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女には毎月一回くる月の事情について

*この記事は、WEB天狼院書店で連載していたブログ「川代ノート」からの再掲です。(更新日:2015年1月)

生理の話を書店のブログで書くのはどうなのかなと自分でも思うのだけれど、天狼院書店という特殊な書店はピンポイントに検索して自分の得たい情報を見つけるオンラインショッピングサイトや大型の本屋とは違って、普段自らは絶対に手をのばさないような情報を得る場所だとも感じるので、これもまあありかなと思う。なかなかデリケートな話題だから直接は聞きづらいかもしれないし、男の人には手に入りづらい情報だから。

で、生理と言うのは言うまでもなく、月経のことである。女性には月一回訪れるアレです。

小学校高学年から中学校のあいだに初潮をむかえることが多いと思う。よりにもよって、一番多感な時期に。というか、そういう変化がちょくちょく起こる時期だから多感なのかもしれないけれど。

その頃というのは徐々に保健の授業や先輩からきいた情報とかから、なんとなく「性」というものに関心が集まるときで、結構みんなソワソワし出す。たいていの人間は、経験はそれほどないにしろ、だんだん知識を持ち出して妄想してしまう。漫画やドラマや小説からの知識だけで、知ったかぶりをするようになる。

けれどなかにはそういったことにものすごく無頓着な、ピュアな人間がいるのも事実で、純粋な好奇心から、どうすれば精子は卵子にたどり着けるんですか、なんて授業中大真面目に理科の先生に聞いてしまって、教室の空気が凍りついたりすることもあった。

中学二年の頃、男の子はだいたい今くらいの年ごろには自慰をするものなんだよ、それが普通なんだよと、あまりに高貴な幻想を男の子にたいして抱いている友人に話したとき、とんでもない変態扱いされたのをよく覚えている。そんな気持ち悪いことするわけないじゃん、変なこと言わないでよ、と。

私は中学時代にはいわゆるお嬢様学校に通っていたこともあって、多くの女の子たちは純粋無垢な箱入り娘だったので、そんなことを少しでも話そうものなら下ネタの王様かのように思われることも少なくなかった。自分たちが美しく気高いお姫様ではないように、男の子だって白馬に乗った王子様なんかじゃないのに。

往々にして、この類の話はおおっぴらにはしにくいものである。けれどこうして文章にしてみると、驚くほど冷静で淡々と書くことが出来るのは、自分が成人したからだろうか。
いや、そもそもそんなに大げさなことでもなんでもないのだ、「性」の話なんて。

生理の話に戻る。

以前付き合っていた人と生理の話になったとき、その彼らが特殊だったのかもしれないけれど、みんな正しい知識を持っていなかったことにとても驚いた記憶がある。

そもそも、血が出るってなんなの? どれくらい出るの? 痛いもんなの? いつ終わるの? みたいな。まあ当然といえば当然のことで、私たち女だって男の人の局部が蹴られるとどれくらい痛いのかなど想像もつかないし、どんな痛みなのか、そもそも余計な(と言うと失礼だが)凸が体についているというのはどういうことなんだろう。純粋にどんな感覚なのか、気になってしまう。一日ほど体験してみたいくらいである。

男の子と付き合うとき、そういう性差をお互いに知り合うというのはものすごく楽しいことだと私は思う。もちろん完璧に理解はできなくても、できるだけ理解しようとすること。お互いの違いを事細かに調べていくこと。
自分と相手の違いを知ろうとする努力こそ愛情と呼べると思うし、その違いを面白いと思える相手が「相性がいい」ということなんじゃないかと最近感じる。

これは男女同士の恋愛関係に限らないけれど、「違い」をいかに面白いと思えるかは人間の付き合いでは結構重要なんじゃないかと思う。
気が合う人、というと自分との共通点が多いかどうかを気にしてしまうことは多いが、むしろ自分とは違う部分に興味を持てるかどうかの方がもしかすると必要なのかもしれない。

だから、これは男性に読んでもらいたい記事である。自分では絶対に体験することのできない男の人が想像しやすいように書こうと思うので、女の人は読んでも、まあいつも通りのこと、あるいはこういう生理のパターンもあるのねと読み流してほしい。

