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短編小説

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2021年5月の記事一覧

休みの日のラジオコロッケ、そして昼の世界のスマホ

 斎藤椎実(しいみ)が休日に騙されたのは、もう何年も前のことだった。  大手企業に新卒で入社し、厳しい先輩や理不尽なクライアントに付き合い、業績とスキルをめきめき伸ばしていった。3年が過ぎ、とある新規プロジェクトの責任者として大抜擢された椎実は、それを妬んだ同期と、彼らを崇拝する幾人かの後輩、そして色仕掛けや賄賂にほだされた上司達によって、あっさりはしごを外された。  他の数社を巻き込み、会社の重要な転換点となるべきプロジェクトは足りない人員と、いつまでも到達しないクオリテ

”そういう”バイトと夜も目立つ広告

「でも、世の中の全部って結局はお金じゃん?」  閉店後の掃除を任された、針田望と大池七伊は、パティスリーのイートインスペースを掃除しながら、ダラダラと話をしていた。 「お金じゃねーよ。罰当番だって言ってんだろ」 「だって変でしょ罰とか。ちゃんと連絡してるのにさ」 「せめて3日前によこせよ。シフト出してんだからさ」 「それ、それも納得いかない。たかがバイトなのになんで他のことより優先しなきゃいけないのよ」 「じゃあ辞めりゃいいだろ……」  店は神宮前駅にほど近い、表通り沿いの華

ステラの事件簿⑨《雨の匂いは 2》

●登場人物  ・宝城愛未(まなみ)…欧林功学園の人気教師。ある冤罪を着せられる。  ・島原太東(たいとう)…学園OBで、学園システムのエンジニア。  ・大林星(すてら)…学園中等部2年の本作主人公。事件の解明に奔走。  ・中沢慶次(けいじ)…学園用務員。不審な女生徒について星に話す。  ・向田海(かい)…学園高等部2年で映像研究会会長。星の友人の兄。 ●前回までのあらすじ  地域では有名な中高一貫校、欧林功学園で男子生徒の体操着が盗まれる事件が起きてから1か月。星(すてら)