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フリーレンわからない問題

『葬送のフリーレン』を見て、設定がよくわからない人がけっこういるようだ、という話題が流れてきました。

例えばエルフといえば長命というような、暗黙の了解となっている部分。

この作品はファンタジーの定番をひねってみせたところに面白さがあるので、暗黙の了解前提でお話が構成されています。なので、よくわからないとなる人もいるでしょうね。ファンタジーの教養が求められているというか。僕もそこまで詳しくないので、割とギリギリの読者だと思います。

そしてこれは、よく起きる問題です。ジャンルを問いません。

例えばサッカー漫画の金字塔として『キャプテン翼』がありますが、オフサイドトラップが必殺技的に扱われています。当時はJリーグ発足よりも全然前。サッカー人気も全然で、日本代表の試合もろくにテレビ中継されていませんでした。読んでいる子供がサッカーのルールも戦術も詳しくないので、「オフサイド? なにそれ?」となって、必殺技として成立する。

現在ではサッカー漫画はサッカーが好きな読者を想定しているので、オフサイドは知っていて当然の扱い。ハッタリに使うことはほぼありません。

SFだったらどの辺の作品が当たるかなと考えたんですけれども、『横浜買い出し紀行』なんかは、SFのディストピア系の設定がわかっているという前提で、衰退した人類文明が描かれてますね。何でこんなことになっているかの説明がほとんどなく、話が進んでいきます。その前にSFブームがあって読者の知識のベースラインが上がっていた。

というように、読者のベースラインを想定して話を作るというのは普通のことです。そして人気ジャンルになればなるほど、そのベースラインが高くなっていく。ここでジレンマが発生します。あまりベースラインを高くすると、ついてこれる読者の数を絞ってしまう。どの辺で お話を作るかというのは、掲載される媒体の様子など、いろいろ考えて決める戦略的な要素です。

ここ、本当に悩みますよねえ。まず手に取ってくれるのは、そのジャンルが好きな読者なので、「わかり切っていること」にページを割くと冗長な感じに捉えられてしまう。でも広げようと思ったら、よく知らない人でも楽しく読めるようにある程度説明を入れないといけない。このバランスは難しい。

そういう点では『葬送のフリーレン』という、けっこうファンタジーのベースライン高めの作品が、週刊少年サンデーに載ったというのはなかなか思い切ったなあと思います。

そしてアニメになって人気がさらに出たために、そういう前提条件がわからない人も見るようになっている。フリーレンの場合、設定がわからなくてもとてもいい雰囲気で作られているので、ここで逆に興味を持って、他のファンタジー作品を読んでくれるようになると、作り手側としてはしてやったりだよなと思いました。そういうことも 起きてるのかな。

(ブログ『かってに応援団』より転載)

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