まず生理は28~35日周期くらいが平均らしい。もっと短い人もいれば長い人もいるみたいだが、だいたいは毎月同じような日にちに来るイメージである。

多くの女の人は手帳でその周期を管理する。カレンダーに小さな丸やハートマークなどの印をつけて、周期を数え、そろそろかなと思ったら準備をはじめる。要するにナプキンを付けるのである。そうしないでいつも通りの下着を履いているとうっかり汚れてしまう可能性があるし、とっさにトイレに行けないときに始まってしまったら、スカートや椅子が赤く染まることになり、大恥をかいたらもうたまったものではない。

今はスマホのアプリが充実しているのでずいぶんと便利になった。生理開始日を入力すれば勝手に周期を確認してくれ、予定日はあと何日ですよと通知をしてくれる。ついでに今は生理前でイライラしやすいので刺激の強い遊びをするのは控えましょうとか、今ならダイエットしやすい日程ですとか教えてくれる。

そしてこの辺は男の人にはすごく想像しにくいと思うのだけれど、生理がはじまるとすぐにわかることが多い。全然気が付かないときもあるけれど、たいていの場合感覚で「あ、きたな」というのがわかる。体の奥の穴からたらりと、あるいはどろっと血が出る感覚に、思春期の頃から慣れているのだ。

生理はだいたい一週間で終わるのだけれど、ヘビーなのは一日目、二日目であることが多い。これは人によるのだが、やはり初日はずっと下半身に違和感があるくらい血が出るし、頻繁にトイレに行って血が漏れないか確認しなければならない。腰が痛かったりおなかが痛かったり気持ちが悪くなったりするのは大抵一日目か二日目で、私の場合は、三日もたてばまあ落ち着いてくることが多い。どこに「重い日」が来るのかは結構バラバラで個人差がある印象は強いかな。

「生理って悪くない♪」
みたいなことをうたうナプキンのCMがあったけれど、ぶっちゃけ本気でそう思える人は少ないんじゃないかと思う。実際そのメーカーのナプキンは結構使いやすくてかわいらしいパッケージだったけれど、いくら製品のクオリティが高いとはいえ生理の憂鬱さが消えるということはないのである。やっぱり生理だと動くのも億劫になるし、テンションも下がる。

何度も言うように個人差があるのだが、私の場合、生理で辛いのは①血が出ている感覚②腰、おなかの痛み、気持ちの悪さなどの体の不調③メンタルの三つに分けられるような気がする。

まず①血が出ている感覚だが、これは神経が常にそちらに向いてしまうことが辛い。常に一本調子で出続けているわけでは無く、歩いた拍子に、とか席を立ったときに、とか、くしゃみが出た瞬間とか、大きな動きをしたときにはどっと出ることが多いのでひやっとする。一番多い二日目なんかは結構ずっとスカートやズボンが心配で、しょっちゅう鏡を見たり後ろを振り返って気にしていなければならない。なかなか大きな動きなどはできず、日中ずっと下半身に神経をやってしまうのでそれだけでストレスである。

そして②体の不調。これも本当に人によって、腰、お腹、もしくは頭が痛くなるという人もいるし、胸やけがするという人もいる。私の場合は腰がずうんと重くなり、なんというか幽霊を見たこともないのに、いかにも日本のホラー映画に出てきそうな子供の悪霊がずっと腰にしがみついているような感じである。とにかく歩きにくい。ずうんと鈍く痛む。高校生の頃ならこんな日に体育でマラソンだと最悪である。

けれど私がもっともおそれているのは、③メンタルが不調になってしまうことだ。22になってようやく私は自分のリズムを把握できるようになったのだけれど、生理になったばかりの頃、特に不安定な中高生の頃は大変だった。

私の場合、生理の三日前くらいになると突然いろんなことにむしゃくしゃしてくる。何を言われても何をされてもいらいらし、普段は気にもとめないようなちょっとした友人の言葉に本気で腹をたてたりする。そして何も悲しいことはないのに無性に泣きたくなる。そして実際、みっともないくらい泣く。ぎゃんぎゃんと嗚咽をあげ、ヒステリーみたいに泣くこともある。電車で足をふまれた程度のことで、どうして自分ばっかりこんなに辛い目に合うんだろう、と人生のどん底に落とされた悲劇のヒロインよろしく落ち込むのである。正常な判断ができなくなり、パニックをおこし、誰とも話したくなくなってしまうのだ。
けれどそのあと無事に生理がくると、不思議なくらいすっとそのいらいらが落ち着く。それでようやく、「ああ、生理だったからあんなにいらいらしてたのかあ」と納得し、その三日間当り散らして迷惑をかけた人たちに非常に申し訳なく思う。

