マガジンのカバー画像

短編小説

58
運営しているクリエイター

#事件

ステラの事件簿⑥《電子証明書、偽りと成る・陸》

●登場人物  ・宝城愛未(まなみ)…欧林功学園の人気教師。ある冤罪を着せられる。  ・島原太東(たいとう)…学園OBで、学園システムのエンジニア。  ・大林星(すてら)…学園中等部2年の本作主人公。事件の解明に奔走。  ・中沢慶次(けいじ)…学園用務員。不審な女生徒について星に話す。  ・向田海(かい)…学園高等部2年で映像研究会会長。星の友人の兄。 ●前回までのあらすじ  地域では有名な中高一貫校、欧林功学園で男子生徒の体操着が盗まれる事件が起きてから1か月。星(すてら)

ステラの事件簿⑤《電子証明書、偽りと成る・伍》

 大型のタワーマシンが排気の音をうならせている。部屋の中では他に、似たような形の機械がいくつも、整然と並べられた机の上に鎮座している。それらの机は、日本の学校でよく使われるような馴染みのあるものだ。そのことがかえって、この、「企業のサーバールームのような部屋」を、より異質な空間に見せていた。  欧林功学園は市では著名な私立学校で、その独特の教育システムや進学率の高さなどから、地域の親たちに人気の学園だった。そんな学園で勤務する1人の女教師、宝城愛未は、学園の部活棟1階の、と

ステラの事件簿①《電子証明書、偽りと成る・壱》

 大人の方が子供より偉い。けれどそれは、大人が大人である時だけだ。世の中には沢山の種類の人間がいて、大人がいて、子供がいる。だからその中には、「大人でない大人」なんていうのがいることも、全く珍しくない。  欧林功学園に通う男子学生の体操着が盗まれた事件――その犯人は未だ捕まらず、学園はセキュリティを強化するという形で、関係者からの非難に応えざるを得なかった。学園に通う1人学生、星にとってみても、わざわざセキュリティカードなどを持たされたり、警備員に挨拶せねばならなくなったり

ステラの事件簿⓪《体操着、鳥のように舞う》

 大人の方が子供より偉いなんていうのは当たり前の話だが、時として子供の方が大人を従わせることができることがある。それは第一に大人に余裕がある時、そして第二に、大人に余裕がない時だ。  「だ、誰にも言わないで! 違うの! これはちょっとした手違いで……」  「わかりました。じゃあ先生、僕のお願いも聞いてもらえますか?」  「で、できることなら……」  リビングルーム。ソファに腰かけた男の子は、傍らの大きな鞄を見やった。その中身を改めて確認すると、なすすべなく床にへたり込む女性

国を動かすのは右か左か、努力か才か

 努力論者の君には悪いがね、これからの日本は我々天才が牽引していくことになったんだ。だから君たちは速やかにこの国から去り、その泥臭く実効性のない理論を後生大事に、どこぞの国で「成功」なさってくれることを祈っている。それでは。  暗い、ひんやりとした地下室。打ちっぱなしのコンクリ―トが、暗闇の中にどこまでも広がっている。その広い空間には柱が1本としてなかったが、中央にぼんやりとした灯りがいくつも灯っていた。そこに、男が2人向かい合っている。  「国民の命はどうでもいいってのか