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追熟について

みなさん、追熟してますか?

果物に関する話題でよく耳にする「追熟(ついじゅく)」。
あまり聞きなれない方もいるかと思います。ドリアン関連の話をするときに時々出てくる単語ですが、伝わらないことが多いので、少しでも理解を深めていただければ嬉しいです。


追熟って何

追熟は、ざっくり言うと収穫した後に食べ頃になるまで置いておくことです。追熟せずに食べると青臭かったり硬かったりしておいしくないです。
収穫してから追っかけて熟させるから追熟ですね。

果物には追熟が必要なものと不要なものがあります。
日本でよく消費されている果物ですと、バナナ、キウイ、アボカド、洋ナシ、あたりが追熟して食べられる果物です。
逆に、追熟が不要なものはその他の大多数の果物です。ブドウ、リンゴ、日本ナシ、さくらんぼ、いちご、パイナップルなどなど、どちらかと言うと追熟が不要な果物の方が日本では人気な気がします。
○○狩りができる果物はだいたい追熟が不要です。アボカド狩りとかはないですもんね。

面白いところでは、同じ梨なのに洋ナシは追熟が必要なのに日本ナシでは不要だというところです。

追熟をしない果物は収穫後は品質は低下していきます。
とはいえリンゴやナシはある程度日持ちするものもありますし、アフガニスタンにはkanginaというブドウをとんでもなく長持ちさせる謎技術が存在しますが、基本的には収穫してすぐ食べるのが美味しいと思います。

追熟をする果物は収穫してすぐに悪くなるということはないですが、熟度が最高に達した後は下り坂を転がり落ちるように品質が悪くなってしまいます。バナナは産地から船で輸送する約1週間は余裕で元気ですが、スーパーで買ってからはみるみるうちに黒くなるあれです。
また、追熟前に冷蔵庫に入れてしまうと、果物によっては追熟しないばかりか、黒ずんでしまったり、水っぽくなってしまうこともあります。(低温障害と言います。)追熟は、果物の種類にもよりますが、20℃~25℃くらいで行うのが一般的です。


エチレンが追熟を進める

植物は体のいろんな反応を、「植物ホルモン」と呼ばれる様々な物質によってコントロールしています。
その中でも、追熟が起こる主な要因として「エチレン」という物質があります。

エチレンは非常に単純な構造をした物質ですが、植物にとってはいろいろな反応のきっかけとなる働きをしています。
追熟をはじめとして、秋になると葉を落とす現象や、成熟した果実が自然に落ちる現象のような、老化を促進する働きをしたかと思えば、発芽の促進に関わっていたりと八面六臂の大活躍です。

果物は自らエチレンを空気中に放出します。
放出量は果物の種類によって様々ですが、ウメやリンゴ、メロンなどは比較的多く、バナナとリンゴを一緒に置いておくと、シュガースポットと呼ばれる黒い点がバナナに見られるのが早くなるのはそのためです。
逆に、ブドウやミカン、キウイなどはエチレンの放出量は少なめです。

※追熟が必要・不要なのとエチレンを放出するのはまた別の話なので混同してしまわないように注意してください。リンゴは追熟不要ですが、エチレンをたくさん出します。一方で、キウイは追熟が必要ですが、エチレンを出す量はあまり多くありません。

追熟をする果物がエチレンを受け取ると、追熟に関連する反応が始まります。
果肉はやわらかくなり、甘味が増し、若々しい色をしている表皮は茶色や黒っぽい色に変化していきます。

https://www.dole.co.jp/banana/preservation/より引用

なんかバナナの話ばっかりしていますが、わかりやすいので仕方ないです。
追熟は、動かないようでダイナミックな植物の活動を目で見て感じられる一種のエンターテインメントとも言えます。


追熟を止める

補足程度ですが、追熟を止める方法があります。

追熟は複雑な反応なので、一度始まってしまうとなかなか止められませんが、始まる前に止めてしまう方法があります。
1-MCPと言う物質で処理をしてしまうと、しばらくの間エチレンの放出量が激減します。なぜか数字とアルファベットの羅列を見ると過剰に怪しいと反応する方がいますが、1-MCPは揮発性が高く残りにくいので大丈夫です。
収穫後すぐに1-MCPを処理すると一時的にエチレンの出る量が減少して追熟が抑制されますが、しばらくすると再び追熟が始まるので、貯蔵期間の延長にも使われています。
また、エチレンは追熟をする・しないに関係なく老化を促進するので、リンゴなどでエチレンの放出を抑制するのにも使われています。
すごいぞ、1-MCP(注:認可された果物にしか使えません)