もうこれは経験したことのない人に理解してもらうのは本当に難しいというか、こういう生理前だからいらいらしてしまうのは仕方ないので許してね、なんて言うつもりも毛頭ない。これは自分しかどうにもできない問題だから。
私は経験上、三回に一回はこういうメンタルにくる生理がある、というのを理解してるので、ものすごくいらいらしていても「たぶんこれは生理のせいだからたえろ、迷惑かけるのはやめよう」とどこかで理性が働いてくれるようになった。私ほどひどく情緒不安定になるという人はあまりいないので、女性でも共感できる人は少ないかもしれない。もちろん男性からすればなおさら、生理で精神がおかしくなるって言い訳なんじゃないの? と思っても無理ないだろうと思うのだが、これが、本当に、そうなんです。生理のせいなんです。どうしようもあらがえない、わけのわからない猛獣みたいなのが、整理期間になると急にドドドとやってきちまうんです。

だんだんとわかってきたのが、そのいらいらにもパターンがあって、生理のいらいらと、普通のいらいらは違うということである。
私が普段にいらいらするときは一応筋が通っていることが多く、理不尽な目に合ったとか、ひどい悪口を言われたときだ。いらいらする正当な理由があり、そしてちゃんと人に相談すればおさまる。

でも生理のときというのは全然違う。全く本当に意味無く、筋もなく、何のメリットもなく、とてもくだらないことで信じられないくらいいらいらする。むしろどうでもいいことにこそ怒りたくなり、ひどくネガティブな思考になり、相手がいやがるまでかまってくれとしつこくなってしまう。

女性はホルモンの関係で一ヶ月に四回性格が変わる、なんて言われているけれど、それは本当にそうだと私は思う。いらいらするときと、何をしても楽しいときと、なんだかやる気が出ないときと、新しく自分を変えたくなるときと。生理前の三日間は本当に何をしてもいらいらするから、たとえ好きな人に連絡されてもめんどくさいからいいや、と思ってしまうときすらある。けれどテンションが上がり明るくなる生理のあとはいろんな人に会いたくなり、話をしたくなる。不思議なものだ。

だから私は、男性には彼女や妻の生理周期を把握しておくことを強くおすすめする。とくにいつ生理なのか、いついイライラする可能性があるのかをきちんと把握しておいた方が、関係がうまくいきやすいんじゃないかなあ。

ついでに言うと、私は生理前になると意味のない「かまってちゃん」行動をしたくなる。「私のこと好きじゃないの!? 好きだよね? 好きって言って! うわああああ!」みたいな大迷惑行為をしてしまうことがある。本当にすみません。
翌日になればけろっと「昨日なんであんなにいらいらしてたんだろう?」と気持ちがスッキリしたりして。

何度も言うけれどもちろん「こういうのは仕方ないので理解してくださいね、男性方」と言っているわけでは無い。ホルモンによって左右されがちなら、病院に行ったり、何かしら改善のための方法はあるはずだ。私も定期的に通院し、薬を飲むようになってからは、ずいぶんとラクになった。

ただこういうどうしようもない性の本能というか、生物としての行動・感情・変化があるということ自体は、お互いにちょっと覚えておいてもいいんじゃないかと思うのだ。

もちろんそれは女性だって同じことで、男性だからこその苦しみや痛みが何かしらあるはずなので、相手が絶対に知られたくないと思うことにずけずけ踏み込まなければ、性別が違うからこその違いを理解しようと歩み寄るのが男女の付き合いの楽しさではないだろうか。

男女の恋愛はなにも、お互いとの駆け引きや、胸の高鳴りや、ロマンチックな状況を楽しむだけのものではない。

ひどく生々しい、ときには血のにおいのするような汚い部分をも知ろうとすることだって、充分に面白いものなのだ。

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