【新連載】『本郷隼人の Originals & Covers』 #0001 『さらばシベリア鉄道』
『さらばシベリア鉄道』
作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一
〝大滝〟詠一の歴史的名盤、通称「ロンバケ」こと『A LONG VACATION』は全体に夏のイメージのアルバムだが、ラストのいわばアンコールとしての『さらばシベリア鉄道』は、一転して厳冬の曲。しかしこれが無ければロンバケはあそこまでヒットしなかったはずで、画竜点睛というのはこういうものかという名曲だ。
筆者も含め初めて同曲に出会ったとか耳馴染みがあるのはこのロンバケ=大滝版という方が多いと思うが、オリジナルは先立つことちょうど4ヶ月前1980年11月21日にリリースされた太田裕美の同名シングル。つまり大滝版はいわゆるセルフカヴァーなのだが、ここに〝いわく〟がある。
もともとは大滝がロンバケ収録のためにすでにレコーディングを済ませていたものの、様々な事情で太田に提供されることとなった。
凄いのは先行した太田版における「歌い方」までもが実は大滝がレコーディングを済ませていたそれだったそうで、あらためてロンバケ用にわざわざ歌い方を変更しレコーディングをし直したとのこと。実に〝らしい〟エピソードだ。
さてもう一つ必聴なのが、これも〝大瀧〟詠一作品『熱き心に』も歌った小林旭によるカヴァー。
太田版とも大滝版とも異なるいかにもこれぞアキラ節でうれしくなってしまうのだが、秀逸なのはそのタイトルが『アキラのさらばシベリア鉄道』となっていること。
これも大瀧の提案だそうで、小林が日活で「渡り鳥」や「風雲児《マイトガイ》」として銀幕で大活躍し多数の楽曲を続々レコーディングしていた頃の、例えば『アキラのズンドコ節』や『アキラのデカンショ』などをリスペクトしている。
かねてより〝アキラ〟が好きすぎてその歌唱を前提としたCM曲のオファーがあった際に作曲活動休止中だったにも関わらず断れず、アキラのスケール感から作詞は「松本(隆)じゃ駄目だ」と言い放ち、その『熱き心に』のレコーディング時には緊張のあまりろくに会話も出来なかったという大瀧詠一。アキラへの愛、文字通りの熱き心にを感じるこだわりだ。
本連載は私がかつて書籍や雑誌記事のライターとして活躍していた頃の「本郷隼人」名義、現在は「大衆文化研究家」としてお届けします。
なお本稿は現在もマスター業を営む阿佐ヶ谷のバー『浪漫社』でかつて発行していたフリーペーパー『ろまんしゃ通信』の同名の連載、2017年6月5日号からそのまま引用しました。
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