『偽陽性率97%』というデマ
こんにちは。翡翠です。
今回は、『PCR検査における偽陽性率は97%』というデマについて、これをぶった斬っていきたいと思います。
Maxwell Smart @universalsoftw2
「国際生命情報科学会は、35サイクル以上の増幅からRT-PCR検査で陽性となった場合、「その人が実際に感染している確率は3%以下」、「その結果が偽陽性である確率は97%」としている。」
これは、WHOが陽性と呼ぶサイクルCt値(閾値)を基準にしたPCR検査では、97%が偽陽性だったことを意味している。
午後3:44 · 2021年3月3日·Twitter Web App
昨年9月のPCRに関する私の記事で、PCR検査を批判する人たちは「1億人が検査を受けたら99万人が偽陽性になる!」と言い、PCR検査の不確実性を強調する、と書きました。
これはPCRの特異度を異常に低く見積もった全くデタラメな表で、『ベイズの定理』という専門用語で偽装された悪質なデマでした。
コロナ「全国民検査」は無意味である
高橋 真理子(朝日新聞 科学コーディネーター)
https://webronza.asahi.com/science/articles/2020052900006.html?page=2
今月1日に、読売ジャイアンツ・スポーツ健康検査センターで行われたPCR検査結果が公開されました。
同センターで開業2日前に準備を始めた1月27日から、キャンプ終了の2月28日までの計33日間に実施したPCR検査は延べ216回で、延べ8,314人が検査を受け、全員陰性でした。
...
読売ジャイアンツ・スポーツ健康検査センターの検査結果について
https://www.giants.jp/smartphone/G/gnews/news_3915645.html
2021.03.01
特異度99%ならば、こんなことにはなりませんよね?
彼らの計算では、SARS-CoV-2に感染していないにもかかわらず陽性と判定される『偽陽性率は1%』でした。
半年でずいぶんと『偽陽性率』が高くなりましたね!笑
彼らトンデモ自身も「自分が何かおかしいことを言っているのではないか?」と疑問に思わないのでしょうか?
不思議です。
彼らの言う『偽陽性率97%』の根拠は、こちらのClinical Infectious Diseasesに掲載された、フランスの研究チームの論文です。
Clin Infect Dis. 2020 Sep 28;ciaa1491. doi: 10.1093/cid/ciaa1491. Online ahead of print.
Correlation between 3790 qPCR positives samples and positive cell cultures including 1941 SARS-CoV-2 isolates
https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciaa1491/5912603
Ct値に関する議論をする際には『時間軸』を考えることがとても大事で、そのCt値が、ウイルス量のピークの前か後か(あるいは発症前か後か)をきちんと区別しなければなりません。
PCR検査における『Ct値』について
https://note.com/kawasemi_no_hina/n/nd969f33674b7
2021/02/24
高いCt値に関する議論で重要なのはピーク前です。
この論文では、患者のピーク後のウイルス量(Ct値)と、そのウイルスの感染性を調べることにより、Ct値から適切な退院のタイミングを明らかにすることを試みています。
そして、リアルタイムRT-PCRでは、SARS-CoV-2のE遺伝子の配列を増幅し、Ct値を算出しています。
At the beginning of the outbreak, we correlated Ct values obtained using our PCR technique based on amplification of the E gene and the results of the culture [8].
訳)アウトブレイクの初めに、私たちは、E遺伝子の増幅に基づくPCRを使用して得られたCt値と、培養(ウイルス感染実験)の結果を相関させました。
日本ではSARS-CoV-2のN遺伝子の配列を検出していますから、直接、Ct値の比較はできません。
はっきり言えば、この論文のデータを基にした議論は不毛です。
補足)台湾の研究チームの論文を見ると、同じ検体でもE遺伝子を検出するPCR検査の結果の方が、N遺伝子の結果よりもCt値が低いことが分かります。
したがって、例えば、E遺伝子を検出するPCR検査のCt値35は、N遺伝子を検出するPCR検査のCt値38〜40に相当する可能性があります。
J Clin Microbiol. 2020 Jul 23;58(8):e01068-20. doi: 10.1128/JCM.01068-20. Print 2020 Jul 23.
Culture-Based Virus Isolation To Evaluate Potential Infectivity of Clinical Specimens Tested for COVID-19
https://jcm.asm.org/content/58/8/e01068-20
まぁ、それでも一応、データを見てみましょう。
横軸がCt値で、一番見て欲しいのは黒色の折れ線グラフです。
折れ線グラフに書かれた数値が、培養細胞へのSARS-CoV-2の感染が確認された割合を示しています。
https://academic.oup.com/view-large/figure/210079450/ciaa1491_fig1.jpg
例えば、Ct値25では、検体の68.7%で培養細胞へのSARS-CoV-2の感染が見られました。
一方で、Ct値35では、検体の2.7%でしか感染が見られず、残りの97.3%では培養細胞への感染が見られませんでした。
検体に含まれるSARS-CoV-2が培養細胞に感染できないということは、人体においても感染できない可能性が十分に考えられ、その患者が感染を拡げる可能性は低いと考えられます。
このことから、彼らトンデモは、「陽性であっても感染を拡げる可能性が低いならば、それは陽性ではない!『偽陽性』だ!」と新たに定義したのです。
もう無茶苦茶ですね...。(苦笑
SARS-CoV-2に感染していないにもかかわらず陽性と判定されるのが『偽陽性』です。
PCR検査の『陽性(positive)・陰性(negative)』と、SARS-CoV-2感染実験結果の『陽性(positive)・陰性(negative)』の違いをきちんと理解しましょう。わざととしか思えないほどのバカらしいミステークですよ。
このように言葉の定義をすり替え、PCR検査の不確実性を強調するのがPCR検査不要論者たちの手口ですが、半年前から何も変わっていませんね。むしろ悪化しているようにも見えます。
騙されないように。
今回は短いですが、以上になります。
ではまた。
補足)おバカなツイートを発見しました。
限られた文字数のツイートにここまでデマを凝縮できるのは、ある意味すごい才能ですね。笑
町の猫 @hitoshi44867230
返信先: @Avocado_Insideさん, @SnowMale3さん, @m25gMXbHcHeGj8Yさん
参照した元データは消されてしまってる。
WHOはCt値35で偽陽性率97%と言ってる。
日本のCt値は40-50。
午前7:08 · 2021年3月7日·Twitter Web App
「消された!」と言えばソースを示さなくて良いからラクだよね。笑
そのPrincipia Scientific Internationalというトンデモ御用達のウェブサイトからでも簡単に辿ることができましたよ。もう少し頭を使って生きましょう。
余談)この論文の責任著者(Corresponding author)であるBernard La Scola博士は、Tupanvirusと呼ばれる巨大ウイルスの発見を報告した論文の責任著者でもあります。未知のウイルスの分離・培養の専門家です。
巨大ウイルスはこれまでのウイルスの常識を覆したウイルスで、またnoteの記事でまとめて紹介したいと思います。とても面白いです。
Nat Commun. 2018 Feb 27;9(1):749. doi: 10.1038/s41467-018-03168-1.
Tailed giant Tupanvirus possesses the most complete translational apparatus of the known virosphere
https://www.nature.com/articles/s41467-018-03168-1#Ack1
お楽しみに!