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中国の研究者が「新型コロナウイルスは存在しない」と言った?

こんにちは。翡翠です。

「デマに対するファクトチェックには即効性が大事!」
ということで、早速デマをぶった斬っていきましょう!(有言実行!)

涼宮アスカ★法律の世界を旅する人 @asuka_way
返信先: @cyo_sai_さん, @mukina24467さん, @m___tokmさん
中国の武漢で発生したとされる、いわゆる『新型コロナウイルス』(COVID-19)ですが、中国の主任疫学者によれば、その存在することが証明されたことは一度もないと発言しています。
中国の主任疫学者が「COVID-19が存在することが証明されたことは一度もない」と認める
午前0:42 · 2021年3月10日·Twitter Web App

2021年になっても、「新型コロナウイルスは存在しない!」と大真面目に言う人がいることには驚きます。私の『怒り』シリーズの第9回にして、また第3回の内容に戻ってしまいました。(泣
まぁ、このコロナ禍において、自粛する理由・ワクチンを打つ理由などを根底から覆すことのできる『最強の一手』ですから、どうしてもこれに縋りたくなる気持ちも分からなくはありません。
彼ら自身も最初は「そんなバカな。笑」と思っていても、『新型コロナウイルスは存在しない』という前提で情報を集めたことにより、それ以外の(私が発信しているような)情報を排除してしまったことで視野が狭まって『洗脳』されてしまった人もいるでしょう。

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まだ私は諦めませんよ!
『新型コロナウイルスは存在しない』というデマが刷り込まれてしまっている人でも、多少なりとも様々な角度から物事を見ることの必要性を理解しているならば、この記事(できれば私の全てのnoteの記事)を読んで欲しいと思います。

それでは、中国CDCの主任疫学者であるDr. Wu Zunyouが、本当に「COVID-19(※ SARS-CoV-2)が存在することが証明されたことは一度もない」と発言したのか、一緒に確認していきましょう。

「「Let's ファクトチェック!!」」

Dr. Wu Zunyouのインタビュー動画は、YouTubeで視聴できます。

Return to Wuhan: What Life Is Like One Year Later | NBC Nightly News
2021/01/24
https://youtu.be/YbSdG2imqEM

Dr. Wu Zunyouのインタビューの部分を書き出しました。(1:36〜)

(1:36〜)
Reporter「Why has the data not been shared?」
訳)データが共有されていないのはなぜですか?
Dr. Wu Zunyou「They didn’t isolate the virus. That's the issue.」
訳)彼らはウイルスを分離しませんでした。それは問題です。
Reporter「What about live animals sample?」
訳)生きている動物のサンプルはどうですか?
Dr. Wu Zunyou「It doesn't tell you anything. I do not suspect it's coming from what we originally thought.」
訳)それはあなたに何も教えてくれません。 それが私たちが最初に考えたものから来ているとは思いません。

https://youtu.be/YbSdG2imqEM

動画内でのDr. Wu Zunyouの発言は、「彼らはウイルスを分離しませんでした。」です。

『新型コロナウイルスは存在しない派』の人たちの言う「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の存在が証明されたことはありません。」は、直訳すれば「SARS-CoV-2 has never been proven to exist.」になると思います。
Dr. Wu Zunyouがインタビューの中でそう言っていますか?
そんなことは一言も言っていません。嘘はダメです!!

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昨年、コッホの原則についての記事で書きましたが、『ウイルスが分離されていない=存在しない』ではありません。
ウイルス学を知らない一般人が、どうして100年以上も前に、細菌(炭疽菌・結核菌)の純粋培養に成功したロベルト・コッホにより提唱された、この『原則』にこだわってしまうのか不思議に思います。

げんそく【原則】
特別な場合は別として、一般に適用される根本的な法則。
Oxford Languagesの定義

ウイルスの場合、そのウイルスの感染感受性動物(細胞)が見つからなければ、分離・培養は難しくなります。したがって、全てのウイルスが必ずしも分離・培養できるとは限りません。(決して『鉄則』ではありませんよ。)

