茅の樹

拙いですが 心ばかり。

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赫然と

1,彼女が見下ろしたから俺は見上げたんだ   放課後の「誰もいない教室」というのは、本当に誰もいないものなんだな。  いないと言いうのだから当然なのだが、実際は部活や委員会やらで、もっと居残っている生徒がいて、話し声や笑い声が、もう少し 聞こえているものだと思っていたけれど。  グランドから微かに、ちょっとしたリズムネタにも思える、運動部の掛け声が繰り返し聞こえてくる。  隣りの棟の音楽室から、管楽器の厚みのある幾つかの音色が、各々揃わずバラバラと、中庭に響いて落ちる。

    • 街区公園④-味噌っかす-

       体育の授業でもこんなに必死に走った事がないかもしれない。 御木本良太が駅の通路を全力で駆けて行くが、真次郎たちの後姿はもう無い。 体育の事を考える余裕があるのは、今の状況にリアリティが無いからだろうか。 後輩とはいえ自分より身体の大きい市村をあんなに痛め付けたり、不意打ちとはいえ、春彦くんに怪我をさせた連中を追っているのだから、もちろん、恐怖も不安もあるけれど、身体は動いたし、走るのが苦手でも脚は前へ出た。 小さい時は身体を動かすのが嫌いじゃなかった。 よく、皆で八幡神社

      • 第四話「ダイアナフィーバー」

        「テレビの前で、ダイアナ妃のパレードが始まるのを待ってた筈なのに」と、何でこんなムサい奴らと睨み合ってるんだかと、消沈する。 「青野くんが、土井って奴を見つけたら連絡しろって言うから、電話したんでしょうが」沢田が文句を言う。 「だから、断わったじゃん」 「大原がいるって言ったら、電話切って飛び出て来たんだろ」と、沢田が呆れる。 「じゃあ、これはなんなんだよ」  駅前公園に、大原と三人組が向かい合っている。そこに春彦と沢田が加わって三つ巴の様になっている。 「青野、

        • 第三話「率先垂範」

          風薫るって、風の香りが分かるほど年も食って無ければ、グルメでもないけど、それでも、新緑の生命力って言うか、夏に向かってるパワー見たいのを感じ出してきた頃だ。  イギリスのチャールズ皇太子と夫人のダイアナ妃が大阪空港に降り立った。新緑の京都をご視察とか言って、テレビが騒いでいる。 「ワイドショーで、ダイアナ妃見るから休みだそうです」 校舎裏で、2年の斎藤が緊張して報告する。 「なんだそりゃ、あいつ、連休の中日に来てから、その後ずっと休んでんじゃねーか」  宇田川健が不

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        • 街区公園
          3本

        記事

          第二話 「斎藤」

          公園の小高い丘が、ちょっとした森になっていて、その森の入口辺りにある東屋に学生服の集団がいる。ちょっと、近づきたくない。本来は自然観察などのための森林公園だけど、そこに集まる連中の目的は決してそれではない。  遠目に見ても、ひと際大きい後ろ姿があり、その足元にうつ伏せで倒れているのが見える。 「あらら、誰かやられてんじゃないっすか」と、沢田が小声で言いながら、ゆっくり近づいていく。 「あの大きいの、大原ってやつじゃねーの」と、小声で返す。 「ええ、大原くんです。南中の

          第二話 「斎藤」

          街区公園 第一話

          あらすじ あらすじ昭和の終わりに、新人類と称された頃の「若者」にもなりきれていない少年たちが、自分自身と同じような中途半端な発展途上の町で、有り余る力で、不器用にもぶつかりながら成長していく。  周囲を工事中の造成地にかこまれている横浜の郊外にある、川名中学校に通う青野春彦は、宇田川、室戸 と共にUMA(未確認生物)と称されて、一部の不良生徒に恐れられていて、また、敵対する者ものも多かった。 そんなUMAの名前を語って、カツアゲを繰り返している奴らがいると情報が入る。 青野

          街区公園 第一話

          街区公園 ③ -入道雲-

          「暑いなあ、何もこんな暑い日に野郎のケツ追っかけなくてもよくないっすか?」  肌を焼くような陽射しに負けて、ダラダラと歩きながら沢田智則が愚痴る。 「ここ、ちょうど街路樹ないからな」 「そうか?店の中寒いくらいだったからなあ」  有森龍典と青野春彦が、割りと涼しげに言うものだから、沢田は更に萎える。 「そう言う事じゃないのよ、たっく、大物だよお二人は」  実際の気温も去ることながら、これから荒事に付き合わされるのが堪らないと、言いたかったのだが、この二人には伝わらない。 「っ

          街区公園 ③ -入道雲-

          街区公園 ②-ともだち

          「おい、待てよ真次郎」  市村雅人が怒気を含んだ声で、真次郎を追って呼び止める。 「待てってば」  返事をしない真次郎の肩を後ろから掴んだ。振り向かせようと引いた弾みで壁に軽く押し付ける格好になってしまう。 「なんだよ、痛えな」  市村を睨み上げる真次郎に、敵意こそはなかったけれど、煩わしさを隠さない。 駅の改札前の通路で睨みあう二人を、通行人が嘲笑交じりの視線を向けて通り過ぎていく。  夏休みに入ったからか、普段よりも学生や子供連れが多き気がする。 「お前、なんで俺の事避

          街区公園 ②-ともだち

          街区公園①-赤とんぼ

           喫茶「紅沌貌(あかとんぼ)」のガラス扉を開けて、カウベルをカランと鳴らし、沢田智則が胸板を見せつけるように、制服のシャツをはだけさせて入って来る。 「お待たせっす、青野君。今日は、道場の先輩で、青野君に会いたいって人連れてきたんだけど・・・」 「なんでアンタがいるんだよ」  テーブルに座った青野春彦が、沢田の連れと睨みあう。 「おいコラ、それが先輩に対する態度か」  喫茶「紅沌貌」に、緊張が走るが、たまたま他に客は居なかった。 「あれ、知り合いだったんですか、ま、ちょっと

          街区公園①-赤とんぼ

          案ずるよりもオニが易し

          #創作大賞2024 #オールカテゴリ部門 #童話 #短編 あらすじ  森で暮らす者たちは、厳しい冬の食べ物もなくなってしまいました。 春はすぐそこですが、まだまだ食べ物は手に入りにくいです。  ところがオニの所には、見たこともないような食べ物がたくさんあるという。  お母さんオコジョがいつも言っている「言う事を聞かないとオニがくるよ」と言う、あの「オニ」の事です。  森の仲間も、食べ物を手に入れようとオニの所に行きましたが、やられてしまったと言います。  それでも、オコジ

          案ずるよりもオニが易し