なんで追熟する果物としない果物があるのか

追熟は失敗して食べられなくなることもあるので、なんでそんな面倒くさいことをしないといけないんだ、と人間は思うわけです。
追熟システムの経緯については「その果物を食べる動物が、樹上で食べるか地面で食べるかによる」という説は個人的には納得しましたので紹介します。

植物(というか生物)は自分の遺伝子をいかに残しやすくするか、というテーマで進化してきました。言い換えると、遺伝子に支配されている以上、その遺伝子の繁栄は植物にとっての至上命題となります。
そのテーマを実現するための1つの作戦として、種子を遠くまで運んで生息地を拡大する、というやり方があります。生息地が拡大するとそれだけ遺伝子を残す確率は上がります。(極端な話では、天変地異が起こってある場所は植物の生えない土地になったとしても、遠くにある同じ植物は生き延びたりするからです。)
その「種子を遠くまで運ぶぞ作戦」をとっている植物にも様々な方法があり、植物によっては完熟すると爆発して種子を物理的衝撃で遠くまで飛ばしたり、風に乗って遠くまで飛んでいくような形にしたりしますが、ほかの生き物に運んでもらうのが楽でいいんじゃないでしょうか。

果実をつける植物は、動物に食べてもらって、飲み込まれた種が離れた場所で糞の中から発芽する流れを構築しました。そして、美味しい果物をつけた方が食べてもらえる確率が上がるということにも気付きました。

樹に生っている果物を食べる動物(鳥やサルなど)が好む果物は、樹上で完熟したほうが美味しく食べてもらえるので、追熟というシステムは不要です。反対に、地面に落ちた果物を食べる動物(イノシシやクマなど)が好む果物は、地面に落ちてから追熟し、おいしそうな香りを出して食べてもらった方が合理的です。

さらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20210915-1.html

※主題からブレるのであまり細かくは書きませんが、「~するために進化した」というよりは「~するのが生存するために適していたから生き残った」という考え方が私はお気に入りです。

ドリアンは?

つらつらと他の果物を引き合いに出して追熟について書いてきましたが、ドリアンについても触れておきます。

ドリアンは追熟をします。しかし、不要な場合もあります。

こういう中間的なものを出すと非常にわかりにくくなるので避けてました。
しかし、ここからはドリアンの話をし放題になったのでようやくたどり着きました。

ドリアンは産地によって追熟の要・不要が違います。
これは品種ではなく収穫様式の違いによるものです。

タイやベトナムのドリアンは未熟なものを収穫するため、追熟を行ないます。これは船での輸送を可能にするためで、完熟になるまでの期間で輸送を行なうので、長く日持ちさせるためにこのような方法をとっています。
なので、非常に輸出に強く、日本に入ってきているドリアンもほとんどはタイまたはベトナム産です。時期によってはフィリピン産のものも見られます。
しかし、追熟の過程でドリアン特有の悪臭が発生していきます。追熟の期間が長ければ長いほどドリアンのにおいは強くなってしまいます。

一方で、マレーシアでは完熟して自然に落ちてきたものを食べます。
輸送にはあまり向きませんが、樹上にある期間が長く、収穫してすぐに食べるため、香りが出る反応が起こる前に食べることが可能です。
この収穫様式では非常に美味しい果実が楽しめますが、航空便以外での輸出が難しいため、マレーシアおよびシンガポール以外での消費が少なくなっています。
弊社ではマレーシア産のドリアンを輸入しているので、お手元に届いたら是非すぐにお召し上がりください。

まとめ

  • 追熟とは、果物を収穫してから食べ頃になるまで置いておくこと。

  • 追熟が必要な果物と不要な果物がある。

  • 追熟はエチレンによって起こる。

  • エチレンの放出量は追熟の要・不要とは関係ない

  • 追熟はその果物を食べて種子を遠く運んでもらう作戦のなかで生まれたシステムかもしれない。

  • タイ産・ベトナム産のドリアンは追熟が必要。マレーシア産は不要

追熟の要点はつかめましたでしょうか?
長くなってしまいましたが、読んでいただいてありがとうございます。
これを機にドリアンをはじめとした果物により興味を持っていただけると幸いです。
あと間違っていたら教えてください。


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