しかしながら、SARS-CoV-2は分離され、コッホの原則を満たすウイルスであることは既に解説した通りです。

理系院卒の怒り #7:コッホの原則は満たされていない?こんなデマを信じるな!
https://note.com/kawasemi_no_hina/n/n855fd35aeea6
2020/08/17

当然のことながら、Dr. Wu Zunyouも、昨年12月に中国・北京大学で開催されたBeijing Forum 2020のスピーチで「中国はウイルス株(SARS-CoV-2)を分離した。」と、はっきり言っています。

動画もあります。(2:35〜)

On January 7, China isolated the virus strain and identified it as a novel coronavirus.
訳)(2020年)1月7日、中国はウイルス株を分離し、それを新しいコロナウイルスとして特定しました。

[Beijing Forum 2020] Wu Zunyou on COVID-19's Control in the World
http://newsen.pku.edu.cn/news_events/news/global/10424.htm
DEC . 08 2020

では、どうしてNBC Newsのインタビューでは、Dr. Wu Zunyouは「彼らはウイルスを分離しませんでした。」と言ったのでしょう?
もしかして、中国で開催されたBeijing Forum 2020では、中国共産党に監視されていたから『真実』が言えなかった?

違います!!!

注目して欲しいのは、インタビューの後半です。
どうして急に『動物』の話が出てきたのでしょう?不思議に思いませんか?

Reporter「What about live animals sample?」
訳)生きている動物のサンプルはどうですか?
Dr. Wu Zunyou「It doesn't tell you anything. I do not suspect it's coming from what we originally thought.」
訳)それはあなたに何も教えてくれません。 それが私たちが最初に考えたものから来ているとは思いません。

1:08~のNBC Newsの動画の内容は、「WHOの調査チームによる武漢の現地調査(華南生鮮市場の視察)」、そして、SARS-CoV-2の『起源(Origin)』についてです。

(1:08〜)
A world health organization team is in Wuhan to explore the origin of the virus.
訳)WHOの調査チームは、武漢でウイルスの起源を調査しています

https://youtu.be/YbSdG2imqEM

新しいウイルス(=『新興感染症』)が見つかった場合、「そのウイルスがどこから来たか?」、ウイルスの起源を明らかにすることが重要です。
ウイルスの起源を特定することができれば、ヒトの集団へのウイルスのさらなる侵入を防ぐことができます。

ウイルスのゲノム配列の比較解析から、SARS-CoV-2に最も近いウイルスは、『RaTG13』と名付けられた、コウモリ(Rhinolophus affinis)由来のコロナウイルスであることが分かっています。

Nature. 2020 Mar;579(7798):270-273. doi: 10.1038/s41586-020-2012-7. Epub 2020 Feb 3.
A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2012-7

このRaTG13は、中国の研究チームが2003年のSARS(SARS-CoV)の起源を探索する過程で発見されたコロナウイルスですが、データが公開されたのは2020年の1月でした。

ただし、このRaTG13は、武漢から遠く離れた雲南省にある銅山の坑道に生息するコウモリから見つかったコロナウイルスであることから、武漢の生鮮市場で、RaTG13そのものがコウモリからヒトへと感染し、SARS-CoV-2の起源になったことは考えにくいとされています。

スクリーンショット 2021-03-10 23.59.33

また、SARS-CoV-2とRaTG13のゲノム配列の一致率は96%です。
この4%の違いは、2つのコロナウイルスが単一の祖先(起源)を持つことを示していますが、分岐したのは40~70年前とする報告があります。

名称未設定.044

(これを見ると分かりますが、SARS-CoV-2やRaTG13と、SARS-CoVは遠く離れています。
RaTG13は、SARS-CoVの起源、SARS-CoVに近いコロナウイルスを探索する過程で発見されたウイルスですが、これがSARS-CoVの起源とは考えにくいでしょう。したがって、SARS-CoV-2が発見されるまでこの遺伝子配列情報が公開されていなかったことに対して、安易に『隠されていた』という印象を持つのは間違っていると私は思います。)

