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その道はどこへ? 攻撃的な出願と防御的な出願

昨年来、出願にかかわるインドの方々とお話を続けているうち、ふっと気にかかってきた言葉があります。それは、攻撃的な出願(戦略)防御的な出願(戦略)という表現でした。

自分なりに考えた結果、「アップルはスマートフォン市場において、防御的な出願戦略をとっている」という結論にたどり着いたので、皆様にご検討をいただければと思います。

私は、「攻撃的な出願(戦略)」と「防御的な出願(戦略)」を、下記のように定義しました。

【攻撃的な出願(戦略)】①ライセンスを行うことを念頭に自社の出願ポートフォリオを充実させる場合、②同じくライセンスを行うことを念頭に他社の出願領域に自社技術を出願する場合は「攻撃的な出願」である

【防御的な出願(戦略)】③技術の独占を目指し、クロス・ライセンスの必要が生じる場合以外ライセンスは行わない方針で出願を行う場合、および、④他社の権利取得を妨害するために出願のみを行い、権利化を行わない出願「防御的な出願」である。

なぜ、このように定義したのかを順を追ってご説明します。

まずは、国の法制度によって多少の差異はあるものの、特許出願が有する効力を確認しましょう

① 自己の保有する特許権に記載されている技術を用いて製品の製造や販売を行っている相手に対しては、その特許権に記載されている技術の使用をやめるよう請求することができます。

② 自己の保有する特許権に記載されている技術を用いて製品の製造や販売を行っている相手に対しては、その特許権に記載されている技術の使用に対して、ライセンス契約を締結し、使用を許諾することができます

③ 他社から、他社の保有する特許権に記載されている技術を用いて自社が製品の製造や販売を行っていると主張されたとき、先行して開示されている出願(必ずしも自社の出願でなくてもよい)の存在を指摘し、当該他社のほう有する特許の無効を主張することができます。

これを整理すると

①(差し止め)は「自分しか作らない」という宣言であり「模倣品対策」に近く、「防御的」戦略に入ると思われます。この戦略は、他社の技術の使用を止めるため、「マーケットの成長・ビジネスの成長」を強くは追及しない場合にフィットしているでしょう。

②(ライセンス)は条件次第で、攻撃的にも防御的にも使えます。しかしながら、基本的には自分以外の「他社」に技術の使用を認めることは、「マーケットの成長」を促進させる結果を持つので、自社の成長に対して貪欲と評価して誤りではないと思われます。

さて、ここまできて、「アップルのとっている戦略は防御的な出願戦略だ」という私の見解にご納得いただけたでしょうか?

アップルの買収について相当詳しい方か、スマートフォンというマーケットに詳しい方は、「それは違う」という反論があるのではないかと期待しております。(ぜひ、taketo@kawaseipar.com までご連絡ください)

私の中では、「アップルのとっている出願戦略は、防御的な出願戦略である」という言明は、1点前提条件があり、1点、修正の余地があると考えております。

一つの記事があまり詳細になるのは望ましくないと考えておりますので、ここでは簡潔に述べておきます。

追記すべき前提条件は、この話は「スマートフォン」という特殊な業界、それも「成長しきった」業界に限った話であるということです。

修正の余地がある点は、M&Aです。これは、「攻撃的な出願」の一例のように思われます。

皆様、どのようにお考えられますでしょうか。

2021年1月2日

川瀬健人

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