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アネット (2021)

作品としては大好きだ。愛おしいという気持ちすらある。でも、評価となると「?」となってしまう奇妙さ。

ミュージカル映画は一般的に、冒頭シーンが極めて重要である。
そういう意味では「アネット」は、少なく見積もっても90点は与えても申し分ないオープニングだ。
今から何が始まるのか?このメタ演出の意味は?膨らむ期待と、スパークス節炸裂のリリック/ミュージック。これはワクワクするぞ!

ただ、始まってみると…なぜか全く話についていけない。これは何なんだろう、何を見せられているんだろう?話の筋は相当シンプルなことに気づいたのは、映画を観終わって家に帰る途中のことだった。なんであんなに混乱させられたんだろう?

ミュージカル映画といってもダンスはなく、オペラッタみたいに台詞までも音楽に呑み込まれるときもあれば、普通に言葉として流れていく箇所もある。歌い出すタイミングも、歌い終わるタイミングも唐突だ。
他にも、ヘンリーがロッキーばりのボクサー的演出で登場するシーンや、空想なのか現実なのか境目があやふやなシーン、別撮りかと思わせておいて全然一緒に撮っているシーンなど、意図不明のミスリードも多い。
多分これらに意味はあまりなく、一種のユーモアなのだろう。そしてそれらが都度都度引っかかって話を複雑にさせている。でも、別に嫌な気持ちもしない。とにかく変だなと思うばかり。

アダム・ドライバー、つくづく不気味な役者である。
背丈が高く、体つきも良い。さらに端正な顔立ちとなれば絵に描いたようなニ枚目俳優なのだが、彼からは良い人なのか、嫌なやつなのか、良い人そうな嫌なやつなのか、嫌なやつそうな良い人なのか、即座に読み取れない怖さが漂っている。
物腰柔らかそうでいて、同時に異常に気難しそうだし、協調性がありそうで、誰よりも排他的な感じがする。高尚な精神を持っているようで、どこまでも俗物な気がする。
現にアダムは過去にも一筋縄ではいかない役ばかりを演じているが、今回はその真骨頂とも言える演技を見せている。
「アネット」が不可思議な作品と化したのは、アダムが持つ不気味さが大きく寄与しているというのは間違いない。

高い点数はつけられないが、心の中には強く刻まれている。

「帰りは見知らぬ人に、気をつけて。でも作品を気に入ったなら、その見知らぬ人にも薦めてね。」

最後まで奇妙な映画だ。

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