけど今は難しいだろうなと思ってる人がいればとにかくまず、相談してほしい。
家を諦めかけてるそんな人にこそボクはなんとか力になりたい。
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