花火が打ち上がっているのに
今年も打ち上げ花火を見ることなく、夏が終わってしまった。
開催自体がほぼ中止となったのだろう。辛いことだ。といっても、打ち上げ花火にそんなに思い入れもないのだが、空想で「打ち上げ花火見物」のことを書こうと思う。
涼しげな夕刻に、駅前のKFCの前で待ち合わせた。彼女は浴衣でやってきた。なぜか裸足だった。
「裸足のほうが走るときに速いから」
という、ワンパク男子のような、何の根拠も無い言い訳を聞かされた。彼女にはシンデレラを装い、ガラスの靴を履いてきて欲しかった。
そんな僕は、両足をテーピングでくるみ、捻挫しないように細心の注意をはらっていた。
花火が打ち上がるまで時間があったので、露店を巡ることにした。
ケバブ屋では、トルコ人とおぼしきヒゲ面の大男2人が店の中で談笑していた。なぜあんなにケバブ屋の店員同士は仲が良いのだろう。インド人やネパール人が営んでいるカレー屋もみんな仲が良さそうにしている。ずっと喋っている。客そっちのけで喋っている。
ケバブサンドを購入した僕の横で、彼女は炭酸水を呑んでいた。
もうすぐ、打ち上げ花火の時間だ。
時間がくれば、ケバブ屋とKFCが打ち上がり、夜空では炭酸水が弾け飛ぶ。
ほどけたテーピングをたよりに、彼女は僕のもとへとたどりつく。
彼女の手にはガラスの靴が握りしめられていて、僕に履かせてくれた。
緑色の花火が一番キレイだった。
今日の良かったワード
「スタンプラリーで生計を立てる団地妻」
おやすみなさい。
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