Nat Microbiol. 2020 Nov;5(11):1408-1417. doi: 10.1038/s41564-020-0771-4. Epub 2020 Jul 28.
Evolutionary origins of the SARS-CoV-2 sarbecovirus lineage responsible for the COVID-19 pandemic
https://www.nature.com/articles/s41564-020-0771-4

この報告は、まだ発見されていないコロナウイルスが多く存在する可能性を示しています。

これまでに、2010年にカンボジアの北部の洞窟で捕獲されたコウモリ、そして、2013年に東京大学の堀本泰介教授らの研究チームが岩手県の洞窟で捕獲したコウモリからも、SARS-CoV-2に近縁のコロナウイルスが見つかっています。

スクリーンショット 2021-03-12 0.37.34

https://www.nature.com/articles/s41467-021-21240-1/figures/1

カンボジアに生息するコウモリからのSARS-CoV-2と近縁のコロナウイルスの発見
A novel SARS-CoV-2 related coronavirus in bats from Cambodia
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.26.428212v1.full
Posted January 26, 2021.
日本に生息するコウモリからのSARS-CoV-2と近縁のコロナウイルスの発見(このウイルスは、Rc-o319と名付けられた。)
Emerg Infect Dis. 2020 Dec;26(12):3025-3029. doi: 10.3201/eid2612.203386.
Detection and characterization of bat sarbecovirus phylogenetically related to SARS-CoV-2, Japan
https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/26/12/20-3386_article
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20201104-2.html

今後、このようなコウモリのウイルスが、ヒトに感染し、第2、第3の『新型コロナウイルス』として猛威を振るうことになるかもしれません。

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https://www.asahi.com/articles/ASN3B5TBRN3BUBQU007.html

ウイルスの起源を探索するための大規模な野生動物の捕獲・調査では、その全てのウイルスを分離・培養することは困難です。
サンプルの数の問題だけではなく、サンプルを収集する過程での凍結保存により、ウイルス粒子が壊れてしまう可能性が考えられます。
また、ウイルス粒子を壊さずに保存できたとしても、感染感受性動物(細胞)が存在しないために、分離・培養することができないかもしれません。

『新興感染症のホットスポット』とも呼ばれる東南アジアには、多種多様な動物が生息しています。
コウモリの種類に関して言えば、世界には1100種類以上のコウモリが生息していますが、その25%以上が東南アジアに生息していると言われています。(日本にも35種類のコウモリが生息しています。)

これまでに、(当然のことではありますが、)コウモリ由来のコロナウイルスはコウモリ由来の細胞で培養できることが報告されています。

コウモリの小腸由来の細胞を用いた培養系の構築
Nat Med. 2020 Jul;26(7):1077-1083. doi: 10.1038/s41591-020-0912-6. Epub 2020 May 13.
Infection of bat and human intestinal organoids by SARS-CoV-2
https://www.nature.com/articles/s41591-020-0912-6

スクリーンショット 2021-03-11 21.45.21

しかしながら、ある一種類のコウモリ(例えばRhinolophus shameli)の細胞を採取し、Rhinolophus shameli由来のコロナウイルス(RshSTT182)の培養系を構築する。Rhinolophus affinisの細胞を採取し、Rhinolophus affinis由来のコロナウイルス(RaTG13)の培養系を構築する。Rhinolophus malayanusの細胞を採取し、Rhinolophus malayanus由来のコロナウイルス(RmYN02)の培養系を構築する...。これは大変です。

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コウモリだけではなく、2017年8月から2018年1月の間に中国南部の税関で押収されたマレーセンザンコウ(Manis javanica)からも、SARS-CoV-2とよく似た特徴を持つコロナウイルスが見つかっています。(このマレーセンザンコウは、コウモリからヒトへの『中間宿主』であると考えられています。)

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Nature. 2020 Jul;583(7815):282-285. doi: 10.1038/s41586-020-2169-0. Epub 2020 Mar 26.
Identifying SARS-CoV-2-related coronaviruses in Malayan pangolins
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2169-0

