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よの31 洗濯干すやつ

突然、名前が出てこないときがある。
この間も、妻が突然声をあげた。

「あの、あれ取ってくれる?あれ、なんだっけ、あれ」
「え?なに?あれって?」と私。
「あれ、あれ、なんだっけ、あの洗濯ばさみいっぱいついてる、名前ど忘れしちゃった」
「あれ?ああ、わかった、あれね」

私は妻の言葉と仕草からピンときた。
「あの、あれ、干すやつでしょ?」
「そうそう、干すやつ、あれなんて言ったっけ?なんかど忘れしちゃって」
「いつも使ってるあれでしょ。あれは・・、あれ?なんて言ったっけ。なんか俺もど忘れしちゃったよ」

妻につられて私まで言葉が出てこない。姿形はすっかり分かっているのだが。
「物干し・・、じゃなくて、あれ、出てこない。ここまで出かかってるんだけど」

と私は押し入れからその物を出してきた。
「これでしょ?」
「それ」
「なんだっけ?」

どうしても言葉が出てこない我々は、パソコンを開いて検索を始めた。

調べてみると、
「洗濯干すやつ。洗濯ばさみがジャラジャラついてるあれ、なんだっけ?」
といった言葉が沢山出てきた。同じ悩みを抱えている方々が多数いらっしゃるらしい。

我々だけではなかった。
ホッとしながら名前を調べ続けた。
「ねぇ、わかった?」と妻。

名前は、「ピンチハンガー」だった。

ピンチハンガー?そんな名前だっけ。
予想外の名前に我々は顔を見合わせ、
少し困惑したような表情を浮かべた。

ピンチハンガー。初めて聞くかのような響き。

もしかして。
思い出せなかったのでなく、もともと
知らなかったようだ。

それにしても。
今まで名前も知らずに使い続けていたのか。
一度の疑問さえ持たずに。
人間の記憶なんていい加減なものだ。

我々は、ピンチハンガーに洗濯物を干しながら、
記憶の神秘に思いを馳せていた。

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かわわの
小さな喜びの積み重ねが大きな喜びを創っていくと信じています。ほんの小さな「クスッ」がどなたかの喜びのほんの一粒になったら、とても嬉しいなぁと思いながら創っています。