分離・培養をベースにしたウイルスの起源の探索が非常に困難な作業であることは、想像に難くありません。

現在では、次世代シーケンサーを用いることにより、ウイルスの分離・培養をしなくても、未知のウイルスを発見することができる手法が確立されています

RaTG13やRc-o319も、この手法を用いることで、全ゲノム配列が明らかになったウイルスです。
せっかくこんなに素晴らしい技術がある訳ですから、使わないのはアホですよ。笑

スクリーンショット 2021-03-11 0.20.40

未知 RNA ウイルスを培養なしで検出および同定https://jp.illumina.com/content/dam/illumina-marketing/apac/japan/documents/pdf/appnote_afrims_rna_viruses.pdf

この新しい技術、次世代シーケンサーを用いて発見された『RaTG13』に関して、Dr. Wu Zunyouは「彼らはウイルスを分離しませんでした。」、そして、「それは問題です。」と言っているのです。

(1:36〜)
Reporter「Why has the data not been shared?」
訳)データが共有されていないのはなぜですか?
Dr. Wu Zunyou「They didn’t isolate the virus. That's the issue.」
訳)彼らはウイルスを分離しませんでした。それは問題です

ちなみに、私も決してコッホの原則を軽視している訳ではありません。
例えば、RaTG13のように、SARS-CoV-2の起源を考える上で重要な遺伝子配列を持つウイルスが見つかったら、再び現地に赴き、生きている動物からウイルスを採取し、構築した培養細胞系で分離・増殖させ、実験動物を使って病原性を再現することは必要だと思います。
Dr. Wu Zunyouの言うように、それが発見から1年以上経過しても行われていない(行われたかもしれませんが未だにその情報が公開されていない)のは『問題』だと思います。

Dr. Wu Zunyouの言う、ウイルス=RaTG13です!!
SARS-CoV-2ではなく、SARS-CoV-2の『起源(Origin)』を明らかにする上で重要と考えられるコウモリのコロナウイルス『RaTG13』の話ですよ。

これが、Dr. Wu Zunyouのインタビューの前半の発言の『真実』です。

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武漢の生鮮市場は、アウトブレイクの最初の拡大に関与したと考えられていますが、SARS-CoV-2の起源については、今後も調査が必要です。

しかしながら、現在、生きている動物のサンプルを解析しても、既にヒトで蔓延したSARS-CoV-2が、再びコウモリなどの動物に感染した可能性を完全には否定できません。
したがって、現在、生きている動物のサンプルの解析からSARS-CoV-2の起源を明らかにすることは困難であると考えられます。

2010年のカンボジア、そして2013年の日本のコウモリの例のように、アウトブレイクより前に、各国の研究機関に凍結保存されていたサンプルを調べることでしか、SARS-CoV-2の『真の起源』を明らかにすることはできません。

それが、インタビューの後半、「(生きている動物のサンプルは、)あなたに(ウイルスの起源について)何も教えてくれません。」、そして、「(仮に99%以上一致するウイルスが見つかったとしても、)それが私たちが最初に考えたものから来ているとは思いません。(=既にヒトからその動物へと感染したものかもしれない。)」というDr. Wu Zunyouの発言に繋がっています。

Reporter「What about live animals sample?」
訳)生きている動物のサンプルはどうですか?
Dr. Wu Zunyou「It doesn't tell you anything. I do not suspect it's coming from what we originally thought.」
訳)それはあなたに何も教えてくれません。 それが私たちが最初に考えたものから来ているとは思いません。

ここまで解説すれば十分ではないでしょうか?

中国CDCのの主任疫学者Dr. Wu Zunyouが、「SARS-CoV-2が存在することが証明されたことは一度もない。」と発言した、というのはデマです。
騙されてはいけません。

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ソース=TwitterやFacebookは最悪です。『孫引き』もダメ!
今でも『新型コロナウイルスは存在しない』と信じる人は、そんな情報に頼るのではなく、『一次情報』(学術論文や、今回の場合はインタビュー動画)をきちんと確認するようにしましょう。
騙されないためには、英語も勉強してください。

以上。

ではまた。

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